平成15年11月5日

環境省自然環境局野生生物課 御中

財団法人 日本野鳥の会
会 長  小杉 隆

 平成15年10月6日付けで意見募集のありました、「移入種対策小委員会中間報告」に対して、下記のように意見を述べます。

●全体に対しての意見
 外来種対策は、経済活動等の人間活動のグローバル化がいっそう進んでいる現在、人間活動に付随して生じる生物の移動も大きくなり、生物多様性の保全の上で重要なものとなっている。現実に、自然生態系や人間への被害が生じている現在、対策に取り組むことは急務である。外来種対策について実効性を確保するには、新たに国内に持ち込まれる生物個体への対応と、すでに国内に持ち込まれ定着して問題化しているものへの対応へ分けて考える必要がある。
 新たに国外から国内に持ち込まれる生物個体に対しては、国の責任で水際での監視と規制を確実に実施する体制が必要である。一方、国内にすでに持ち込まれた生物については、飼育者等が組織、業者、団体だけではなく個人にまで広がること、被害の発生についても地域単位で特性があり、対応についても地域単位で体制をとる必要がある。また、生物多様性の保全は本来、地域生態系レベルでの保全を基礎に考えるべきであり、地域レベルでの生物多様性に関わる情報の蓄積と、保全体制が必要であることから、都道府県や市町村など地域の自治体が対応できる体制の整備を進めるべきである。
 したがって、関係法令との役割分担の中で、漏れがないように対応できるようにするだけでなく、関係法令にも生物多様性の保全の視点を加えた改正を行うことが必要である。また、国の法令だけでなく、将来は自治体の条例による規制が進むように、あらかじめ考慮しておくことが必要と考える。

●「はじめに」の文中に下記下線部を挿入する。
種が増加している。それらの生物により、在来種の捕食及び在来種との競合による種の生息数の変化と生態系の撹乱、交雑による遺伝的攪乱、農林水産業への影響、人の健康への影響等様々な影響が生じている。

(理由)
 種への影響と生態系への影響が生じていることが明確にわかるように記述すべきである。

●「はじめに」の文中に下記のように「脆い面を有しており」を削除し、下線部を挿入する。

 こうした生態系は外部からの生物種の侵入により種構成や生物相互の関係が大きく変容する可能性があり、それは島国で独特の生物相や生態系が形成されている
(理由)
 脆い面ではなにが起こるかわからない。具体的に記述する。

●「はじめに」の文中に下記下線部を挿入する。

 こうした外部からの生物種の侵入が人為的に生じている問題は、現在、我が国の生物多様性を脅かす主要因の一つとして認識されており、早急に対策を実施するための法制度を整備することが必要である。

(理由)
 新たな生物種が自然に侵入してくる限り、生物多様性の上では問題とならない。人為的に侵入が起こっていることが問題であることを明記する。

●1.現状と問題(1)問題に係る基本認識、に下記下線部を挿入する。
 外部から生物種が導入されることにより、在来種の捕食、在来種との競合、その結果としての生態系の撹乱と変化、交雑による遺伝的攪乱、農林水産業への影響、人の健康への影響等を生じさせており、問題となっている。
(理由)
 生物多様性保全の上からは、地域固有の生態系が変化してしまうことが問題であることを、明確にすべきである。

●1.現状と問題(1)問題に係る基本認識、の下記部分への意見。
 外部から導入される生物種は、ある地域に人為的(意図的又は非意図的)に導入される種(亜種又は変種を含む。以下同じ。)であって、当該地域を自然分布域とする
(意見)
 はじめにで「侵入」とあり、ここで「導入」という用語が突然使用されている。用語の使い方とその意味を明確にする必要がある。

●1.現状と問題(1)問題に係る基本認識、に下記下線部を挿入する。
 なお、在来種とは、本来的に、日本国内において地域生態系の構成要素となっている日本産の種をいうものである。しかし、導入の時期が不明確なものがあり、明確な判断
(理由)
 日本産の種であっても、地域に定着して生息していなかったものが人為的的に持ち込まれた場合は、外来種となる。

●1.現状と問題(1)問題に係る基本認識、に下記の部分を修正する。
(原文)
 をするのが難しい面もあるので、本報告では、以下、概ね明治時代より前から日本国内において生態系の構成要素となっている種を在来種ということとする。
(修正文)
 をするのが難しい面もあるので、本報告で対象とする外来種は、以下、概ね明治時代以降に日本国内へ侵入した種とする。
(理由)
 在来種の確認を得るのは困難な点がある。対象となる外来種について明確にするべきである。

