線維筋痛症の謎

The Mystery of Fibromyalgia

J Amer Chiropr Assoc(JACA) 2004 Jun;41(6):10-20
訳:栗原輝久;パシフィック・アジア・カイロプラクティック協会理事


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Gowersが線維筋痛症を炎症状態とみなし、これを結合組織炎と名付けたのは1904年であったが、 それよりずっと以前から、医学界は線維筋痛症と呼ばれる難治性の慢性痛症候群を知っていた。 しかし、合衆国リウマチ学会が最初の明確な診断上の定義を発表したのは1990年であった。

実際には四半世紀前に、今では線維筋痛症の中心的な要素である「圧痛点」について、 エジンバラの医師が報告している(1)。 1976年、この症候群の患者に炎症が発見できなかったことを科学者が認識したにもかかわらず、 線維筋痛症という名称が「結合組織炎」という誤解を招きやすい言葉に置き換えられてしまった(2)。

しかし初めて本症が記述されてから100年、その最近の名称が与えられてから殆ど30年、 そしてこれに診断上の特徴づけが行なわれてから15年が経過しても、線維筋痛症という名称は 理解しにくいままである。合衆国線維筋痛症協会(NFA)によると、 3~6%のアメリカ人に線維筋痛症症候群(FMS)がみられるが、 本疾患の隠れた病因については謎のままである。本症の診断を行なうことでさえ困難だが、 NFAは、FMS患者を正確に診断するには最長で4年かかることがあると報告している。

当初、合衆国リウマチ学会が線維筋痛症の診断基準を以下のように定めた:
 ・最低でも3ヶ月間に及ぶ四肢全ての広範な疼痛がある
 ・圧を加えた時に、18ヶ所の特有の圧痛点において
  最低でも11ヶ所の圧痛や疼痛がある

これらの18ヶ所の「圧痛点」の部位は、頸部、肩、胸部、臀部、膝、肘の部位に集中している。 これらの部位は:
 ・後頭下筋群が付着している左右どちらかの頭蓋底
 ・第5~7頸椎の間の左右どちら側かの頸部
 ・身体の左右どちら側かで、頸部から肩へと走行する筋
  (僧帽筋上部)の中心点
 ・身体の左右どちら側かで、肩甲骨上縁に沿って走行
  している棘上筋の起始部
 ・身体の左右どちら側かで、第2肋骨が胸骨と結合する
  肋骨上縁の部位ーこれは胸筋の中にある
 ・左右どちら側かの肘の外側で、突起(外側上顆)の直下部
 ・左右どちら側かの大きな臀筋の部位、中臀筋の前方で
  臀溝の上外側部
 ・左右どちら側かの股関節の大きな隆起(大転子?)の直下
 ・左右どちら側かの膝関節の内側直上部の脂肪の豊富な部位

患者の三肢に3ヶ月に及ぶ疼痛があるのならば、 あるいは四肢全てに18ヶ所中で9箇所の圧痛があるのならば、どうなのだろうか? この診断基準を厳密に解釈すると、彼女(線維筋痛症患者の約90%は女性である) に線維筋痛症がみられないということが示唆されるだろう。 「あるいは、彼女の調子が良くて、 圧痛点の1つに完全な疼痛というよりは過敏性があると言っている場合はどうなのだろうか?」と、 アイオワ州の州都・デモインにあるICON Whole Healthの先任スタッフのカイロプラクターで、 FCERの管理人でもあるRonald Evans,DC,FACO,FICCは疑問を呈している。 「圧痛点」が特定の日に全く反応しないのならば (我々は、線維筋痛症の患者には調子の良い日と悪い日があることが判っている)、 合衆国リウマチ学会の定義には当てはまらないだろう。

これを見た人々の殆どは、これを識別の基盤とするにはあまりにも狭義であると感じている。 最前線の検者と治療を行なっているドクターの心中には、この疑問が残ったままである。

今も尚、我々は、線維筋痛症に取り組んでいると全員が信じているが、 合衆国リウマチ学会の定義では、これは否定されてしまう。 私は、ACRはこの定義を再検証しなければならないと考えている。

