2004年8月6日
環境省自然環境局野生生物課 御中
奄美哺乳類研究会 会長 久保悦夫
特定非営利活動法人 奄美野鳥の会 会長 高 美喜男
はじめに特定外来生物被害防止基本方針(案)に対する意見書
奄美大島におけるマングース駆除事業(環境省2000年〜)は,今年成立した「特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律」の目的の一つの防除対策のモデル的事業と位置づけられ,われわれは地元からその推移を注視してきた.この法律が施行されることによって,奄美大島のマングース駆除事業が一層推進され成功につながることが,この法律制定の大きな目標の一つと言える.また,この法律の施行によって,他の外来種(例えばノネコ,ノイヌ,ヤギなど)に対する対策が積極的に進められ,当地域に生息する希少種の保護や島嶼の生物多様性保全につながることが期待されている.このような観点から,具体的な施策を左右する今般の基本方針(案)に対して,下記のように意見を述べる.
全般について
基本方針のもととなる「特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律」における付帯決議に明記されている輸入生物実態把握,密輸対策,人員・予算確保,国内移動種対策,さらに非意図的導入に対する対策などが,この基本方針に具体的施策として十分に書き込まれていない.また,「生態系等への被害」の発見や恐れがない限り,防除対策が実施されないことは,予防的原則や早期発見・迅速対応の観点で手遅れとなってしまう.このことは,「生態系等への被害」の規定が曖昧なために,対策実施の判断が遅れる原因となる.一方,防除対策の内容は,従来の鳥獣保護法の有害駆除規定の範囲を超えていず,外来鳥獣や他の外来生物群に対して,根絶や封じ込めなどの戦略的対策としての発想が読み取れない.また,貴重な生態系保護などの観点で対策の急務な地域(例えば,島嶼や孤立地域など)の選定及びその地域での外来生物(例えば,ノネコ,ノイヌ,ヤギ,イタチや植物など)の総合的な対策が取上げられていない.これらは,全国レベルで特定外来生物に認定されない種でも地域的には生態系に重大な被害を及ぼしているためである.さらに,外来種対策は生態系の反応や影響を考慮しながら実施する必要があり,生態系管理として順応的に対策を進める必要があるが,このような発想の記述は認められない.
1.「2 被害の判定の考え方(1)被害の判定」(p3)
生態系等への被害判定を科学的に証明した段階では,外来生物の個体数増加と分布拡大の時間を与えてしまい,対策としては手遅れになる例が多い.あくまでも予防原則に則り,特定外来生物を選定する必要があり,この方が実効性と費用対効果からみて対策の効果が高くなる.したがって,新たな項目を次のように設定すべきである.「エ 定着の確認と被害の判定を並行して実施できない場合については、国内外を問わず同種,あるいは近縁種の既知の情報からア?ウの影響を及ぼすおそれのある外来生物を選定する。」とすべきである。」
2.「1 飼養等の許可の考え方」(p5)
許可不要の例外を設けるべきではない.遺棄や逸出等の防止や適正管理及び情報収集に役立てる必要があるため,特定外来生物を飼養等している場合,原則的にすべて許可制にすべきである.
3.「(2)飼養等の目的」(p5)
許可不要の例外を設けるべきではない.遺棄や逸出等の防止や適正管理及び情報収集に役立てる必要があるため,特定外来生物を飼養等している場合,原則的にすべて許可制にすべきである.
4.「5 放つこと、植えること又はまくことの禁止」(p7)
本法第9条の規定の実効性の確保を図るために,例外を設けるべきではない.
5.「1 防除の公示に関する事項(1)防除の主体と公示の方法」(p7)
「必要に応じて防除を行う」とあるが,防除の優先的な種や地域の選定をどのような手順で行うかが示されていない.定着の早期段階の場合,予防原則に則り,科学的被害の判定が不十分な場合でも,早期発見・迅速対応の観点から,費用対効果を高めるために防除に取り組む必要がある.予算や人員などの制限のある中で,緊急性,重要性,成功可能性などを考慮し,目標が達成されるまで取り組む必要がある.中途半端に取り組んで,対策が頓挫しないよう制度的な歯止めを設けるべきである.
