環境省自然環境局野生生物課 様

「移入種対策に関する措置の在り方について(中間報告)」に対する意見

ジャーナリスト・自然番組ディレクター
非営利団体カカポ基金代表
内田 泉

 前略。
 私はニュージーランドに在住し、この国の希少種保護、生態系保護、外来種政策について関心を持ち続けてきました。一昨年にはIUCN移入種スペシャリストグループ主催の国際会議に出席もいたしました。その観点より、中間報告に関し、以下のように意見を述べさせていただきます。

1)『はじめに』 9行目

現在、世界各国で認識されている侵略的移入種問題は、人間活動の発展と輸送・移動技術の向上により、爆発的な人的物的交流が進められていることに起因する。こうした交流は、人類が馬、船、鉄道、車、飛行機などの新たな交通手段を手に入れるたびに、飛躍的に伸びていったのであるが、今日ほどの規模は人類がはじめて経験するものである。そして、この規模は、今後も縮小することはなく、ますます拡大すると考えておくべきである。
中間報告においては、以下のように記されている。

『一方、人間活動の発展に伴い、人と物資の移動が活発化し、国外または国内の他地域から本来有する移動能力を超えて、人為によって意図的・非意図的に移入された野生生物種が増加している…..』

私は、この部分について(1)危急性、(2)これがますます広がりを持つ問題であり、一過性のものではなく、発展的に取り組むべき問題であること、の2点を組み入れていただきたいと思う。すなわち、下記のような文章を提案したい。

『一方、人間活動の発展と輸送技術の進歩に伴い、人と物資の移動が活発化し、国外または国内の他地域から本来有する移動能力を超えて、人為によって意図的・非意図的に移入された野生生物種が爆発的に増加している。それらの移入種により、在来種の捕食、在来種との競合、交雑による遺伝撹乱、農林水産業への影響、人の県境への影響等様々な影響が生じている。今後、人間活動がさらに発展していくに伴い、その影響がますます大きくなることは必至であり、日本の国益のため、および世界の一員としての責任を果たすため、今から発展的に対策を講じていくべきである。』

2)『はじめに』 17行目
法整備について、以下のように考える。

生物多様性条約に締約し、新・国家戦略において危機の一つとして位置づけていることからも、日本政府が移入種の問題に取り組む準備があるように見える。しかしながら、実際には何が行われているかというと、1999年にそれまで禁じられていた48種のクワガタの輸入が認められ、以来輸入許可種が次々と増えて、2003年3月までに505種のクワガタ、55種のカブトムシが解禁となり(第3回小委員会議事録より)、輸入された虫が遺棄・逸出した結果、国内の生態系を乱している。さらには国外においても保護種を輸入許可することにより密輸を促す、生態系を乱す、さらには密輸をしようとした逮捕者を出すなどのお粗末な姿を露呈している。また、日本のペット産業が空前の盛況を見せ、ありとあらゆるエキゾチックと呼ばれる生き物が、海外で害獣と認定されていようと、危険動物と分かっていようと、ペットとしてノーチェックで輸入され、飼育され、それが遺棄・逸出によって問題を起こしていることも周知の通りである。

中間報告案は国会において審議されるべき内容をきちんと表示しなくてはならない。そこで、日本の移入種に対する取り組みの現状が、世界の潮流から見て遅れているどころか、逆行している点もあることを率直にまずは認めるべきである。その上で、緊急を要する新たな法律の策定に止まらず、法の穴を埋めることが大切で、今後は検疫法など他の法律の改正や条例によって、2重3重の防止策をかけて移入種対策に取り組んでいくべきであることを、「はじめに」のところから論ずるべきである。

3)1.(2)オ 在来生物への病気・寄生虫の媒介等

霞ヶ関の養殖ゴイがコイヘルペスにかかって大量死された事件が報道されている。その後も、同じヘルペスにかかったのではないか、と思われる事例が大阪などから報告されている。輸入は止められたらしいが、これは人の財産へも影響があり、また健康にも影響していく事例と思われる。国内移動による汚染の広がりも懸念される。分かりやすい例でもあり、事例のひとつとして取り上げる価値があるのではないか。

4)1.(3)ア 野外への放出

釣り人によるブラックバスなどの放流、および種苗放流を事例として挙げるべきである。

5)1.(3)ウ 非意図的な移入

ここには、『…………昆虫類や植物を中心に多数記録されている。』とあるが、ここには是非、微生物や寄生虫の問題を加えるべきである。たとえば、下記のような形を提案する。