1996年に発表された線維筋痛症の35人の専門家達の統一見解は一致している。 彼らは、この基準が調査目的のために創造されたものであること、 広範な疼痛と線維筋痛症に共通する数多くの症状がある限り、 (線維筋痛症の認定に)必要とされる11ヶ所よりも少ない圧痛点であっても、 線維筋痛症に罹患している多くの人々がいるだろうということに注目した。 線維筋痛症に共通する症状には以下のものがある:
 ・疲労感
 ・腸の過敏
 ・睡眠障害
 ・慢性的な頭痛
 ・下顎の疼痛
 ・認知や記憶の機能障害
 ・激しい活動後の倦怠感や筋肉痛
 ・朝の強張り
 ・月経痛
 ・痺れ感やチクチクする感じ
 ・眩暈や頭がクラクラする感じ
 ・皮膚などの化学物質過敏症

<何が原因なのか?>

「線維筋痛症症候群の患者の複合的で生理学的な異常を明らかにしている数多くの最近の研究によって、 原因論は過去数年間に急激に発達した」(Dr.Evans)。 「多くの学問領域グループにおける文献、証拠、議論は、その殆どが11項目の病因学領域に集中してきた」と、 彼は言っている。これらの理論は、全て線維筋痛症患者の所見を共通設定する、 という軌道上に集中している。これは象の回りに5人の盲目の人が立っているようである。 各人は自分が触れている部分基づいて、この野生動物について描写している。研究者達は、 線維筋痛症に関連した特定の症状に注目して、何故症状が存在するのかということに関して 理論を展開しているのだろう。

Dr.Evansによれば、線維筋痛症症候群の潜在的な原因として注目すべきもの、 調査、議論に関する11の領域‐幾つかのものは他のものよりもより信憑性がある‐ には、以下のものがある:

1.神経内分泌の異常。
「この議論の要点は、甲状腺ホルモンのアンバランス、下垂体ホルモンのアンバランスだ」 と彼は言っている。「我々は、殆どの線維筋痛症において、 ある種の甲状腺ホルモンのアンバランス、あるいはホルモンの減少、 そして稀にはこのホルモンの増加を発見した」通常、下垂体ホルモンや 成長ホルモンのレベルは、加齢とともに減少する。しかし典型的な線維筋痛症患者では、 これが30代や40代ではなく、20代で生じるだろう。 もちろん、これらのアンバランスが線維筋痛症を確かに引き起こすのか? この結果として線維筋痛症が生じるのか?という疑問は残る(4-6)。

2.睡眠障害によるセロトニンの減少
関連する症状が示されているように、殆ど全員の線維筋痛症患者には、 睡眠障害や真の休息となる睡眠の遂行障害がみられる。 ほとんどの線維筋痛症患者には、脳波形でのアルファ波の異常波形と呼ばれるものが 認められる(7)。殆どの線維筋痛症患者はあまり問題なく眠りに落ちるが、 第4段階の睡眠が覚醒状態のような脳活動の突発によって常に妨害される。 線維筋痛症のネットワークでは、「患者は、一方の足で眠って、 もう一方の足で覚醒して夜を過ごしているように見える」という意見を述べている。
「このセロトニン減少の結果として、エンドルフィンの疼痛調節作用の二次的な減退も生じる」 (Dr.Evans)。「それから、患者のサブスタンスP(訳注1)のレベルは徐々に増加するだろう。 このPが疼痛を表していることを我々全員が知っている。 身体組織のどこかにサブスタンスPが増加すると、疼痛の増悪が生じる。 連鎖的な反応があるために、セロトニンの減少はエンドルフィンの作用を低下させ、 サブスタンスPの作用を増強させる。結果として、患者の神経系は、疼痛感覚を調節することが 最早不可能となる。そしてこれによって筋の虚血、疼痛感覚が増強される」(8)

3.筋の微小外傷
「これは古くからある理論の1つである」とDr.Evansは述べている。 「微小外傷は細胞レベルでのカルシウム漏出へと至り、 その後これによって筋収縮が増強され、酸素供給が減少する。 我々が患者にカルシウムのサプリメントを補填する理由の1つが、これである。 血漿中のカルシウム・レベルの上昇には患者をリラックスさせる効果があるが、 その一方で細胞外でのカルシウムの増加や漏出では筋収縮が引き起こされる」(9)

