環境大臣 小池百合子 様
農林水産大臣 島村宣伸 様

日本生態学会自然保護専門委員会
委員長 増沢武弘

特定外来生物等の選定に関する意見書

 
 日本生態学会は、外来種の侵入の現状や生態系・生物多様性への影響について科学的見地から深い関心を寄せており、2002年には「外来種ハンドブック」を発行し、外来種についての研究成果を広く社会が利用しやすい情報としてまとめこの問題に対する社会的関心の喚起に努めてきた。そして、2002年3月28日第49回大会総会において「「外来種管理法(仮称)」の制定にむけての要望書」を決議し、日本の生物多様性保全の観点から外来種を管理するための法律を制定することを要望した。

 2004年6月2日に公布された特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)に基づき、同年10月から、環境省および農林水産省によって規制および防除の対象となる特定外来生物等の選定に関する専門家会合が開催されている。法の運用の具体的な事項を定めた特定外来生物被害防止基本方針には、特定外来生物等の選定においては、生態系等に係る被害の防止を第一義にし、被害の判定に際しては国内外の科学的知見が活用されなければならない旨明記されている。しかしながら、現在進められている選定作業は、その一部においてこの基本方針に十分に合致したものであるとは言い難い。

 日本生態学会自然保護専門委員会は、現在進められている選定作業が日本の外来生物問題の解決に十分に資するものとするために意見をまとめ、以下の5項目について要望する。

 1.被害の防止を第一義にした選定

 まず第一に、すでに大きな被害を与えていることが科学的、社会的に認識されている種については可能な限り多くの種を取り上げ、被害の判定に関する検討を行うことが原則である。その上で、「選定の際の考慮事項」である執行体制、社会的・経済的影響を勘案し、その根拠となる知見を明らかにした上で、特定外来生物の選定を行うこと。

 2.科学的知見の有効な活用

 科学的知見の活用に関しては、蓄積している知見全体を網羅し整理した上で科学的知見を広く活用するが、査読付論文およびそれに相当する評価の定まった知見を重視しその他とは区別すること。また、「外来種ハンドブック」の日本の侵略的外来種ワースト100を考慮すること。

 3.選定結果の根拠の公表

 特定外来生物として選定された種については、選定結果の根拠とした被害その他に係る科学的知見、対策にあたっての執行体制、指定に伴う社会的・経済的影響に関する考慮事項についての説明を公表すること。

 4.「要注意リスト」の有効な活用

 今回の選定作業で「選定の際の考慮事項」のためにやむを得ず選にもれたが今後選定の議論の対象となる種のリストを作成し「要注意リスト」として公表すること。「要注意リスト」には侵入経路、被害に関する科学的知見、選定された場合とされなかった場合の両方について社会的・経済的影響を可能な限り明記すること。「要注意リスト」の作成においては、各分類群と関連する学会を積極的に活用すること。

 5.長期的視点に立った今回の選定の位置づけの明文化と以後の取り組みに関する年次計画の策定および体制の確立

 2005年6月の本法律の施行時において、長期的視点に立って今回の特定外来生物等の選定の位置づけを明らかにするとともに、以後の取り組みに関する年次計画を策定すること。また、時間的制約によって議論が十分あるいは全くなされなかった種に対する取り組みを明記し、そのための体制を確立すること。

2005年1月11日