移入種対策小委員会中間報告に対する意見
                              2003年10月5日

   森本 信生
  つくば市

 ○生物多様性保全基本法を整備すること
 生物多様性保全のために、法整備が徐々に行われつつあるが、生物多様性保全に関する基本となる法律が未整備である。いわば枝葉は作るが幹がないという、極めて跛行的な法整備の状況になっている。生物多様性国家戦略を核とした法整備を早急に行うべきである。現状は、国家戦略は、法整備を行わないためのアリバイづくりと批判されてもやむを得ない状況である。

 ○幕末以前の外来種を在来種とみなさないこと
 外来種の時間的基準を江戸幕府の開国に求めることは、一定の意味がある。しかし、それ以前に渡来した種を、在来種とするのは、生物学的には誤りである。どんなに時代を遡っても、人為的にもたらされた種は外来種である。さらに、生物多様性に悪影響を与えるとみなさなくてはならない種も存在する(たとえばモウソウチク、山羊)。したがって、開国以前にもたらされた種も、外来種とみなし、対策の対象種の範疇に含むべきである。
 なお、「概ね明治時代より前から」の「より前」という表現は、明治時代を含むのか含まないのか日本語として極めて曖昧である。50年も幅のあるものを境界線とみなす感覚にあきれる。また、「概ね」も曖昧であり、法律用語として適さない。

 ○既存の水際管理システムを活用すること
 外来生物の侵入防止のために、植物検疫、動物検疫、検疫、税関など既存のシステムが構築されている。これらの機関は、多くの専門家・ノウハウ・設備を有している。これらの機関との連携・活用を積極的に行なわなければ、確実、効率的な、水際管理が不可能となる。

 ○輸入規制対象種の選定には予防原則に基づいて評価し、NGOの参加を保証し、公開すること
 専門家による、判断が行われることになっているが、その選定基準について、具体的基準についての記載が全くない。予防原則にふれていることを高く評価するが、この原則に基づいて、判定が行われることが明記されてるとはいえない。規制対象選定に関わる客観的基準を生物の分類群ごとに定めることを強く求める。また、審査に用いるまたは参考にする個々の生物のデータは、すべて公開とし、決定の前にパブリックコメントを義務づけ、それに対する国の対応も理由を付して公表する。さらに、特定の専門家でなく、学会などのバックアップ体制を充実させ、NGOの参加をも保証すべきである。このようなことなくして、事実誤認や判断ミスを防ぐシステムは構築できない。

 ○すでに侵入した外来種の駆除は、国の責任において実施すること
 日本にすでに侵入した外来種の発生地は、自治体の境界とは無関係である。既発生地、とその近隣未発生地における一体となった駆除が不可欠であり、おのおのの自治体が単独に事業を行っても、効果は十分に期待できない。そこで植物防疫法にみられるように、実施に当たっては、国の責任をもって、蔓延防止策がとられるようにすべきである。ただし、それに要する費用は、原因者から、過失度などを考慮し応分の額の徴収をすべきである。

 ○輸入検査等にかかる諸費用は、輸入者の負担とすること
 外来種対策に要する新たな予算・人員の確保が不可欠である。国や自治体の財政を軽減するためにも、輸入に関わる検査や評価に要する費用は、受益者負担の原則とすべきである。これは、不要な輸入種を減少させる効果も期待できる。

 ○生物多様性・生態系に悪影響を及ぼす、またはそのおそれがある種は、輸入禁止とすること
 報告書では、悪影響のある種に対しては、適切管理を求めているが、その実効性に担保を欠いている。外来種は原則輸入禁止とし、輸入許可は公共的価値が著しく高い種と認められる場合のみ、特別に許可すべきである。その場合も、災害にも耐えうる完全閉鎖環境で行うとし、毎年、その状況を報告、公的機関による定期的な点検を義務づけるべきである。なお、これらの費用は輸入者が負担すべきである。なおこの節にある「我が国に新たに」(12頁下から5行目)は、すでに侵入したものは含まれないとの解釈の余地がある。削除を求める。

 ○事実誤認?
 「一時国内各地でみられたアメリカシロヒトリ」とあるが、現在でも、各地で行政機関によって本種の防除は行われている。たしかに1970年代後半のような大発生は沈静化しているかもしれないが、その後、年間発生世代数を異にする個体群の出現が報告されている。さらに、現時点でインターネットのGoogleを検索すると、3500件以上もヒットする。以上を考慮すれば、本種が過去の害虫であるかのような記述の正当性が疑われる。
(本種の発生が沈静化しているのなら、環境省は、現在も農薬散布を行っている自治体に対し、情報を提供し、市街地での不要な農薬散布を減らすよう働きかけるべきである。なお、アメリカシロヒトリが発生していたとしても、私は農薬による防除は行うべきでないと考えている。)