4.疼痛調節障害
「これは、大学で教えられる神経学に注目することで多くのことが判るという説である」と、 Dr.Evansは報告している。「これは、線維筋痛症は中枢神経の障害だろうということを示唆している。 この説は線維筋痛症は神経系‐主に(感覚信号を適切に伝達する)大脳辺縁系‐ の障害の結果だというものである。 本質的に、これは患者が経験している事を脳へ求心性に伝える際に誤って報告してしまうことであり、 そして信号伝達を妨害しているこの問題は、 軽い接触でも患者が強い疼痛を知覚するということを意味している」(Dr.Evans)。
「また多くの研究は、この病因がかつては反射性交感神経性ジストロフィー(RSD) として知られている複合部位の疼痛症候群の現れであるという学説を探求している。 線維筋痛症患者にはRSDの一形態がみられること、そして四肢のどれか1つに関する限り、 線維筋痛症の客観的な所見と主訴は両方とも、RSDの徴候と同様のものであると、 研究者達は示唆している。この所見と主訴は、四肢の非常に大きな筋群に現れることがある」(10)

5.先天的障害
これは恐らく甲状腺の調節作用障害に関連するものである。 「この説と最初の説との間には毛髪一本ほどの差しかないだろう」(Dr.Evans)。 「最初の説では甲状腺の調節作用障害を物理化学や神経科学的な問題とみなしているが、 その一方で、この説では、このアンバランスが先天的なものだとされている。 この説を提唱している人々は、線維筋痛症は先天的な障害であるとして、 ある時点での遺伝子転写の不適切な調節にまで遥かにその由来をたどっている。 これによって、遺伝子医療や遺伝子マニピュレーションに向けた扉が開かれる」。
イリノイ大学、ワシントン大学などの数多くの研究施設の研究者達は、 線維筋痛症の家族的集積や遺伝子連鎖を意味するものについての研究を続けている(11,12)。

6.アレルギー、感染症、中毒、栄養不良
「これらの説は一般概念であり、原因不明疾患を表す色々と対応できる言い回しと共に 存在してきた医療従事者は本症を観察する際に20~30年にわたって、 この言い回しを用いてきた」(Dr.Evans)(13,14)。

7.休息中のCO2 レベルの低下
これは恐らく過換気の結果である。「研究者達は、線維筋痛症の徴候が体幹の前面、 後面の上2/3に現れるということに気づいている」(Dr.Evans)。 その意味では、線維筋痛症患者は、浅い反復性の呼吸パターンへと陥る喘息、肺気腫、 慢性閉塞性肺疾患の患者と違わないことになる。 血中の二酸化炭素濃度は、血中の酸素と関連している。CO2濃度の低下は、 脳のO2濃度の低下を意味し、その結果として辺縁系の機能異常を生じる(15,16)。

8.心因的、あるいは精神身体の状態
線維筋痛症の正確な診断についての複雑性、原因不明、困難は、 肉体的な苦痛というよりも心因性の何かによって訴訟へと至ってしまう。(Dr.Evans)。 「しかしこのことは変わってきた」とDr.Evansは述べている。 「これらの生体力学的な病因がいよいよ表面化してきているので、 この理論の信頼性は徐々に低下してきている」(Dr.Evans)(17)。

9.筋・筋膜痛症候群の強烈な発現
「筋・筋膜痛症候群は実際に存在するもので、 恐らく筋‐筋膜の接合点の器質性機能障害なのだろうということを、我々は知っている」 とDr.Evansは述べている。「線維筋痛症は、 筋・筋膜痛症候群の重要な形態の一つとなることがあるのだろうか? この考えでは、線維筋痛症での夥しい数の活性的な圧痛点は、筋・筋膜痛症候群と同じ部位、 あるいは類似した部位にみられる。
これらに圧を加えると、局所的に活性化する他に、末梢での非常な不快感が生じる。 筋・筋膜痛症候群と線維筋痛症は、ある特定の段階では互いに見分けがつかない」(18)
Dr.Evansは、筋・筋膜痛を観察して、これを「カテゴリー1(訳注2)」とし、 完全に進行した線維筋痛症を「カテゴリー3」と分類している。 「カテゴリー2は、筋・筋膜痛症候群と線維筋痛症との混合で、 視覚的には見分けがつかない状態であり、これらは融合している。
カテゴリー1やカテゴリー2では、理論上、この状態は臨床的にはまだ管理が可能だろうし、 完全に進行したカテゴリー3への進行も抑えられるだろう」(Dr.Evans)。

