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1.ちとせ 2.その糸を文字と成し |
| 「ちとせ」 ★★☆ 京都文学賞中高生部門最優秀賞 | |
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2025年12月
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明治5年、博覧会の開催に湧く京の街が舞台。 疱瘡を患い視力を失いつつある14歳の少女=ちとせは、この京の街で、三味線を縁(よすが)として生きようとしていた。 そんなちとせの、様々な葛藤とそれを乗り越えて成長する姿を描く清新なストーリィ。 ストーリィ設定に多少拙いところも感じますが、ちとせという主人公の造形は魅力に富んでいますし、ストーリィ展開も滑らかで気持ち良い。 何より感じる本作の魅力は、主人公であるちとせの、そして本ストーリィの健やかさと伸びやかさ、そこが嬉しい。 冒頭、三条大橋近くの川べりで、たどたどしいながら、一音一音を大事に重ねて曲を弾いているちとせの姿が愛おしい。 その音に魅かれたのが、俥屋<美濃屋>の跡継ぎ息子の藤之助。そこから、ちとせと藤之助という2人を軸に、ストーリィは綴られていきます。 ちとせが三味線の師と仰ぎ、一緒に暮らす菊は、現在料亭の仲居ながら元は芸妓。藤之助の友の稔は、今は邏卒ながら元々は小藩の留守居役の息子。さらに三条大橋の袂に暮らすツバメと名乗る男性等、登場する人物像がいずれも楽しい。 また、舞台にしたその時代、そして京の街の扱い方も良い。 その一方、次第に失われていく視力、失明という現実に向き合いながら、自分の生きる道を探し求めようとするちとせの、素朴で一途な姿に胸打たれます。 高野知宙さんの今後に、十分期待を抱かせてくれる作品です。 お薦め。 1.天皇さんの町/2.祇園祭/3.丹後の巻貝/4.新しい道/5.闇に浮かぶ浄土 |
| 「その糸を文字と成し」 ★★ | |
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明治初期、五日市の養蚕農家に奉公する若者=種吉を主人公に、“自由民権運動”を題材にした成長ストーリー。 高野知宙さん、まだ2作目、それも大学生作家だというのに、本格的な歴史小説、それも民権、自由といった難しい問題を扱った重厚な作品を書き上げたことに驚愕するばかりです。 種吉は、養蚕業を営む小谷家の奉公人。桑刈りと、小谷家の跡取り息子である定正を小学校へ送り迎えするだけの日々。 しかし偶々聞いた弁の演説に思わず興奮。さらに、地域で進歩的として知られる深沢家(絹織物業)に奉公する幼馴染の壮介から<学問会>に誘われて千葉卓三郎という民権運動家に出会い、学問、自由の大切さを知るに至ります。 ちょうど時を同じくして小谷家に現れたのは、7年前に家を出奔して音信不通だった長男の直助。 その直助から新聞、文字を教わるようになった種吉は、学問、民権に惹かれていきます。 しかし、学問を学ぶだけならいざ知らず、民権という政治運動に巻き込まれることは危険でもあったこと。 その点で、次第に先鋭化していく壮介と、今の暮らしを守りたい種吉との間には次第に溝が広がっていく。 同郷の幼馴染である、種吉と壮介、種吉と同じく小谷家の奉公人であるおちか、三人の考え方の違いが、この時代の空気を表しているようで惹きつけられます。 また、種吉と直助の関係も、恩人という面がある一方、どこか不穏さもあって興趣が尽きません。 辿る道は分かれていきますが、種吉、壮介、おちか、それぞれの葛藤と成長を描くストーリー。そして直助、定正も、過去に悔恨を抱えた人物、これからの時代に沿う少年というキャラクターで、注目させられます。 民権運動の一面を知ったという点で勉強になりました。 そして、あの時代にあって、学問、自由が如何に貴重かつ重要なものだったのかを思い知った気がします。 高野さんに拍手。 序章/1.先生の盃/2.うろんな居候/3.春の嵐/4.不況の波/5.板垣台風/6.秩父事件/7.青い蝶 |