2003年10月20日

 移入種対策小委員会中間報告案
 「移入種対策に関する措置の在り方について」への意見

1.移入種の現状と問題について
 現在、海外からほとんど何の規制もなく日本に輸入されてくるおびただしい数の動物について、生物多様性の観点から輸入を制限することは緊急的課題であると考えます。すみやかに実効性のある法制度がなされるように強く希望します。
 その法制度が実効力あるものとなるためには、関連する個別法の整備、および広く一般に問題が理解され施策に対する協力が得られる必要がありますが、本報告においては、それを具体的にどのように実現していくのか不明です。2の(2)における制度化の検討において、以下の点を導入されるように求めます。

2.移入種対策に関する措置の在り方

(2)制度化にあたり検討すべき事項について

 @水際対策について
 現在、昆虫を含めて約8億匹もの動物が国内に持ち込まれているとのことですが、誰が、どこが原産国の、どんな種を、何の目的で、どのくらいの数量、どのような経由で輸入しているのか、実態はほとんど不明です。この実態を把握することなくして対策は立てられません。人為的に導入された種がその地域の生態系にどのような影響を及ぼすかは予測不可能な点が多いことから、原則としてすべての生物種の輸入を届け出制とし実態を把握すべきです。
 そのことによって事務量が増えるというのであれば、税関にパソコンを設置し、持ち込んだ人が自ら、動物の種類と数、使用目的、流通経路等を入力する自己申告制を義務づけ、自動的にデータベース化していくというような措置を取ることも検討すべきです。
 特に問題を生じる可能性が高いと見なされる外来種については輸入を原則禁止とし、飼育を許可する場合は個体登録制を義務づけること、違反者には飼育禁止の措置を設けるべきです。
 また、種を特定し、事前に評価するにあたっては、誰がどのような手続きで評価するのか、もっと具体的にしなければなりません。「専門家」に照会をするとありますが、専門家だけでは、社会的・文化的な背景のある問題には対処できません。種の選定とリスク評価については、その輸入に利害関係のない第三者で構成されることを原則とし、科学的知見を有する専門家集団、学会内ワーキンググループ、自然保護・動物福祉のNGOなどを必ず含めた検討委員会を設けることが必要です。また委員の氏名と検討内容を公表する等、情報公開を行うこととすべきです。

 A個体管理について
 生態系に悪影響があると認められる種については、当該利用者が適正に管理できる施設や能力を持っているか、およびその利用状況等を「公的に確認」できるようにするとあります。これを環境省が直轄で実施することは、現実性がありません。
 たとえば現在、侵略的外来種に指定されるべきさまざまな動物が業者や個人の施設で飼育されていますが、それをすべて環境省に登録する場合、種の保存法と同じように自然環境研究センター等に委託するといった仕組みをお考えのことと思います。しかし、ワシントン条約対象種でさえ、登録書の偽造、違法使用、未登録がひんぱんに行われており、これを環境省に通報しても、動きは何ともにぶく、立ち入り調査さえままならない状況です。利用状況の公的確認のためには立ち入り検査が不可欠ですが、種の保存法でさえそれができていない状況で、それに加えて外来種対策でできるとはとうてい信じられません。
 外来種個体が野外に逸出した場合の駆除実施については、原因者負担を原則とすると書かれています。その原因者を特定するためには個体登録が不可欠ですが、同じくこの膨大な事務を環境省が担いきれるはずもありません。さらに、個体登録は、輸入・販売・購入・譲渡等、流通の全過程で所轄に対して行われなければならず、これに関わる事務が煩雑であれば、そのような事を課せられるくらいなら届出や登録をしないでおこうという者が大半になってしまうと考えられます。
 自治体に出先機関のない環境省が、これだけの事務をこなしていくことはほとんど不可能です。動物愛護法や鳥獣保護法といった環境省所轄の関連法の改正、整備なくして、運用上の実効性は担保できません。

 B定着した外来種への対策
 計画的な防除計画を立てる際、十分な合意形成の手続きを取ることを明記するべきです。片方でいくら防除しても、もう片方で遺棄、リリースなどが行われているのでは、無益な殺生を重ねるだけとのそしりを免れ得ません。地域住民の参加により、その対策の必要性への理解と協力を得ていくような仕組みが必要です。
 また、防除の実施に際し、国立公園や鳥獣保護区等における捕獲規制の簡素化をはかるとされていますが、これも問題です。現行の鳥獣保護法においてさえ、現場に監視の目がないために、密猟や違法捕獲は日常的に発生しています。安易な規制緩和は、混獲や密猟の引き金となり、かえって在来の野生生物を絶滅においこむおそれが出るなど、本末転倒になりかねません。
 被害防除に対しては、地方自治体が責任をもって基本計画を策定し、公的な機関が実施すること、および監視とモニタリングを行うこと、そして費用対効果を測定し社会的評価を受ける仕組みを設ける必要があります。鳥獣保護法では、国設保護区は環境省の管理(すべての鳥獣の捕獲許可も)、それ以外は都道府県の管理となっています。したがって、外来種新法でも、国立公園、国設鳥獣保護区における外来種対策は環境省の責任、それ以外は都道府県の責任で行うべきです。当然、別途、広域調整や資金メカニズムを国が責任もって行う必要があります。