10.外傷
線維筋痛症は体幹上部に広く及ぶので、頸椎の鞭打ち損傷や他の加速・減速障害の結果、 あるいは少なくともそれらによって引き起こされる潜伏性症候群だと考えている人もいる。 「この説は、非常に多くの組織が障害される程の外傷は、 線維筋痛症の後期段階の発現の前兆となることがあるというものである。 サンディエゴの脊柱研究所のArthur Croft,DCは、この問題に触れている調査を広く再検討した」(Dr.Evans)(19)

11.免疫機能異常
Dr.Evansによれば、この説は、筋痛性脳脊髄炎に関する英国のモデルに基づくものである。 「慢性疲労症候群は、しばしば線維筋痛症の発現を伴う。 そして英国の研究者達は、これらの患者の大部分には幾つかの共通するウィルス感染が 認められることに気づいた。これらはEBウィルスその他のウィルスであった。 慢性疲労症候群や線維筋痛症に罹患した人にはサイトカインの過剰産生が生じているが、 通常この現象はウィルス感染やウィルス周辺の免疫系活動で見られた」(Dr.Evans)。
 これは全て新陳代謝におけるものなのか?


コロラドのカイロプラクターで、「線維筋痛症の新陳代謝の健康状態と新陳代謝治療の指針」 の著者であるJohn Lowe, D.C.とGina Honeyman-Lowe, D.C.は、 これらのテーマに向けた彼らの研究が線維筋痛症の中心的な因子として 甲状腺ホルモンを指し示していると述べている。そうでなければ、 合衆国リウマチ学会による初期の定義に拘わらず、これはリウマチ様疾患である。 「線維筋痛症がリウマチ様疾患であるとしている文献を1月に500冊読めば、これは誤りである。 本疾患では、筋や結合組織に関する限り本質的に誤ってはいない。何か別のものが誤っているのだ」

「神経外科的処置やカイロプラクティック処置が人々を健康にしたということを明らかにした研究は 存在していない」とDr.Loweは続けている。「治療後に患者は楽になったのを感じ、 疼痛も少しは軽くなるかもしれないが、 一般論として線維筋痛症に限定した症例から法則性を導き出すことはできない。 線維筋痛症患者は、刺激に対して非常に過敏である。患者の靴に小さな小石を入れると、 本症に罹患していない患者よりも非常に強い苦痛を与えることがある。 この小石が大きな疼痛を生じさせているので、これを取り除けば、 患者は同じ程度に大幅な疼痛の減少を感じるだろう。神経外科医、 カイロプラクター、物理療法医がこれを経験している。 そして疼痛の軽減の程度によって、その方法が線維筋痛症の核心をついたと想定するのは容易である。 しかし線維筋痛症の患者を数千人も研究してきたドクター達は、 これらの患者の疼痛が少なくとも一時的に非常に大きく緩和しても、 彼らは未だに線維筋痛症に罹患していることに気づいている」

この原因となるメカニズムは新陳代謝の中にあるとDr.Loweは信じている。 「十分な数の線維筋痛症患者に会えば、首尾一貫した所感を持つだろう。 これらは代謝低下状態なのである」(Dr.Lowe)。 「実際、多くの研究者達が30年以上にわたって様々な書物の中で、 これらの患者は甲状腺機能低下患者と非常に似ているという意見を表明している。

しかしこれは患者がどのように見えるかということ以上のものであると、 彼は付言している。「我々のように多くの異なる全ての研究‐あるものは合衆国で、 あるものはイタリアで、あるものはドイツで、あるものはフランスで‐は、 できるだけ最も洗練された甲状腺機能検査を行なってきた。 3つの病態に関する1つの証拠‐主に甲状腺機能低下症、甲状腺不調、 (視床下部や下垂体問題による)中枢性の甲状腺機能低下症‐ が一般住民に比べて線維筋痛症患者に驚くほど高度に認められると報告している」

Dr.Loweの研究では、線維筋痛症患者の約44%に、 検査所見上に中枢性の甲状腺機能低下症の証拠がみられることを既に発見している。 「これは一般住民の250,000倍の割合である。」彼の初期の研究では、 原発性の甲状腺機能低下症は線維筋痛症患者の12%だけに見つかったが、 その後に原発性の甲状腺機能低下症の基準が訂正されたので、 彼は、自分が検査した患者の約28%は原発性の甲状腺機能低下症の新しい基準を満たすと信じている。

