吉野俊彦著作のページ


大正04年千葉県生。1938年東京大学法学部卒、日本銀行入行、調査局長、理事を歴任。74年山一證券経済研究所理事長、現在エコノミスト。

 


 

●「『断腸亭』の経済学 −荷風文学の収支決算−」● ★★★




1999年7月
NHK出版刊
(2300円+税)

 

1999/09/18

「断腸亭」とは勿論、「断腸亭日乗」を著した作家・永井荷風のことです。
荷風といえば、代表作
「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」を筆頭に、彼の作品は花柳界の女性や女給、私娼などを多く主人公としています。
荷風の作品には、他の作家作品からは決して得られない、文化人・自由人としての気概と、風格が感じられ、それが何よりの魅力です。
そうした荷風作品が生まれた背景には、実際に荷風自身が生涯の殆どを独身として通しつつ、そうした職業の女性達と数多く、そして深い関わりを持ち続けていたという経緯があるわけです。
荷風作品を読み楽しみながら、いつとはなく自然と生じるのは、荷風は如何にしてこのように自由気侭な、そしてある意味で贅沢な生活を経済的に続けることができたのか、という疑問です。
その疑問を見事に明らかにしてくれたのが、本書です。
荷風の
「断腸亭日乗」とは、大正06年から昭和34年の荷風死去まで、42年間に及ぶ荷風の日記です。その日記の中には、数多い女性達との性遍歴が記録されていると共に、荷風の資産収支、戦中戦後の金融・物価情勢も詳細に記されています。
著者の吉野さんは、日銀出身のエコノミストらしく、日銀から見た金融・経済情勢を時局に沿って説明しながら、次いで荷風の日記に書かれた内容をつぶさに紹介、解説していきます。
さながら、「断腸亭日乗」を一流エコノミストの解説付で、女性への投資コストと資産収支の面に注目しながらおさらいしていくようなもので、荷風ファンには、たまらなく楽しい一冊です。
分厚く、持ち歩いて読むには重過ぎますが、それだけの内容と面白さを備えた著作です。

 


 

to Top Page     to エッセィ等 Index