●1.現状と問題、(2)外来種による問題点と事例、イ 在来種との競合・在来種の駆逐等に下記の部分を修正する。
(原文)
 単一の外来種が競合・駆逐により一定の範囲を独占してしまうことは、生物の多様性が損なわれることを意味している。
(修正文)
 外来種が競合・駆逐により一定の範囲を独占または他の生物が利用していた資源を使うことは地域生態系を変化させてしまうことになり、生物の多様性が損なわれることを意味している。
(理由)
 一定の地域で問題となる外来種は単一とは限らない。
 駆逐、独占に至らなくとも、生物相互の関係が変わり生態系が変化することは地域の生物多様性保全上問題である。

●1.現状と問題、(2)外来種による問題点と事例、エ 交雑による遺伝的攪乱に下記の部分を修正する。
(原文)
 また、種のレベルではないが、地域固有の遺伝的形質を持つ地域個体群に、異なる形質を有する個体を持ち込むことによる遺伝的攪乱も指摘されている。
(修正文)
 また、種のレベルではなくとも、亜種、地域固有の遺伝的形質を持つ地域個体群に、異なる形質を有する個体を持ち込むことによる遺伝的攪乱も生物多様性保全上問題である。
(理由)
 遺伝的多様性の保全の上では、交雑が容易に起こる亜種や地域個体群の導入の方がより問題が大きい。日本国内では、キジ、ヤマドリの放鳥事業が亜種の交雑を起こすとして問題視されており、輸入された大陸産のオオタカが野外へ出て本邦亜種と交雑している可能性があることが指摘されている。同種の海外からの輸入は極めて危険である。

●1.現状と問題、(5)外来種対策に関する取組の現状、ア 我が国における現行制度
(ア)海外からの生物の持込み に下記を追加する。
(追加文)
 日米および日ソ渡り鳥保護条約、日中および日豪渡り鳥保護協定では、鳥類の保護にとって有害な動植物の輸入規制を行うこととしている。
(理由)
 条約および協定の条文となっている。

●1.現状と問題、(5)外来種対策に関する取組の現状、ア 我が国における現行制度(ウ)外来種による生物多様性への影響の防除 に下記を追加する。
(追加文)
 日米および日ソ渡り鳥保護条約、日豪渡り鳥保護協定では特異な自然環境を有する地域の生態学的均衡を乱すおそれのある動植物の持ち込みを規制する措置をとることになっている。
(理由)
 条約および協定の条文となっている。

●1.現状と問題、(5)外来種対策に関する取組の現状、ア 我が国における現行制度についての意見
(意見)
(イ)国内における生物の取扱い、(ウ)外来種による生物多様性への影響の防除、の2項目を合わせて、現行国内法等による外来種対応として、外来種対策上の必要な施策が行なわれているかどうかという点から整理すべきである。

