2004年8月7日

氏名:日本哺乳類学会会長 大泰司 紀之
所在地:〒060-0819 札幌市北区北19条西12丁目
北海道環境科学研究センター自然環境部野生動物科
日本哺乳類学会事務局

電話番号:011-747-3570
FAX番号:011-747-3254

 特定外来生物被害防止基本方針(案)に係る意見を以下のとおり申し述べます。

●基本方針全体に関するコメント
 特定外来生物被害防止基本方針(案)の法的基礎となる「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律案」には附帯決議がついて可決された。 法律案作成の段階で、多くの学識経験者やNGO・NPOから出された重要な意見の多くは、法律には直接反映されず、附帯決議に反映された形となったが、そ の附帯決議の内容が基本方針(案)にあまり盛り込まれていないのは大きな問題である。法律実施に係る人員・予算の確保等の体制整備や国内由来の外来生物へ の対応についてはまったく方針が示されておらず、また、非意図的導入の水際対策や緑化等対策における外来生物使用の回避などについても、より具体的な方針 設定が望まれる。これらは法律の規制範囲には入らないと解釈されるかもしれないが、現実的には大きな問題であり、早急な対応が望まれているものであるた め、是非とも基本方針には盛り込んでいただきたい。また、外来生物による生態系への被害防止対策の基本方針で第一義的に重要なのが、指針原則1の予防原則 であり、外来種のさまざまな影響に関する科学的な確実性が欠如していることを対策をとらない理由としてはならないことを指針の中に入れるべきである。これ は、外来種の影響が科学的に十分に立証されるまでには時間がかかり、その間に外来種の個体数増加や分布拡大が起きるため、予防的な措置を優先する考えであ り、種の選定や外来種の影響の評価を含めすべてに通ずるものである。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」は我が国初の生物多様性 保全を主眼においた外来生物の管理に関する法律となっている。本法律の本質である外来生物による在来生物への悪影響の防止を最重視し、一時的な社会経済的 効果に揺らぐことなく、真に我が国の生物多様性保全につながる基本方針を作り上げていただきたいと切に願うものである。

 ●部分的表現に関するコメント
1.被害防止の基本方針で、第一義的に重要なのは野外への逸出を予防することとあるが、第一義的に重要なのは自然分布域外への生物の持ち込みの制限であ り、次に野外への逸出防止であるから、記述の順序を逆にすべきである。また、輸入を制限するを導入を阻止するに変更すること。このことにより将来在来種の 国内移動の問題も視野に入れた表現になる。(2ページ)

2.「第1 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する基本構想 3 被害防止の基本的な方針」において、「既に定着し被害を及ぼしている特定 外来生物については、被害の程度と必要性に応じて生態系からの排除、封じ込め等の防除を計画的に実施する。」とあるが、定着した外来生物には計画的かつ順 応的管理が必要不可欠であり、「計画的に」を「計画的かつ順応的」とすべきである。防除の効果は事前評価が困難であるため、絶えずモニタリングし、その結 果を反映した順応的管理を行うこととし、対策が目標を掲げるだけで終わらないようにすることが必要である。(2ページ)

 3.「第1 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する基本構想 3 被害防止の基本的な方針」において、「外来生物の中には様々 な用途で利用され、例えば国土保全等の役割を果たしてきたものもあり、特定外来生物として規制を検討する際に、その役割について考慮することが必要であ る。」とあるが、「国土保全等の役割」が何を指すのかが曖昧である。「等」にはどのようなものが想定されているのか? 実際にはすでに生態系の一部として 機能している外来生物も存在するとは思うが、ここで曖昧な表現を用いて内容を曖昧にしておくと、産業へのメリットやレクリエーション機能などもなし崩し的 に含められてしまうことが危惧される。さらに、すでに生態系の一部として機能している外来生物の取り扱いに対して、どのような方
針で対応するのかは大きな問題であるにもかかわらず、「役割について考慮する」という表現にとどまっている。特定外来生物として順応的管理を進めながら状 況をフィードバックして対応を再考するなどの基本的な姿勢を明確にしておかなければ、安易な解決法として本来特定外来生物に指定されるべき生物への指定を 見送り、そのまま放置することが選択されかねない。また、法律の<附帯決議五 政府や自治体が行う緑化等の対策において、外来生物の使用は避けるよう努 め、地域個体群の遺伝的攪乱にも十分配慮すること。とも矛盾のないようにすることが必要である。(2ページ)

4.「第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項 1 選定の前提」の「イ」において、「微生物は当面の間対象としない」とあるが、油流出事故の際の バイオレメディエーションのように、意図的に特定微生物を導入する場合については対応が可能であり、一律に適応除外すべきではない。(3ページ)

