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1.ラメルノエリキサ 2.地下にうごめく星(文庫改題:アイドル 地下にうごめく星) 3.悪い姉 4.クラゲ・アイランドの夜明け 5.きみがいた世界は完璧でした、が 6.カラスは言った 7.私雨邸の殺人に関する各人の視点 |
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「ラメルノエリキサ」 ★★ 小説すばる新人賞 | |
2018年02月
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やられたら必ず復讐する、というのが女子高生=小峰りなのモットー。それは誰のためでもない、自分の気持ちをすっきりさせるためという純粋に利己的な目的なのである。 エキセントリックな主人公のキャラクターがまず魅力です。 “ラメルノエリキサ”とは何なのか? 犯人は誰なのか?というミステリ要素だけではなく、クラス内での交遊関係、完璧なママ+普通のパパ+2歳上の姉という家族関係という要素も加えた女子高生青春ストーリィとして楽しめます。 刺激的な出だしのわりに軽く、あっさりとした展開でしたが、新鮮な面白さを十分堪能できた思いです。 |
「地下にうごめく星」 ★★ (文庫改題:アイドル 地下にうごめく星) |
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2020年03月
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これはまさしく、地下アイドルたち、そして地下アイドルに魅せられてしまった中年女性の青春連作ストーリィである。 地下アイドル、そのファンと言うと、オタク世界と思われてしまうのかもしれませんが、良いじゃないですか。 現に地下アイドルは存在し、活躍しようと頑張っている姿があるし、それを一生懸命応援しているファンもいるのですから、そうした人たちを大いに肯定すれば良いと思います。 ・「リフト」の主人公は、会社の同僚に初めて誘われて地下アイドルたちのライブに行った40代独身会社員の松浦夏美。一人の地下アイドルに魅せられ、自分でプロデュースしようと思いつく。 ・「リミット」の主人公は楓。元々は宝塚歌劇団に入りたかったのだが、その代用として地下アイドルに。しかし、3つ目となった現在の<インソムニア>も、突如解散が決定。その時、楓に声を掛けてきたのが、松浦という中年女性。 ・「リアル」の主人公は、女装が好きな男子高校生の翼。もっとも、ゲイではない。 ・「天使」の主人公は、自分は“天使”、今は神様から地上に遣わされての仮の姿、という女の子。 ・「アイドル」の主人公は、5人組インディーズアイドルグループ<ガールズフレア>の一員である愛梨。しかし、トップの美月のような美しさは自分にはない・・・。 ・「リピート」の主人公は再び松浦夏美、そして彼女が集めたメンバーの一人一人。さて、結果は・・・・。 舞台が極めて限定された青春連作ストーリィなので、好みによって向き不向きはあるかもしれませんが、私は爽快に楽しめた、という気分です。 何より皆が生き生きとしていてリアル。そして、それら一人一人が、お仕着せではなく、自分を改めて見つめ直し、そして自分ならではの道に一歩踏み出すまでの姿を描いたストーリィなのですから。 リフト/リミット/リアル/天使/アイドル/リピート |
「悪い姉 Mean Sister」 ★★☆ | |
2022年08月
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自らの平穏な生活を守るため、姉を殺す。 主人公の倉石麻友は3月生まれ。そして、年子の姉=凛は4月生まれのため、結果として二人は同学年。 平凡でぱっとしない女子である麻友と対照的に、姉の凛子は成績優秀な美少女。それなのにこの姉は、子供の頃からひどく意地悪で残酷。 その被害をずっと受けてきたのは、姉にとって一番身近な存在である妹の麻友。時に優しくもあるから、かえって翻弄されてしまう。 高校で別になれると思ったのに、姉は妹と同じ高校への進学を選んだ。高校3年に進級し受験生となるまで、あと1年。その間に姉を殺すしかないと、麻友は深く心に刻みます。 さて、その結果は・・・・。 小学校、中学校と姉に翻弄され、仲の良い友達を姉に傷つけられ続けてきた麻友ですが、高校になるとそれまでとは状況、力関係が変わっていることに気づきます。 不器用だった子、大人しいだけだった子も、それなりに成長してきて強さも身に着けているのです。 この姉=凛子が本当に性悪女。姉妹故に姉の魔手から逃れられないと思えば、姉を殺したいと思うのも当然と感じます。 サスペンスフルなストーリィである一方で、これは紛れもなく家族小説です。 そして俯瞰してみれば、麻友の成長&自立ストーリィ。 次に何が起きるのやらと、常にハラハラドキドキ。もう読みたくないと思っても読まずにはいられない、というのが本作。 構成、ストーリィ運びとも、実にお見事。 この刺激は癖になりそうだなぁ。 是非お薦めです。 |
「クラゲ・アイランドの夜明け Dawn on Jellyfish Island」 ★☆ | |