●1.現状と問題、(6)外来種対策に関する課題の下記の部分を修正する。
(原文)
 また、外来種による影響が不可逆的であり、定着した種が個体数を急激に増加させる可能性があることを考慮すると、外来種の利用や飼養に係る取扱いに当たっては、徹底した管理を行うことが重要であるとともに、外来種による著しい影響が確認された場合には、早期に当該外来種の防除等の措置を採る必要があるが、外来種による悪影響を防止する観点からこれらを確実に担保する措置はない。
(修正文)
 また、外来種による影響が不可逆的であり、定着した種が個体数を急激に増加させる可能性があること、外来種による悪影響を防止する観点からこれらを確実に担保する措置はないことを考慮すると、外来種の利用や飼養については原則行わないこととし、影響が少ないと考えられるもののみ徹底した管理を行うことことを前提に利用、飼養を行うとともに、外来種による著しい影響が確認された場合には、早期に当該外来種の防除等の措置を採る必要がある。
(理由)
 外来種の影響を確実に防止することはできないと考えるなら、予防の観点から原則禁止とすべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(1) 基本的考え方の下記の部分を修正する。
(原文)
 侵略的な外来種の影響は、その発端の多くが、ともすれば「無責任な人為」に帰結するものであることを肝に銘じ、
(修正文)
 侵略的な外来種の侵入による影響は、その発端の多くが、ともすれば「無責任な人為」に帰結するものであることを肝に銘じ、
(理由)
 まず侵入が起こることが問題であることをはっきりさせる。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(1) 基本的考え方の下記の部分を削除する。
(削除)
 なお、外来種の対策においては、「交雑」や「よそ者」を、それ故に排除すべき対象としているわけではなく、
(理由)
 外来種(人為的に侵入した種)個体による「交雑」はそれ故に生物多様性を喪失させることになる。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(1) 基本的考え方の下記の部分、下線部を追加する。
 外来種対策は、こうした外来種の全体像を理解した上で、外来種の生息状況の把握と特に生物多様性等への影響が懸念される侵略的な外来種に対する取り扱い業者や飼育者は許可制とするなど制度的な措置を中心に検討する必要がある。
(理由)
 外来種の導入、侵入、飼育状況の把握体制が第一に必要である。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についての意見
(意見)
 非意図的導入についても、飼料用穀物、パッキング材など導入が生じやすい事業については、監視の体制を事業者に求めることが必要である。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項について@の下記部分を修正する。
(原文)
@我が国に新たに外来種を持ち込もうとする者に、当該外来種の生態、利用形態、生物多様性への影響等に関する基礎的な情報を提出させ、国において、当該外来種が管理下を離れて定着する可能性や在来種等へ影響を及ぼす可能性について評価し、当該外来種による悪影響を判定する仕組みを設ける。
(修正文)
@我が国に生物種を持ち込もうとする者に、当該種の個体数(卵等も含む)、生態、利用形態、生物多様性影響等に関する基礎的な情報を提出させ、国において、当該外来種が管理下を離れて定着する可能性や在来種等へ影響を及ぼす可能性について評価し、当該外来種による悪影響を判定する仕組みを設ける。
(理由)
 外来種を国内に持ち込む場合は、数量まで含めて把握する制度が必要である。外来種が野外へ出る、あるいは定着する確率や影響をおよぼす程度は、持ち込まれる量にも大きく関係する。
 在来種と同種であっても、国外からの持ち込みは遺伝子の撹乱や、国内での密猟の助長を引き起こす可能性が高い。また、一度野外に放出された場合、追跡がほとんど不可能である。国外からの生物の持ち込みは、在来種と同種の場合は禁止すべきであり、持込まれた場合の厳重な監視は不可欠である。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項について@の下記部分、下線部分を追加する。
(修正文)
 判定に当たっては、生物多様性への影響を主に専門家の意見を踏まえることが必要であり、この判定が終了するまで、当該種の我が国への持込みを規制する。
(理由)
 専門家は、動植物や生態系について影響の判断が可能な体制をとること。対象となる種が多岐にわたることが考えられるので、特定の個人ではなく、学会等組織的に広範な意見を集約できるようにすべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項について@の下記部分、判定についての意見
(該当部分)
 なお、新たな科学的知見の充実等により、既判定種の評価が変わる場合が考え得ることから、外来種の悪影響の判定については、適宜、見直しが行えるようにする必要がある。
(意見)
 外来種の影響は、地域によって異なってくることが考えられる。もっとも影響が大きい場所を基準とすべきである。
 外来種は、生態情報等が不足しているなどで影響の判定が困難な場合が想定される。その場合は、予防原則から導入を規制するべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についてAの下記部分、下線部分を追加する。また意見を述べる。
(修正文)
A悪影響を及ぼすまたはそのおそれがあると判定された種については、在来種との接触が発生しないよう、その種の個体を利用しようとする者に対し適正な管理基準さだめ、その実施求める仕組みを設ける。この場合、当該利用者が適正に管理できる施設や能力を有していることを公的に確認するとともに、実際に外来種個体を利用するに際して、その利用状況を公的に確認できる仕組みが求められる。
(理由および意見)
