『ジャングル大帝』レビュー

最終更新日: 1999/秋ころ (2005/03/13 微修正)


第3話「動物学校」(1965/10/27放映)、第13話「密林の大合唱」(1965/12/29放映)、第16話「燃える河」(1966/01/19放映)

脚本クレジットは残存せず

ストーリー: ジャングルの平和を願い、動物間の調停活動や、金もうけのために動物を殺す人間との闘争の先頭に立つ、白いライオンの子レオ。 第3話ではジャングルに不時着した動物学者「ケンイチ」との交流、第13話では父パンジャを殺したハンター「ハム・エッグ」との闘い、第16話では落とした宝石を探しに来る泥棒との一悶着と、雪室氏の手がける脚本は人間との関係を描いた話が多い。 「ジャングル大帝」は雪室氏のアニメデビュー作であるためか、必ず2人組で、しかも second author (名前が後に出てくる方) になっている。

感想: いや、驚きました。これが日本のカラーアニメ第1作だなんて、いったいこれを越えている作品がいくつあるのか、困ってしまっています。
弱肉強食のジャングルに、民主主義的平和を持ち込もうとするレオ。この何とも危うい、いやほとんど無理と言ってよい設定に「じゃあレオは何の肉食って生きてるんだよぅ?」と思った私ですが、 ジャングルのいろいろな問題にごまかしなく対決していく姿勢にだんだん引き込まれてしまいます。これは雪室氏に限らず、メインの辻真先氏脚本の回でも貫かれています。 きっと元々、手塚治虫氏の原作がそうであったことを強く反映しているのではないでしょうか? 熱気あるアニメ黎明期のハイレベルの作家たちに囲まれて、才能に磨きをかけていたのだろうと思います。
しかしながら、雪室氏はインタビューでこの作品について「すべて絵が優先で、そのためにはドラマがメチャクチャになってもいいというプロデューサの思考が、ドラマ育ちのぼくには我慢ならなかった。」と、途中で降りてしまった事情を説明しています。
その分と言うべきか、「ジャングル大帝」の絵はとんでもなくすばらしいです。一つ一つのシーンの画面構成・色のすばらしさは芸術の領域に達しています。 特に第1話の25分間は制作者側の執念が伝わって来ます。ジャンルは全く違いますが「2001年宇宙の旅」を見るような、新しい表現手段を獲得した芸術家の興奮を見る思いです。
以上のようにいろいろな意味で、この作品から雪室氏の脚本を云々することは難しい、と感じました。ともかく、この30年あまり日本のアニメ界は何が進歩したのか? そんなことを考えさせられた作品でした。



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