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1.化け者心中 2.おんなの女房 3.化け者手本 |
「化け者心中」 ★★ 小説野性時代新人賞・日本歴史時代作家協会賞・中山義秀文学賞 | |
2023年08月
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時代は文政期、場所は江戸。 中村座の座元と狂言役者、それに加えて6人の役者が新しい演目の前読みに集まったその夜、車座になった輪の中央に生首が転がり落ちたかと思うと、一瞬の後それは消え失せていた。しかし、役者の数は変わっていない。 鬼が誰かを喰い、喰ったその役者に成り代わっているのに違いない。果たしてそれは誰か。 不運から両足の指全てを失って舞台から退いた元立女形の田村魚之助(ととのすけ)と、ひょんなことから魚之助に関わることになった鳥屋<百千鳥>の息子である藤九郎が、座元である中村勘三郎から頼まれ、鬼が成り代わっているのは誰かを突き止めるため探索を始めます。つまり、<鬼探し>。 本当に鬼なのか? もしかして何かのトリックでは? と思ったのですが、本当に鬼が最後に登場するとは! 魚之助の足替わり(背負う)となった藤九郎は、魚之助と共に6人の役者一人一人に事情聴取していきますが、芝居に何の縁も関心もなかった藤九郎が驚いたのは、役者たちの芝居、自分の役に対する妄執ぶり。 魚之助を含む役者たちこそ化け者ではないか!? と藤九郎が呆れかえる、そんな芝居小屋、役者たちの有り様が本作の読み処でしょう。 また、舞台から退いたにもかかわらず、女形でいることを止められず、といって男に戻ることもできない、魚之助の癒されない姿も注目したい処です。 読む人の好み次第と思われる本作ですが、デビュー作にしてこのレベルは凄い、と思います。 ※問題となった芝居は、「曽根崎心中」をアレンジして、心中物を妖怪物に変えた「堂島連理柵(れんりのしがらみ)」。 |
「おんなの女房」 ★★ 野村胡堂文学賞・吉川英治文学新人賞 | |
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刊行時に興味を惹かれた作品でしたが、読まないままになっていたところ、吉川英治文学新人賞受賞を機に読んだ次第。 歌舞伎のことを何も知らない出羽米沢藩下士の娘=志乃が、望まれて嫁いだ先は、江戸三座のひとつ、森田座で売り出し中の若手女形=喜多村燕弥。 日常も女姿で過ごし、しかもその時々に演じる女役になりきっている燕弥に、志乃は振り回されてばかり。 武家娘として育てられた志乃と、若手女形の燕弥、という対照的な二人を夫婦として取り合わせた設定の妙に惹かれます。 いったい何のために燕弥は志乃を望んだのか、それは志乃ならずとも読者も抱く謎。 冒頭の「時姫」の最後で、その謎は明らかになりますが、思わず絶句。こんなことでまともな夫婦になれるのやら。 また、森田座における2人の名題役者、それぞれの女房であるお富とお才を登場させたことがお見事。 対照的なお富とお才の振舞いから、役者の女房か、それとも燕弥本人の女房か、どちらを目指すのかと志乃が突きつけられる展開は読み応えあり。 また、各章毎の展開にメリハリがある処も好感。 デビュー作「化け者心中」でも高い評価を受けたようですし、蝉谷さんの今後の活躍を期待したい。 呼込/1.時姫/2.清姫/3.雪姫/4.八重垣姫/幕引 |
「化け者手本」 ★☆ | |
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元人気女形の魚之助と鳥屋の藤九郎コンビ、第2弾。 依頼人はまたしても中村座の座元である中村勘三郎。 事件は、芝居の幕が下りたとき、客席には首の骨がぽっきり折られた死体が転がっていた、というもの。それも両耳から棒が突き出されたいたという異常な姿。 そして、死人が出たのはこれで二人目という。 とても人間の仕業とは思えず、妖怪の仕業ではないか。 魚之助と藤九郎、今度の依頼ごとは<妖怪探し>。 舞台に掛かっていた演目は「仮名手本忠臣蔵」だったことから、「化け者手本」という次第。 前作同様、魚之助と藤九郎は、関係する役者たちを一人一人当っていく、という展開。 しかし、そんな中、人気女形から、元女形というだけに過ぎない、という手厳しい指摘を受ける一幕も。 前作でもそうでしたが、魚之助は決して完全無欠な探偵ではなく、迷いや葛藤から逃れられずにいる不完全な人間であることが露わにされます。 だからこそ、藤九郎、魚之助を支えようとする訳ですが、この2人の関係、今一つ理解しがたい処がある、というのが正直な感想です。 前作では初めて味わう設定、展開に驚かされるところが多々ありましたけれど、続巻となれば驚きという部分は薄れています。 その分、なおのこと、読み手の好み次第。 ※第3弾がもし刊行されたら、また読むことでしょう。 |