 「適正な管理」、「公的に確認」とはどのようなことか不明である。適正な管理については、分類群や種群など生態的な特性に基づいた管理基準により判断すべきである。その公的確認ついては、当該利用者の居住する自治体で確認体制が必要と考えられる。
 多くの生物をあつかう業者の監視、指導はとりわけ重要となる。許可制にして管理すべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についてAの下記部分、下線部分を追加する。
(修正文)
 なお、外来種個体が野外に逸出してしまった場合の捕獲や駆除の実施については、当該個体の利用・管理者に対して、原因者負担の原則に則り、相応の責任を求めるという考え方が重要である。
(理由)
 駆除のみではなく、状況に応じて捕獲後の対象動物の取り扱いは考えるべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についてBの下記部分、下線部分を追加する。
(修正文)
B既に野外に定着し問題を生じているか、あるいはそのおそれがある外来種については、
(理由)
 野外に定着していることが問題であることを明確にする。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についてDの下記部分への意見
(該当部分)
D我が国に持ち込まれた外来種について、生物多様性等への影響の観点から、その状況を監視し、問題が生じた場合には緊急的な防除など早期の対応が採れるようにする。監視体制については、地域の関係者が調整し、役割分担を図ることが重要であるが、継続的な情報収集に当たっては、ボランタリーな調査への参加促進も重要である。
(意見)
 環境省管轄では、自然環境保全基礎調査の全種調査が重要な位置づけとなると思われる。
 河川水辺の国勢調査、田んぼの生き物調査など他省庁の全国規模での生物相調査がある。また、都道府県レベルでの生物相調査が行われている場合もある。これらの調査結果を集約するシステムが必要である。
 ボランタリーな調査としては、各地での外来種の目撃情報を集めることが考えられる。この場合も、種群や地域を設定して情報を集約するシステムを作ることが必要である。また、寄せられた情報がどのように使われるのか、外来種マップのような生息現況図としてのアウトプット、具体的な管理実施の実現体制と連動したものでないと、長期的に有効に機能しない。
 非意図的に持ち込まれた外来種の監視については、貿易港など国外からの陸揚げのあるところを集中して監視する体制が必要である。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(2) 制度化に当たり検討すべき事項についてEの下記部分への意見
(該当部分)
E外来種対策の重要性について国民に対して分かりやすくパンフレットなどにより普及啓発を図ることが必要であり、特に、動植物の輸入・販売等を行う動物取扱業者や個人飼養者等に対して、制度の内容等について積極的に周知を図ることが重要である。また、外来種対策についての関心と理解を高めるためにも、学校教育や生涯教育等の教育現場において、知識や技術を伝えることが重要であり、教材の整備や人材の研修・育成を行うことが必要である。
(意見)
 外来種対策の重要性の普及は、生物多様性保全の重要性を普及教育することに他ならない。生物多様性国家戦略にもとづいて進める環境教育の全体計画の中に取り入れるべきである。
 外来種に限らず、鳥獣による被害が問題になっているにもかかわらず、餌づけが行われている現状がある。餌づけのありかたや野生鳥獣との関り方についても普及を図る必要がある。
 販売、流通業者については許可制とし、特別に法律や飼育技術、販売時の注意項目などについての講習を義務付け、販売されたペットなどが逃げ出さないように指導を行うようにする必要がある。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(3) 制度化および対策の実施に当たって配慮すべき事項の@の下記部分への意見
(該当部分)
@制度化及び対策の実施に当たっては、現在の科学的知見、実行可能な実施体制等を勘案の上、優先度の高いものから早急に措置を講ずることが重要である。その際、外来種に係る基礎的な調査研究を充実させるとともに、調査研究に係る人材の育成・確保に努めることが必要である。
(意見)
 外来種の生態研究、生態系への影響については、調査研究プロジェクトを国の施策として企画し実施すべきである。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(3) 制度化および対策の実施に当たって配慮すべき事項のAの下記部分へ下線部を追加する。また意見を述べる。
(該当部分)
A制度の構築に当たっては、植物防疫法、林業種苗法、感染症法等の輸入時の措置に関する法律、動物愛護管理法、自然公園法、鳥獣保護法、種の保存法等国内の生物の取扱いに関する法律など関連する既存諸制度との整合性に留意しつつ、外来種問題への対処を進める見地から連携・協力体制を構築し、必要に応じて既存法令制度の改正など総合的に効果的な対策を推進することが必要である。
(理由)
 外来種に関する制度、法令は多岐に渡るが、既存する関連法や制度には生物多様性保全の視点が無いものも多い。これらの法令・制度との整合性を図るためには、既存法令・制度の改正も必要となると考えられる。特に、飼育・流通に関しては動物愛護法の改正による強化とが重要になる。
(意見)
 制度を有効に機能させるには、抑止となる十分な罰則規定が必要である。

●2 外来種対策に関する措置の在り方、(3) 制度化および対策の実施に当たって配慮すべき事項のCの下記部分へ意見を述べる。
(該当部分)
C輸入に関する制度を検討する際には、加盟国間の貿易関係を規律する世界貿易機関(WTO)との関係について留意する。
(意見)
 必要な規制は、確実に実施すべきである。生物多様性条約締約国会議などで、外来種対策についての国際的な合意形成の努力も行うべきである。

連絡先 財団法人日本野鳥の会
自然保護室 金井 裕
〒191-0041 日野市南平2-35-2
                                      TEL 042-593-6871
        FAX 042-593-6873