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「ちとせ」 ★★☆ 京都文学賞中高生部門最優秀賞 | |
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明治5年、博覧会の開催に湧く京の街が舞台。 疱瘡を患い視力を失いつつある14歳の少女=ちとせは、この京の街で、三味線を縁(よすが)として生きようとしていた。 そんなちとせの、様々な葛藤とそれを乗り越えて成長する姿を描く清新なストーリィ。 ストーリィ設定に多少拙いところも感じますが、ちとせという主人公の造形は魅力に富んでいますし、ストーリィ展開も滑らかで気持ち良い。 何より感じる本作の魅力は、主人公であるちとせの、そして本ストーリィの健やかさと伸びやかさ、そこが嬉しい。 冒頭、三条大橋近くの川べりで、たどたどしいながら、一音一音を大事に重ねて曲を弾いているちとせの姿が愛おしい。 その音に魅かれたのが、俥屋<美濃屋>の跡継ぎ息子の藤之助。そこから、ちとせと藤之助という2人を軸に、ストーリィは綴られていきます。 ちとせが三味線の師と仰ぎ、一緒に暮らす菊は、現在料亭の仲居ながら元は芸妓。藤之助の友の稔は、今は邏卒ながら元々は小藩の留守居役の息子。さらに三条大橋の袂に暮らすツバメと名乗る男性等、登場する人物像がいずれも楽しい。 また、舞台にしたその時代、そして京の街の扱い方も良い。 その一方、次第に失われていく視力、失明という現実に向き合いながら、自分の生きる道を探し求めようとするちとせの、素朴で一途な姿に胸打たれます。 高野知宙さんの今後に、十分期待を抱かせてくれる作品です。 お薦め。 1.天皇さんの町/2.祇園祭/3.丹後の巻貝/4.新しい道/5.闇に浮かぶ浄土 |