6.「1 防除の公示に関する事項(1)防除の主体と公示の方法」(p7)
防除の公示や主体がどこにあるのか曖昧な表現で,国や地方などの関係,国の役割が明確でない.それぞれの役割や機能を明確にしておくべきである.現行においても,同一地域で国と地方(鳥獣保護法の有害駆除)で駆除が実施されている例があるが,外来種駆除(根絶,封じ込め,個体数低減)としては統一的に機能していないために,防除目標は達成されていない.特に,地方では予算措置が厳しい中で,被害がなくなり有害駆除の根拠を失うと駆除は実施されなくなり,駆除が中途半端に終了しており,個体数回復の余地を残してしまう.
7.「1 防除の公示に関する事項(1)防除の主体と公示の方法」(p7)
防除の公示は計画段階の公示だけでなく,防除の進捗状況を定期的に公示すべきである.その際,駆除頭数と駆除地域,残存生息数,被害動向,防除の評価,今後の対策なども公示すべきである.
8.「2 防除の実施に関する事項」(p8)
緊急的防除及び計画的防除の必要な種の発見や被害判定の通報システムや対策を立てる優先度の選定の規定がない.限られた予算と人員を理由として,緊急的対応や計画的対応がスムーズに進まないことは予想される.
9.「2 防除の実施に関する事項(2)計画的な防除の実施「ウ 土地所有者等との調整」」(p9)
法第13条の「主務大臣等は,・・防除に必要な限度に置いて,他人の土地若しくは水面に立入り・・させることができる」の内容に比べ,基本方針の表現は消極的になっている.これでは,土地所有者の理解が得られなければ,その土地での防除は不可能になる.他人の土地でも防除が可能な積極的な表現にすべきである.
10.「(3)防除の実施に当たっての留意事項 オ」(p10)
具体的に何を示すのかを想定できず,非常にあいまいな表現であり,例外を設けることになり,また防除反対の根拠を与えるため,この項目(オ)の記述は削除すべきである.
11.「(3)防除の実施に当たっての留意事項 カ」(p10)
在来種への影響や錯誤捕獲等に配慮する必要はあるが,あくまでも優先されるべきことは外来種防除の効率であるため,この項目(カ)は削除すべきである.外来種にとっても繁殖期前や繁殖中の個体駆除の方が駆除効率が高まる場合があるためである.
12.「(3)防除の実施に当たっての留意事項 ケ」(p10)
実際にそのようなことがあるのか不明であるが,あくまでも優先されるべきことは外来種防除の効率であるため,在来種への影響や錯誤捕獲等に配慮する程度の表現で良い.
13.「(4)防除の確認・認定」(p11)
鳥獣保護法は在来種保護が目的であるため,捕獲に関してさまざまな規制を設けるのは理解できる.しかし,特定外来鳥獣防除に対して,鳥獣保護法の規制をこのように細かく適用する必要はない.あくまでも優先されるべきことは外来種防除の効率であるため,在来種への影響や錯誤捕獲等に配慮する程度の表現で良い.
14.「第5 1未判定外来生物(1)選定の前提」(p12)
導入記録や未定着記録のリストを作成し公表する必要があるが,作成する予定であるのか?
15.「(4)判定に係る届出事項の内容」(p12)
なぜ情報提供を求めないのか?指針的原則の予防的アプローチから見ても,また,関係者の自覚向上のためにも,輸入・輸出者に情報提供させるべきである.その上で,主務大臣が科学的根拠に基づいて判定すべきである.
16.「3 科学的知見の充実」(p13)
監視体制や情報収集機関が必要であるが,具体的には,特定外来生物を発見した場合,どこに通報し,どこが対応するのかを示すべきである.
17.「5 その他(1)非意図的に導入される特定外来生物への対応の考え方」(p14)
「本法の直接的な規制の対象とはならない」という記述は不要で削除すべきである.非意図的種も現在重要で対策を求められており,後半の文章で対応すると述べているため.
18.「(3)経過措置の考え方」(p14)
経過措置として,具体的にどのような措置を考えているのか示すべきである.リサイクル法の時のように,施行以前の不法遺棄が増える可能性が多いにある.野外に遺棄される特定外来生物の個体数を増やさないために,対策を十分立てておく必要がある.
以上
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