「代謝低下状態の仮説よりも線維筋痛症を適切に説明する仮説はない」と Dr.Loweは言明している。「多くの異なる研究は、線維筋痛症患者の脳脊髄液の サブスタンスPレベルがとてつもなく高いということを発見している。 このサブスタンスPは疼痛を増幅させる化学物質で、感覚神経が入る脊髄後角において顕著であった。 サブスタンスPレベルの高値が判った以外に臨床上の障害はない。 動物による研究では、脳脊髄液の中のサブスタンスPレベル‐特に脊髄前角において‐ を上昇させたものは何なのだろうか? 甲状腺摘出術、これによってネズミの脳脊髄液と前角の中のサブスタンスPレベルは100倍に上昇する。 そして甲状腺ホルモンを投与すると、サブスタンスPレベルは再び降下する。 甲状腺ホルモンを過剰に投与すると、異常に低いレベルにまで降下してしまう」

2000年5月、Dr.LoweとHoneyman-Loweは、フランス・グルノーブルのローヌ・アルプス渓谷地方での フランス線維筋痛症協会の会合で一つの論文を提出したが、 この中で90%の線維筋痛症患者には何らかの形態の甲状腺疾患がみられることを明らかにしている。 幾つかの系統的な公開試験や患者対照研究の他の二重盲試験では、 20人の患者が対照群、20人が代謝治療群となった。対照群は5年経過しても本症に罹患したままだったが、 治療群の患者の健康は良好なままだった、これによってプラシーボ効果の可能性は排除された」 (Dr.Lowe)。

「線維筋痛症の症状や線維筋痛症患者の客観的な異常さを完璧に緩和するという実験条件のもとで 検証された唯一の形態は、甲状腺ホルモンを含んだ代謝治療であった」(Dr.Lowe)。 「我々はこれらの研究を大部分遂行したが、Dr.Jacob Teitelbaumも メリーランド州アナポリス(メリーランド州の州都)にある線維筋痛症症候群/CFIDSの 有効治療研究センターにおいて、90%の回復率の二重盲試験、プラシーボ制御の研究を行なった」(22)

不適切な甲状腺ホルモン調節が線維筋痛症に関連する唯一の因子ではないと、 Dr.Loweは即座につけ加えている。「代謝阻害剤の使用、 誤った食餌、栄養不良、体力の低下による悪化が常にみられる。 言い換えると、線維筋痛症の治療として、甲状腺ホルモンのみを用いるべきではない。 我々は、これを統合された代謝治療と呼んでいて、 これについては『自然医療』という我々の教科書の第3刷の中で述べている。」

患者の食餌を改善し、許容範囲での運動を行ない、様々な栄養補助食品を用い、 彼らのかかりつけの医師と相談して代謝阻害剤を止めることは、 患者の症状を緩和させるのに役立つ、あるいはこれによって完全な回復が可能となる。


<栄養学的なアプローチ>

線維筋痛症の栄養学的なアプローチの焦点は、 クエン酸回路とも呼ばれているクレブス回路に向けられてきた。 「ここに我々は精力を注ぐ。本症の患者疲労しているので、研究者達は、 線維筋痛症患者におけるこのサイクルの中で欠けているものに注意してきた」 とパーマー・カレッジ西校の教授で、栄養学や他の科目を教えている Susan St.Claire, DC, MS, DACBN, CCNは述べている。 「最良の研究からリンゴ酸とマグネシウムの不足が示唆された」

またマグネシウム・レベルは、慢性疾患の多くの人で低くなっている。 健康な人では、マグネシウムは筋細胞の中に高濃度にみられるが、 ここは「エネルギー物質「であるアデノシン3リン酸を産生しなければならない部位である。 「リンゴ酸の他に、患者に1日に300~600mgのマグネシウムを与えると、 圧痛点の疼痛と圧痛点数が大きく減少することが、研究から明らかになった」 (Dr.St.Claire)。「私には本症の患者がいた、そして彼らは(食餌療法を)誓った。 しかし全てが治ったわけではなかった。疲労感は治らず、線維筋痛症も治らなかったが、 本症に関連する疼痛は本当に減少した」

