職務質問に伴って強制捜査ができるのですか

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Last updated 2015.4.30mf
弁護士河原崎弘
質問
夜、11時頃、自転車に乗っていたら、警察官に止められました。私は、関係がないので、無視して行こうとしたら、警察官に手首を捕まれて制止させられました。結局、住所、氏名を言い、釈放されました。
しかし、考えてみると、手首を掴む行為は強制捜査(逮捕)であり、強制捜査は、令状があるとか、現行犯であるとか、法律に規定されている場合しかできないのではないでしょうか。自転車は私のものです。名前も書いてあります。

弁護士の回答

判例上、 強制捜査と任意捜査は次のように分けられています。

任意捜査有形力の行使はない 刑訴法198条1項
警察官職務執行法2条2項
有形力の行使はある必要性、緊急性があり、相当と認められる限度に基づく制約が弱い場合
強制捜査有形力の行使はある法律の規定に基づく重要な権利・利益の侵害・制約の場合 刑訴法197条1項但書き

任意捜査でも、判例上、相手の手首を掴むなど物理的有形力を使うことが適法と認められています。これにはつぎのようなものがあります。 ただし、次のような捜査は違法とされています。違法ではあるが、違法は重大ではないとして、その結果得られた証拠の証拠能力は認めています警察官職務執行法に基づく職務質問は任意捜査です。しかし、任意捜査でも有形力を行使できる場合があるのです。言い方を変えると、有形力の行使は、一部は、任意捜査とされているのです。
職務質問の際、警察官が、逃げようとする相手の手首を掴むことは、有形力の行使ですが、任意捜査とされています。従って、令状が不要なのです。
あなたの場合、警察官の手首を掴む行為を、裁判所は、適法と判断するでしょう。
以上の判例の考え方は、おかしな感じはします。裁判官は上に対し従順な人が多いのでこのような判例が集積されたのでしょう。
自転車に関する取調べで、警察官の行為が違法とされた場合と、適法とされた場合の判例を下に掲げておきます。

写真撮影(最高裁昭和44.12.24判決、根拠は警察法2条1項か )、ビデオカメラによる監視(東京高裁昭和63.4.1判決)、対話者に対する秘密録音(平成3.3.29判決)についても、同じような問題があり、任意処分であるが、必要性、緊急性があり、相当と認められる方法をもって行われるときは許される説(判例)、および、強制処分(それなら、法律の根拠が必要です)であるとする説があります。

判例
  1. 昭和52年10月31日東京高等裁判所判決
    午後九時五〇分頃、無灯火で名前の記載も防犯登録票の添付もない婦人用自転車に乗った男が警察官の間に一応簡単に氏名、住所、職業を答え、兄嫁のものを 借りて友人のもとに行くと言ったとしてもその職務質問が五分位で簡単にしか応答がえられず、その場を急いで立ち去る気配を示した場合、更に若干職務質問を続行する ためその者の左手を押え、さらに交通の妨害にならないよう左腕をかゝえて交差点近くの道路上から一米位離れた道端まで誘導することは警察官職務執行法二条一項にい う停止の方法として適法な職務執行と解せられるから、その際偶々バランスを失して自転車が転倒したとしても、これをもって警察官の違法な実力行使があったというこ とはできず、所論は採用できない。
    そこで進んで、本件における自転車転倒後の経緯について検討すると、被告人と山田巡査との掴み合いについて、そのいずれが先に暴行の行為に出たかについては、前 記のとおり両者の供述が全く相反し、それぞれ具体的な状況を述べるため認定は困難といわざるをえないが、前示のような山田巡査の供述の変転に対比し、被告人が逮捕 以来山田巡査の暴行が先行した旨を主張し、略式命令に対し正式裁判を以て争う一貫した態度をも併せ考慮すると、山田巡査の証言をもってしては、なお被告人が先に山 田巡査に暴行を加えたとするに若干の疑問が残るのであって、事の真相はむしろ、山田巡査が、被告人の左腕をかゝえ込んでいた際「お巡りさんも若いですね」と言われ たのに引き続き「こういうことまでする必要はないでしよう」と抗議されたのに興奮し、先に被告人の襟元を掴んで暴行行為に出たゝめ、被告人もこれを振り払うため咄 嗟に左手で山田巡査の胸元を掴んで四、五回ゆさぶったという経過であったのではあるまいかという疑いを拭い去ることができない。そして他に被告人が同巡査の適法な 職務執行行為中に先制攻撃を加えたと断定するにたる証拠は存在しない。そうすると、被告人の右の程度の暴行行為は山田巡査の暴行に対する正当防衛行為と認めるほか はない

  2. 昭和28年10月20日東京高等裁判所判決
    原判決挙示の証拠によると、原判示事実、特に原判示一〇月二〇日の午後○時三〇分頃原判示巡査部長塩谷喜一が文京区戸崎町九四番地先を警邏中、同区八千代町二八 番地先附近路上で自転車をおしながらぶらぶらしている被告人を発見、忙しい土地柄不自然のため不審に思い、被告人が八田屋という自転車屋でチエーンを修繕中に注意 して見ると自転車の後部泥よけに氏名が書いてあつたと思われるところが消えており且つ荷台や車台も大きく被告人が使用する様なものでないという感じがした。その附 近は製本屋が多く日頃から自転車の盗難が多いので、被告人のもつていた自転車が賍品ではないかと不審を抱き同自転車屋の前で「君は何処から来たか」、「この自転車 は誰のものか」、「何処に行くのか」等々の職務質問をして二、三問答があつた後、被告人は住所職業氏名年齢等を黙秘したので、同巡査部長は尚更不審を抱き、同所は 道路上で交通もあるので派出所迄同行を求めたところ、被告人は行く必要がないと答え、更に「そんなに住所が聞きたいのなら自分の家へ来い」と言いながら春日町の方 向へ歩き出したので、同巡査部長は仕方なくその家迄行つて見る積りで追従し、五〇米位歩いた地点から被告人が自転車に乗つて走り出したので駈足で追いかけたところ、 一〇〇米位行つた同区柳町二七番地先路上で被告人が自転車から降りて「何で俺の後を随いて来るのか」と言いながら平手で同巡査部長の左頬を殴打したので、暴行犯人 として逮捕すると言つて後から来た須藤巡査と共に逮捕しようとして自転車を押えたが、どんどん歩いて春日町の方に行くので、逃げられぬ様自転車をつかまえて被告人 の歩く方に行き、途中警邏中の藤田巡査も来たので、同区春日町二丁目一番地先道路上で三名共同して被告人の逮捕行為に移つたところ、被告人は「貴様は俺を不当逮捕 した」と言つて平手で同巡査部長の頬を殴りつけたことを認めるに十分である。而して右巡査部長の行為は警察官等職務執行法及び刑訴法による適法な職務執行行為であ つて何等職権濫用或は人権蹂躙の行為ではないから、之に対する被告人の右行為が刑法第二〇八条の暴行罪にあたること勿論である。
参考条文

【刑事訴訟法】第198条(被疑者の出頭要求・取調べ)
@検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
A前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
B被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
C前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
D被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

【警察官職務執行法】 第2条(質問) 
@警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
A その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
B前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
C警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。
登録 2004.8.8
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