生物多様性保全の立場より、特定外来生物被害対策法の基本方針(案)について、下記のように意見を申し上げます。
1. 遺伝子の多様性の認識について
<該当箇所>「1 背景」(1頁)
<意見内容> 本来の移動能力を超えて、人によって導入される生物の中に、積極的役割を果たしてきたものもある、ということですが、家畜、 栽培植物、園芸植物、造園緑化植物等は導入した人の管理下にあってのみ人間に有益なのであって、在来の生態系に放逐された場合、影響の程度に差はあるもの の、基本的にいずれの導入された生物も生態系への問題がないと言うのは困難です。元々、同種の生物が分布しているところでも、その種の移動能力を超えて導 入することで同種間の遺伝的多様性の損失、遺伝的攪乱を起こすことが解っています。地域個体群の遺伝的な撹乱によって、どういった影響がでるのか という ことは生態学的な時間からすれば、人間の科学の歴史が二千年程度と極めて少ないため問題の表出には至っていないだけ ということも十分に危惧されることで す。国の内外、導入時期の新旧に関わらず、あらゆる生物の人為的な移動、あらゆる外来生物は生物多様性保全上の観点から問題がある ということを前提に踏 まえることが予防原則および外来生物の問題についての国民への理解啓発からも必要です。しかしながら今日の市民生活の維持のためにその有益性を認める生物 も存し、また都市生態系など特殊な環境下では外来生物が地域での生態系の構成生物となっている場合もある故に、外来生物のうち、明治維新以降に海外から導 入されたもののうち、特に影響が顕著なものについて外来生物として法律を制定しているとすべきです。
2. 国民へ理解の増進(教育機会)について
<該当箇所>「第5、4国民の理解の増進」(14頁)
<意見内容>外来生物対策を進めるために、各層の国民の理解と協力が不可欠であることについて記されています。この点については賛同をよせ るもので、また、多様な場での環境教育を活用し外来生物対策にかかる理解を高める努力の必要性は十分に理解できるものです。しかし、教育機関との連携の推 進について記述のあるものの、具体性に欠け、十分な方針となっていません。国内の多くの地域について、すでになんらかの外来生物が生態系に導入されていま す。故に必要となってくる外来生物対策において前提となる地域の生態系の理解のための教育、外来生物の問題が生物多様性の保全に与える影響についての教育 等、外来生物問題対策に必要な理解すべき課題について整理することが必要です。併せて、文部科学省と連携のうえで、学校教育での総合的な学習の時間におい て取り扱う等、具体的な教育機会についての設定と、そのための人材の養成・研修、教材の整備を検討するなど機会の活用についての取り組みも必要です。また 社会教育については、国民一般にむけての教育だけでなく、特に外来生物問題の根元となりやすい動植物取扱い業者や個人飼養者にむけて教育の機会を設けるな どの取り組みも必要と考えます。
3。特定外来生物受け入れ施設の設置について
<該当箇所>「第5,5その他(3)経過措置の考え方」(14頁)
<意見内容>特定外来生物に指定された際、既に飼養している者について、当該飼養等を継続するための諸手続に関し経過措置を設けるとされて いますが、飼養の許可条件を満たせないなど、特定外来生物に指定された既に飼養していたものによって当該生物の野外遺棄がなされることが予想されます。動 物の愛護および管理に関する法律における各都道府県条例での危険動物指定に際して、同様の理由により野外遺棄が増加した例も全国に多く、外来生物問題の対 策において逆行する結果を招くことが危惧されます。また、殺処分に賦す場合においても、一般の獣医師はその任を嫌がることも予想され、処分に際して混乱も 予想されます。そうしたことを防ぐために、各地方自体などと連携し動物愛護センター等を利用して特定外来生物の受けいれ、ボランティア獣医師による殺処分 をそこで実施する、代替の飼養者および使用機関をを斡旋するなど体制を整備するなどの措置が必要と考えます。
4. 国内外来生物の対応について
<該当箇所>「第5、5その他」(14頁)
<意見内容>外来生物について海外から導入されたものに限定し、特に国内での他の生息地への導入(=国内外来生物)について本法では規制し ていないために、固有性の高い生物の存する地域についても対応が図れません。国内外来生物に関しての規制については、その分布境での対策が困難であるゆ え、本法の対象を水際での対策が可能な海外からの外来生物に限定したと理解できます。関連する他の法律について、来年4月に予定されている自然公園法の政 令改正で、公園内の「特別保護地区」「特別地区」の動植物の持ち込みを原則禁止とすると報道されています。しかし「特別保護地域」「特別地域」と白地(国 立公園指定外)において境は不明確であり、本法と同様、対策は困難と考えられます。一方、例えば、固有種が多く生物多様性上重要な地域である小笠原諸島・ 琉球諸島・奄美諸島については島嶼であるゆえ、国内外来生物について港での規制(水際対策)が可能です。しかし、国立公園・国定公園に指定されているのは 島の一部であるため、前述の法改正では島内へ動植物を持ち込むことができ、困難な不明瞭な境での対策を強いられることが予想される。国内移動の問題につい て、自然公園法の政令改正だけでは不十分な対策であり、基本方針のなかで国内外来生物についての対策について触れておくべきです。
以上