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近未来ストーリィ。 日本本土から離れた、海上コロニー「楽園」が舞台。 新種クラゲが押し寄せ、人まで食われてしまってしまったという騒動の最中、何故ミサキは死んだのか。 コロニーを運営する「セントラル」はその死因を、堤防から海に転落した処、新種クラゲの毒で中毒死と発表。 しかし、ミサキと友人だったナツオは、ミサキが自ら堤防から飛び込むのを目撃していた。 やはりミサキの友人であるルナ、ソウマの2人と一緒に、ナツオはミサキの死の真相を知ろうと動き出します。 最近、読む作品の中に近未来小説が多くなったなぁと思います。 過去と未来、その過渡期の時代だからなのでしょうか。 この作品が伝えようとするものは何なのか。読了後それを考えてみても、今一つ得心が持てないような気がします。 未来社会が到来し、あらゆることが便利になったからといって、それが幸せに繋がるのか、そこが楽園と言えるのか。 それが甚だ疑問であるということは、ハックスリー「すばらしい新世界」が伝える処から何ら変わっていないように感じます。 本土からやって来た探偵が登場したり、本土の東京に留まって今も研究者の仕事をしているミサキの母親の登場があったりと、伏線はいろいろありますが、今一つ得心できないまま、という感想です。 0.夜明け/1.クラゲとミサキ/2.葬儀と鍵/3.セントラル/4.ピストル/5.VR/6.雨とマラリア/7.ナツオとクラゲ |
「きみがいた世界は完璧でした、が」 ★☆ | |
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大学のサバゲーサークルが舞台。 主人公の日野は、中学時代に嵌ったファンタジーゲームのヒロイン=エリナにそっくりのサークル仲間=宮城絵茉に恋し、昨年に続き今年も告白するのですが、今回もフラれて終わり。 しかし、その絵茉をネット上で攻撃するばかりか、ストーカー行為?と思われる行動を繰り返す「シ」の存在を知った主人公は、何とか絵茉を守ろうと行動を起こすのですが、その行動は暴走へと繋がり・・・。 読んだばかりの大学写真部を舞台にした清新なラブストーリィ「きみの傷跡」から、どれ程掛け離れていることか。 この物語、どう受け留めて良いやら。 でも、これもまた青春期によくある片想い物語の一つ、と言うべきなのでしょう。 勝手に相手の絵茉を女神のように奉り、妄想を繰り広げ、果ては彼女のためと猪突猛進、いや暴走してしまうのですから。 まぁ恋愛とは、ひとつ間違えると妄想かも。 ともあれ、若気の至りで仕出かした愚かしいことと、見過ごしてくれる仲間が居れば、それはそれで幸せなのかも、と思う次第です。 最後、結末の付け方も愉快。 第1章〜第4章 |
「カラスは言った Said the Crow」 ★★ | |
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近未来が舞台。 仕事に行く以外はヒキコモリのような生活を送っている主人公の元に、突然カラスが飛来し、「ヨコヤマさん。第一森林線が突破されました」という言葉を発します。 一体、何故カラスは飛来したのか。その言葉の意味は? カラスが言葉を発するなんて、そもそも冒頭から不思議な事態、と感じるところですが、このカラス、本物ではなく鳥獣型ドローン。ただし、今では違法なものとのこと。 そのカラスに関わったことから、主人公は危険人物の追跡を逃れて、これまでおよそ考えられなかった旅に出ます。しかし、その行き着く処は・・・。 今まであらゆることから“部外者”であった主人公が、突如“当事者”になってしまうというストーリィ。 そしてそれは、主人公に新たな目を開かせることになります。 部外者、当事者、考えてみれば本ストーリィに限った問題ではありません。 代表的な具体例としては、政治、選挙が挙げられるでしょう。 政治も選挙も、国民一人一人、皆が当事者である筈なのに、選挙に行っても何も変わらないと部外者然する人の何と多いことか。 本作は、当事者となって行動することの大切さを伝えてくれるストーリィ。 自分は当事者だと思う人が少しでも増えれば、世界は変わっていく、と信じたい。 1.カラスは言った/2.カラスは捕まった/3.カラスは逃げた/4.カラスは飛んだ/5.カラスは隠れた/6.カラスは食べた/7.カラスは死んだ/8.カラスは笑った/9.人間はそして |
「私雨邸の殺人に関する各人の視点」 ★☆ | |
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山の中にある私雨邸。そこに集まったのは、当主の雨目石昭吉と孫3人、補佐役の社員、日雇い料理人の中年女性と、昭吉に招かれたT大学ミステリ同好会の会員2人。 そして、それぞれ嵐に見舞われて私雨邸に厄介になることになった編集者、登山者、自殺失敗者という男女3人。 土砂崩れで私雨邸に閉じ込められることになった計11人。 その中で何と、殺人事件が続けて発生します。しかも密室殺人。 ミステリ小説ではよくある設定ですが、本作の希少な設定は、11人の中に“探偵”となる人物が誰もいないこと。 もちろん、この際とばかり胸を躍らすミステリ同好会の会員もいます。 さて、何人かによって犯人の名指し、その推理根拠の開陳が何度も行われますが、いずれも抜け穴だらけ。 “探偵”がいないと何としまりがないものか、素人が得意げに推理を繰り広げるとこんな初歩的な失態を繰り返すのか、というところが面白い。 最終的に事件は解決するのですが、今一つ、すっきりしない思いです。 もっともミステリ好きの方なら、幾つも繰り広げられる推理に、同感や穴を見つけたりして、もっと楽しめるのかもしれません。 そこは、読み手次第なのでしょう。 |