 C特別管理地域について
 固有種の多い島嶼などは特別管理地域として緊急に対策をしなければなりませんが、特に、島嶼地域では、本州では冬を越せない爬虫類でも、南西諸島では容易に繁殖できるといった地理的・気候的条件を考慮し、国内移動に対しても制限を加えるべきです。

 D監視体制や継続的な情報収集
 外来種の導入や定着を日常的に見ることができるのは、そこに住む人々です。地域住民の理解と協力なくしてはいかなる対策も不可能です。その役割を担っていただくためには、日常的な啓発普及および資金的な支援の仕組みを設けることが必要と考えます。

 E実効性の担保と普及啓発について
 外来種問題の多くは、動物の飼育者が安易に動物を遺棄・逸出させることから生じています。何よりも、動物を大量に取り扱い、顧客に販売している動物取扱業者に対する啓発普及が必要です。動物取扱業の営業を許可制として、取り扱い種の届出や個体登録、繁殖制限(不妊化)措置などを義務付けることにより、業者の自覚が高まるとともに、販売・飼育実態を把握することができるようになります。また、一般飼育者に対しても、適正飼育や遺棄の禁止をはかるために、個体登録制を導入することが大きな効果を上げると考えます。
 個体登録の実施においては、すでに犬の登録制や危険動物の飼育許可制、個体登録制などを有している動物愛護管理担当部署との協力が必要です。
 これを実行するためには、動物愛護法の改正が必要不可欠です。飼育動物全般を保護管理するこの法律の改正によってのみ、動物の飼育者に対する啓発普及活動も根拠を持つことができます。また、動愛法の政令で飼育の許可制を定めている特定動物について、毒グモやサソリなどを含めるように、範囲を広げることも必要です。

(3)制度化および対策の実施に当たって配慮すべき事項について

 @優先順位について
 どのような種を指定するか、どのような制度を先に定めるかにあたっては、専門家のみならず、関連する分野の人々の意見をも採り入れ、社会的に容認されるような方法を取るべきと考えます。

 A他の制度との整合性
 法制度化にあたっては、前述のように、個体の所持・飼育管理に関しては動物愛護法に委ねることが最も実効性を期待できるものです。また、被害防除については鳥獣保護法における種の範囲を拡大することや特定計画制度の見直しなどによって取り組む必要があるでしょう。この機会に既存の個別法の改正を見据えた法制度の整備が必要です。
 外来種新法は、カルタヘナ法と同様に生物多様性の確保が主目的となりますが、その根底となる生物多様性保全法が未だ存在しないことは、今後の大きな課題です。
 守るべき日本の自然とは何か、外来種を排除してでも保護すべき在来の生態系とは何かという認識がなければ、外来種対策の必要性が国民に広く認識されることは困難です。
今後は野生生物に関わる保護法の抜本的整備を行うとともに、野生生物保護基本法の制定に取り組まれるよう望みます。
 また、長期的観点からすれば、環境教育や生涯教育の制度の中に、生物多様性に関する日常的な啓発普及活動を取り入れていく必要があります。

 B予防原則
 日本は個人あたりの野生動物の消費量は世界一であると言われています。海外の野生生物を大量に輸入しているという行為のしっぺ返しとして、この外来種問題が起こっているのは明らかです。さらに、野生動物の輸入は、海外におけるその動物の生息地の生態系のバランスを脅かし絶滅にも手を貸すという行為につながっています。自国の生物多様性の維持のみならず、地球規模での生物多様性の保全のために、日本が野生由来動物の輸入を厳しく制限することは、科学的も倫理的にもかなった正当かつ重要な施策であると考えます。

 CWTOなど
 日本の様な島国では、動物の輸入に対してよりいっそう厳しい規制を行うべきであり、自国の生物資源の確保と生物多様性の保全のために必要な措置であることを、国際世論に訴えるような強い姿勢があってもいいのではないかと考えます。

野上ふさ子
地球生物会議(ALIVE)
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