カイパーベルト天体の番号付けと冥王星の地位

[注] この文書は, IAU Commission 20 (小惑星, 彗星, 衛星の位置と運動に関 する国際天文学連合の委員会) のサーキュラーに掲載されたBrian G. Marsden の文章の日本語訳(要約)である. 内容に関する御意見は, 訳者の相馬充 (国立天文台) <somamt@cc.nao.ac.jp> まで.


冥王星の問題はカイパーベルト天体にどのような番号を付けるべきかという問 題と関係しています. 小惑星番号はあと数ヶ月で 10000番に到達しようとしてい ます. 一方, カイパーベルト天体には普通の小惑星と同じように 1992 QB1 (これ はカイパーベルト天体として最初に発見されたものです) のような仮符号が付け られていますが,それらのいくつかはすでに軌道が良く決まっていて, 小惑星番 号を付ける時期に来ています. Binzelや Aksnes はカイパーベルト天体には小惑 星番号とは独立に K/1 のような番号を付けるよう提案しており, それによると冥 王星が K/1 に, 1992 QB1 がおそらく K/2 となるでしょう. 小惑星センターは, カイパーベルト天体にも軌道がよく定まったものには他の小惑星と同じように番 号を付けるよう提案しており, 冥王星にはそのカイパーベルト天体の1つとして 10000番を提案しています. 10000という番号は冥王星の重要な地位を表わすのに 最も適した番号であると考えます.

いずれの方法でも冥王星が主惑星から小惑星に格下げされると心配する人がい ますが, そのような心配は無用です. 冥王星は主惑星とも小惑星とも見なしうる のです. 最初の小惑星 Ceres も発見された当初は8番目の惑星と考えられまし たが, 翌年にはほぼ同じ軌道を持つ別の天体が発見されて, その地位は急速に下 降しました. しかし, 天体暦では最初の4個の小惑星の詳しい暦を, その番号を 示すことなく, 他の惑星同様与えています. 冥王星でも同じで 10000番を示す必 要はありません.

カイパーベルトの研究者の多くは, 冥王星と同等の大きさを持つ未発見の天体 があると考えています. そのような天体が発見された場合には, 普通の小惑星の 発見と同様に仮符号が付けられ, やがて小惑星番号 (またはカイパーベルト天体 の番号) が付けられることでしょう. もし, 冥王星にそのような番号が付けられ なかったとしたら, 後世代の人たちは, どうしてこの種の最初の天体だけに番号 が付いていないのかと不思議に思うことでしょう.

カイパーベルト天体専用の番号を新たに設ける必要もありません. 火星と木星 の間のメーンベルトの小惑星だけでなく, 地球に接近する小惑星にも小惑星番号 が付けられていますし, カイパーベルトと物理的に関連のある8個の Centaurs 天体が発見されていますが, そのうち Chiron など4個の Centaurs にもすでに 小惑星番号が付けられています.

1994年に彗星の番号付けが定められたとき, 何人かの人々は小惑星と彗星を区 別せずに番号付けをしようと提案しました. それは実現しませんでしたが, 小惑 星と彗星の両方の性質を持つ天体はあります. Chiron がその一つで, (2060) と いう小惑星番号と 95P という彗星番号の両方を持っています. 研究者は都合に 応じてどちらの番号でも使うことができます. また物理的な研究者などでは, 小 惑星番号を使わずに, その天体の名前を用いる人もいます. 冥王星は冥王星であ り, 番号が付いていても, 必要がなければその番号を用いなくて良いのです.

冥王星に小惑星番号を付けようとするもう一つの理由は, 小惑星センターに報 告される冥王星の位置観測結果を扱う際に, 番号が付いていたほうが便利である ということです.

著: Brian G. Marsden
Director, Minor Planet Center
訳: 相馬充
国立天文台
somamt@cc.nao.ac.jp
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