『……………昆虫類や植物を中心に多数記録されている。また、生物に付着あるいは内在する微生物や寄生虫が侵入し、在来生物等へ影響を与える事例もある』

上記のコイヘルペスの例を、こちらに挙げてもよい。

6)1.(5)ア 我が国における現行制度

 さまざまな法律が挙げられているが、どの法律がどんな生物の(ほ乳類、鳥類、昆虫類、植物等)どのような外来種対策に効果があり、また効果がないのか、非常にわかりにくい。特に、現行法でカバーできないために問題となってきた事例などを取り上げるべきであろう。ここは表などを添付して、一覧にして示すべき。

7)1.(5)イ 諸外国における移入種対策

『ニュージーランドでは二つの法により、種を指定して野外放出等を禁止している』とあるが、二つの法とは具体的に何を指すのか。私の理解しているところでは、外来種問題は、検疫法、自然保護法、HSNO法、資源管理法、生物安全保障法など、様々な法律によって何重もの網がかけられている。ここで野外放出の禁止だけを取り上げるのは、視野が狭いのではないだろうか。また、野外放出だけではなく、ニュージーランドにおいては国内移転も非常に厳しく制限されている。
ホワイトリスト式を評価することは良いと思うが、ニュージーランドの場合には、「外来種を持ち込まない」という基本方針が徹底しており、HSNO法の制定(1996年)以前から、新たな種を持ち込むということ自体に高いハードルがあることが国民に熟知されている。そのため、現在リスク評価を受ける種の数もそれほど多くはなく、その種が新生物(遺伝子操作生物等)である割合も高い。
日本と似て脆い島嶼生態系を持つことから、ニュージーランドの先進的な政策には学ぶべきことが多いが、その基本方針、基本認識をまず紹介するべきではないか。

8)2.(1) 移入種対策に関する措置の在り方 基本的考え方

文中に、

『外来種対策は、こうした外来種の全体像を理解した上で、特に生物多様性等への影響が懸念される侵略的な外来種に対する制度的な措置を中心に検討する必要がある。』

とあるが、これでは、国として移入種に取り組む方針に、「人の健康や人の財産への影響」が入らないことになってしまう。つまりは、これが環境省管轄のみの話となってしまい、他の省庁を完全に巻き込んだ形での総合的な『外来種対策』にならないのではないか、と懸念する。生物多様性を守るために、早急な計画・実行が求められているのは分かるが、長い目で見た場合、ここで国全体の責任を明確化しておかないと、いつまで経ってもイタチごっこになってしまうだろう。

9)2.(1) 基本的考え方

また、

『なお、制度的な規制の対象とする移入種の種類については、それが特定できることが必要であり、国内の在来種のリスト作成状況等を勘案して決める必要がある。』

とあるが、リスト作成は必要であることは当然であるが、移入種の規制は危急の事態である。そこで、以下のように提案する。

『なお、制度的な規制の対象とする移入種の種類については、それが特定できることが必要であり、国内の在来種のリスト作成が求められる。しかしながら、移入種の規制は危急事態であり、在来種リストの作成を待っていられる状況ではない。当面は全種に対して規制を基本とし、リストとの照らし合わせによる特定は、順次行っていくことができるような仕組みを作ることが大切である』

10)2.(1) 基本的考え方

また、

『移入種問題への対処は、国及び地方公共団体が中心となって当たるのが基本であるが、移入種に関わる人々が多岐にわたり、これら個々の人の行動が移入種の適正な管理の観点から極めて重要であることに鑑み、移入種を扱うすべての人が移入種に係わる問題を認識し、それぞれが必要な対処を行えるよう促していくことが必要である』

とあるが、国及び地方公共団体の役割が明確でない。特に、国内の移動における『国内移入種問題』は、地方公共団体の強力なイニシアティブが必要であろう。海外からの移入種問題、国内の移動による移入種問題に分け、それぞれの場合に国および地方公共団体がいかに責任を持つか、明確な方針を挙げていかなくては、実効性に欠ける。

また、生物の地域への導入を促進・実行している事業者(ペット輸入者、販売者、漁業関係者、緑化事業関係者等)もまた、移入種問題に取り組む主体となるべきである。今後は、『対処を行えるよう促していく』という曖昧な状況ではなく、罰則も含めた責任主体であることを明確に打ち出す必要があることを、基本的考えとして示すべきである。

11)2.(2) 制度化にあたり検討すべき事項

制度化するに当たり、国としての対策の基本方針をはっきりと示すべきである。

12)2.(2)-1 

『我が国に新たに移入種を持ち込もうとする者に、当該移入種の生態、利用形態、生物多様性影響等に関する基礎的情報を提出させ、国において、当該移入種が我が国へ定着する可能性や生物多様性等へ影響を及ぼす可能性について評価し、当該移入種による悪影響を判定する仕組みを設ける。』