ビタミンBはクレブス・サイクルの一部だが、これについても同様に研究してきた。 「これには確かな結果は見られないが、クレブス・サイクルを活動させるためには、 ビタミンBを摂らなければならない」(Dr. St. Claire)。 「常に線維筋痛症患者に栄養学的に欠けているものを満たすようなものを与えなさい」

線維筋痛症の「炎症的な要素‐炎症マーカーはまだ識別されていない‐が主訴であるが、 患者は炎症と障害部位での腫脹を感じている。幾つかの栄養学的な研究は、 炎症を鎮めることに集中している。「我々には、この分野での指針がないので、 それが効果的か否かを知ることは困難である」(Dr.St.Claire)。 線維筋痛症の炎症を緩和しようとして、明らかな炎症状態を伴った他のリウマチ様の病態に基づいて 多くの解決策が提案されてきた。 これが存在するのであれば、栄養学的な規約に関してであろう」

プロスタグランジンを変化させることに注目し、症状が改善した研究もあると、 彼女は報告している。「赤身の肉や飽和脂肪酸を多く含むものを摂ると、 炎症性プロスタグランジンが増える。オメガ3脂肪酸‐魚、亜麻、クルミ油‐ が豊富なものを摂ると、炎症は減少する。今まさに合衆国では、 我々は赤身の肉と脂肪酸を過剰に摂り、オメガ3脂肪酸は不足しているので、 炎症状態へと急激に転落する傾向にある。 我々は、赤身の肉や脂肪酸とオメガ3脂肪酸を1:1の割合で摂らなければならないが、 6~10:1の割合になっている。より多くのオメガ3脂肪酸と少量の肪酸を摂ることは、 線維筋痛症の治療に見込みがあることが判った」

また患者は、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のバランスも取らねばならない。 「この割合は1:1でなければならない、しかし今現在、平均すると、我々は、 オメガ6脂肪酸をオメガ3脂肪酸の6~10倍も消費している」(Dr.St.Claire)。 「これらの脂肪酸が甲状腺を守り、 甲状腺機能低下症の重症度を緩和するだろうということを示唆している研究もある。

また脂肪酸の欠乏‐今日ではよくみられることだが‐ が神経系と脳の正常機能を妨害することがある。これらの症状の中には鬱病、 記憶障害、集中力不足へと至るかもしれないものもある。 これらの症状は、甲状腺機能低下症や甲状腺ホルモン抵抗性の患者によく見受けられる。


<線維筋痛症とカイロプラクティック治療>

同意が得られている線維筋痛症の病因学の理論‐ 最近の理論の多くが必ずしも要因として他のものを除外していない‐ のあるものは明瞭であるように思える。 カイロプラクティック治療は、線維筋痛患者のために最大限の緩和をもたらす方法の一つであると、 常に位置づけられてきた。「研究者達は、1ダースに及ぶ疼痛調節のテクニックを考察してきた。 これには鍼灸、医薬品、向精神薬、理学療法、そしてカイロプラクティックが含まれる」(Dr.Evans)。 「もちろん、これらの方法によって良くなる患者もいるし、変化しない患者もいる。 あるいは悪化する患者もいる。統計学的に、カイロプラクティックは、 他の治療を受けた場合に比べて良くなる患者が多いが、それでも依然として悪化する患者もいる」

「我々の所に来る線維筋痛症患者の多くは、先ずアロパシー医所へ行ったが、 我々の治療によってより楽になったと言っている」とHenry West,D.C.も認めている。 「プレドニゾン、抗炎症剤、抗鬱剤、睡眠薬、筋弛緩剤といったものに対する治療反応は、 あまり良いとは言えない」

カイロプラクティックは、どのようにして線維筋痛症を改善するのだろうか? 「マニピュレーションは脊柱の可動性を生じさせる。 これには隣接構造からの疼痛伝達を減少させる傾向がある」(Dr.Evans)。 「我々は、脊柱運動ユニットの歪みを解消することで、 硬直した筋から神経がどのように信号を送るのかを調節することができる。 その結果、これによってエンドルフィンやエンケファリンと呼ばれる 内因性オピオイド(麻薬様物質)の脳からの放出が促進される」