5.「第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項 2 被害の判定の考え方(1)被害の判定」の「ア」において、「A生息地若しくは生育地又は餌動植 物に係る在来生物との競合による在来生物との駆逐」とあるが、生息地などや餌に並んで、樹洞営巣性の動物などでは営巣場所をめぐる競合が顕著であるため、 これを加えてはどうか。あるいは他にも重要な競合資源があるかもしれないので、「〜餌動植物など」とすべきである。また、「在来生物の種の存続又は我が国 固有の生態系に関し、回復困難な被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物を選定する。」とあるが、「我が国固有の」と限定すると適応範囲が極めて限 られてくるのでこの部分を削除するか、「我が国の貴重な生態系」などとすべきである。同様に「回復困難な被害」とすると適用範囲が極端に狭まるため、「回 復困難な被害」を「回復困難なまたは重大な被害」とすべきである。(3ページ)

6.「第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項 2 被害の判定の考え方(2)被害の判定に活用する知見の考え方」において、文面では国内に科学的 知見のあるものについては国外の知見がまったく活用できないようにも読める。必要に応じて国内の知見だけでは不十分な場合、国外の知見も準用できるよう に、1行目の「いずれか」を削除するか、「いずれか、または両方」と改めるべきである。また、科学的知見が十分でないことを理由に侵略的でないと判断する ことはできないため、予防原則を重視する意味で、「次の(いずれか、または両方)知見を活用し、予防原則に基づいて特定外来生物の選定を進める。」とすべ きである。(4ページ)

7.「第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項 3 選定の際の考慮事項」において、「〜入手可能性など特定外来生物の指定に伴う社会的・経済的影 響も考慮し、」とあるが、社会的・経済的影響を考慮する上では、「特定外来生物に指定されなかった場合の社会的・経済的影響」も十分に考慮すべきである。 指定されない生物については注意がほとんど払われず、さらには安全だとのお墨付きがついたものと判断される可能性があり、場合によっては、生態系等に係る 被害の拡大を助長することにもなりかねない。あくまでも生態系等に係る被害の防止を第一義とすることを強調するためにも、社会的・経済的影響に配慮した種 については、その旨を公表し、社会・経済状況の変動に伴い、絶えず選定の見直しにかける措置が必要と考える。また、こうした社会的・経済的影響の評価にお いては、社会科学分野の学識経験者等から意見を聞く体制を構築する必要がある。(4ページ)

8.「第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項 4 特定外来生物の選定に係る意見の聴取」(1)のアには、生態学などに加えて「分類学」、及び社 会的・経済的側面から意見を言える「社会科学者」を加えるべきである。また、イ以降で、「留意する」、「検討する」などが頻発するが、専門家などからの意 見の聴取は重要なので、より断定の強い表現に改めるべきである。また、聴取した意見については一般に公開すべきである。(4ページ)

9.「第3 特定外来生物の取扱いに関する基本的な事項 5 放つこと、植えること又はまくことの禁止」において、「既に野外に存在することで飼養等又は 譲渡し等に係らない特定外来生物を捕獲又は採取した直後に放つ等の行為は本法第9条の違反とはならないが」とわざわざ記述してあるのは、一部の外来魚の キャッチ・アンド・リリースを意図的に擁護しているように見える。また、哺乳類でも類似の事態が発生する恐れはあるため、この部分を削除し、以下の条文を 「捕獲又は採取後の特定外来生物の飼養等や譲渡し等についても、本法の規制が適用される。」とすべきである。(7ページ)

10.「第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項 1 未判定外来生物 (5)その他留意事項」のアにおいて、「その判 定に支障がない範囲で判定期間を極力短くするよう務める」とあるが、未判定外来生物の影響評価は非常に困難な作業となることが予想されるため、「その判定 に支障がないよう必要な場合は十分な判定期間を確保する。」などとすべきである。(12ページ)

11.「第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項 3 科学的知見の充実」1行目の「何よりも生物の特性〜」は、「何よ りも当該外来生物の特性〜」と明確化すべきである。(13ページ)

12.「第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項 3 科学的知見の充実」3段落目で「外来生物対策には、早期発見、早 期対応が重要であることから、平素から監視に努めるとともに、被害の発生を初期の段階で発見し、迅速に対応できるよう情報収集のための監視体制を専門家を 含む地域の協力を得て構築していくことが重要」とあるが、情報の早期収集にはできるだけ多くの監視の目が必要であり、「専門家」のみならず「NGO・ NPO」との協力による幅広いネットワーク作りが不可欠であり、文言を「専門家・NGO・NPO」拡大すべきである。(13ページ)

13.「第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項 5 その他 (1)非意図的に導入される特定外来生物への対応の考え 方」において、非意図的導入は直接的な規制の対象とならないとしているが、被害が大きくて明確なものについては、輸入の制限など意図的導入に準じた対応す べきである。(14ページ)

14.「第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項 5 その他 (3)経過措置の考え方」において、「必要に応じ経過措 置を設けるものとする」とあるが、特定外来生物に指定された場合、当該特定外来生物の大量放棄も想定され、継続飼養の手続きだけではなく、国や地方自治体 での引き取り処分などの措置も考慮する必要がある。(14ページ)

以上

発信者:間野 勉@日本哺乳類学会事務局
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