この仕組みは移入種対策の要になるものである。が、膨大な仕事量になることが予想され、また専門家したスタッフを必要とする作業となるため、明確なビジョンを示す必要がある。例えば、環境省と農水省の一部からなる新組織を作る、あるいは役割分担をする、などの具体的な提言が必要ではないだろうか。

また、国内の移動による移入種問題に関して述べられていない。当面は、ブラックリスト式により早急に移動させるべきでない種を特定し、地方公共団体レベルで規制をかけるべきと考える。同時に、地方公共団体レベルで種リストを作り、必要なものは登録性にして、都道府県を越えて動物あるいは規制が必要な植物を移動するときには申請が必要という仕組みを作るべきだろう。

13)2.(2)-3

『防除実施計画の策定に際しては、関係行政機関、専門家、利害関係者等、地域の関係者の合意形成を図る仕組みを整備する。また、防除の実施主体は、国または地方公共団体が担うことを基本とするが、実施に当たっては、行政機関だけでなく、学識経験者や地域住民、NGO等、様々な立場にある者が連携、協力することが必要である。』

 防除実施計画は、非常にお金のかかる問題である。実施主体を国または地方公共団体とすると、手が回らず、結局は目の前で生態系が崩れ、希少種が絶滅していくのを見守ることになりかねない。ニュージーランドにおいては、予算のない希少種保護のために、自然保護省のスタッフ自らが希少種保護計画書を持って企業回りをし、予算を確保している。この希少種保護計画の中で、外来種対策も大きな部分を占めている。日本においても、現実に計画を実施していく上で、合意形成をし、様々な立場のものが協力をするばかりではなく、資金も集められる仕組みを同時に考えていくことが必要であり、ここに述べるべきであると考える。

また、移入種排除、撲滅、管理は、非常に難しく、さまざまな失敗があり得ることを計画に組み入れた、いわゆるリスク管理を念頭にしたものであるべき。したがって、防除実施計画においては『防除の目標、具体的な防除の方法、防除の実施体制、モニタリング、リスク管理等について』定めるとするよう提案する。

14)2.(2)-5 移入種情報収集について

 『監視体制については、地域の関係者が調整し、役割分担を図ることが重要であるが、継続的な情報収集に当たっては、ボランタリーな調査への参加促進も重要である。』

まずは、現段階で分かっている移入種問題、種の情報、各地の状況などを一括して取り扱う『移入種情報センター』および『日本移入種情報データベース』の創設が必要であろう。また、地域の人々によるボランタリーな調査はもちろん重要であるが、それを生かす専門家の養成も非常に重要である。現在の日本においては、環境コンサルタントという職業が、土木事業等のアセスメントにのみ使われている感があるが、移入種関係の環境コンサルタントの養成、大学との提携、および資格制の導入などを考慮すべきである。

また、ニュージーランドの自然保護省スタッフにかつて聞いた話であるが、ある事業予算を100パーセントだとすると、60パーセントはモニタリングに使われるということである。それだけ、事業の効果を計り、その後の監視をすることが重要ということである。重要であるが、非常にお金のかかる分野であることを明確にし、その予算をどこが負担するか、責任はどこにあるか、明確にすべきである。

15)2.(2)-6 普及啓発について等

動物の駆除を含む問題について、動物愛護の立場から反対する人も出てくる。また、駆除の方法について、毒などを使用することの不安を唱える人もいるであろう。移入種の防除実施計画において普及啓発は必要不可欠のものであり、かならず計画の重大な一部として盛り込むべきである。

また、水際チェックを徹底するには、一般の旅行客等も含め、一般国民の啓蒙が欠かせない。また、ペット飼育者が今後責任を持って動物を飼うように、徹底した教育が必要となる。
いずれの場合も、感情論、精神論ではなく、科学的事実に基づいて説得力のある論議ができるよう、十分な基礎データ集めが必要である。普及啓発に関しては、『移入種対策の重要性と制度の内容について、科学的データに基づき、普及啓発を図る』とするべきである。
一般国民の意見の吸い上げについても、考慮をする必要がある。普及啓発・合意形成を図っていく上で、ガラス張りの論議が求められる。また、パブリックオピニオンを求める場合、オーストラリアやニュージーランドでは、必ず主要新聞に公報が掲載される。日本においても、必ずメディア上に公報していくべきである。

16)2.(3)-3

『在来種、移入種とも当該移入種が適正な管理下にある限り失われることのなかった生命であることを十分認識し』

とあるが、ここで、動物愛護の立場から、駆除方法について最善を求め、動物に苦痛を与える方法による殺害方法はとらないことを明記するべきである。

以上。