Dr.Westは、マッサージ治療、超音波、電気刺激による良好な結果にも気づいた。 「線維筋痛症は疼痛を伴う病気である。慢性的な疼痛や過敏症がなければ、 我々は本症であるとの診断はしない」とDr.Loweは付け加えている。 「我々が統合された代謝治療によって患者の治療を行ない、 その患者の新陳代謝が正常化したとしても、通常、様々な理学療法を行なわなければ、 患者の疼痛は緩和しない。 我々は、常に脊柱マニピュレーションと筋・筋膜のトリガー・ポイント療法を行なう‐「常に」である。 とてつもなく高いサブスタンスPレベル、 あるいはあまりにも過小な神経エピネフリン(訳注3)レベルから未だに線維筋痛症であるとされる時には、 サブラクセイションによる苦痛があると言えるし、 そのサブラクセイションを解消することで劇的な結果が生じうる」

彼は、自らの診療業務を通して、多くの患者の進行状態をグラフにした。 そのグラフには代謝治療のある時点での「停滞期「が見られた。 「それらが以前の線維筋痛症の重症度の約30%になった時点で、 停滞期に到達したようだ、そして理学療法を開始するまで、停滞したままだった。 その後、グラフの線は再び下降した、我々はそのグラフを遥かに降下させることができる」(Dr.Lowe)。 「理学療法は極めて重要である」

「カイロプラクターは、線維筋痛症患者を治療する際には特別な注意を払わなければならない」 とDr.Evansは警告している。彼は4つのガイド・ラインを提案している。

1.慎重な配置
「あらゆる治療状況で患者が最大限の快適さを感じるためには、 患者をどのように配置するのかに関して、ドクターは柔軟でなければならない」 と彼は言う。「また月曜日に患者が快適であった配置が、金曜日には快適ではないかもしれない」

2.疼痛閾値の認識
「線維筋痛症に関連するあらゆる文献は、その病因学的な理論が何であれ、 下行する求心性の感覚信号の調節不能について語っている。 患者には、状況をどのように感じるのかに関しての障害がみられる」と彼は述べている。 これは、テクニックを調節して、 患者の日々変化する疼痛閾値を越えないようにするべきであることを意味している。

3.カテコールアミン(訳注4)放出の回避
「我々カイロプラクティック・ドクターは、おおむね触診を基盤としているので、 組織におけるカテコールアミン放出を引き起こすような圧力を用いるべきではない。 むしろ我々は、ストレッチや超音波を用いるべきである」(Dr.Evans)。 「これは圧痛点を見つけるための指による圧迫と同じくらい単純なものであるということを理解する。 皮膚が赤くなるくらいに強く圧迫すると、カテコールアミンの放出が生じて、 圧痛点の局所的なカテコールアミンを洗い流すのに時間が費やされるだろう。 その状態がその領域にみられる限り、やがては苦痛が生じるだろう」

4.疼痛の緩和に狙いを定める
「いずれにせよドクターは、局所の腫脹を減少させることで、 あるいは神経終末の過敏性を抑制する方法を見つけ出すことで、 疼痛を緩和させようとするだろう」(Dr.Evans)。 しかし患者の新陳代謝状態の重要性を忘れてはならない。あまりにも多くのことが存在するので、 患者の生体化学反応や線維筋痛症の存在の重要性を理解することから始める。 ただ単に機械的に疼痛を制御するだけで、 患者が喫煙、飲酒、誤った食餌を続けるのを放任するのであれば、それは無責任である。

訳注1:サブスタンスP
EulerとGaddum(1931)が腸管および脳の抽出物中に見出した物質であり、 11個のアミノ酸よりなるポリペプチドである。血管拡張、 腸管その他の平滑筋収縮、唾液腺の分泌促進、利尿作用などを示す。 とりわけ中枢ならびに末梢性ニューロンの脱分極に関与している。 脊髄後根において、第一次知覚神経の化学的伝達物質である可能性が論じられている。

訳注2:カテゴリー1
この論文で言うところのカテゴリーとは単に「分類「という意味であり、 SOTのカテゴリーとは無関係である。念のため。

訳注3:エピネフリン
副腎髄質で生合成され、血中に分泌されるカテコールアミンの一種である。 高峰(1901)により単離・結晶化された。そのα作用により血管平滑筋を収縮させて血圧が上昇し、 そのβ作用により心収縮力の増大、心拍数の増加などを生ずる生理活性の高い物質である。

訳注4:カテコールアミン
ストレスを感じたとき、体内で増える化学物質。カテコール核を持つ生理活性アミンのことで、 ドパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)の総称。

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