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「火星の女王 Queen of Mars」 ★★ |
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地球と火星をまたにかけた、SF小説。 作品が生まれた経緯は、2022年にNHKが小川さんに「火星で人々が暮らす未来を描くドラマの原作を作ってほしい」という依頼をしたからだそうです。 そのNHKドラマは、昨日、2025年12月13日に放映。 時は2125年、人類が火星移住してから40年が経過。ただし、火星単独で生存していくのは無理、定期的に地球から薬等々の物資を輸送することが不可欠という状況。 しかし、事業採算が悪化、ISDA(惑星間宇宙開発機構)は<地球帰還計画>を決め、移住民の地球帰還実施を開始します。 それに対し、火星で生まれ育ち、自分たちは「火星人」だと主張する人々が計画に反対。ついに、地球のISDAによる帰還計画と、火星独立運動がぶつかり合うこととなります。 本作は、その対立を背景にしたサスペンスストーリー。 主要登場人物は、火星生まれで目の見えないリリ(21歳)、その母親でISDA種子島支局長の職にあるタキマ・スズキ、地球を追われ火星に可能性を求めた老研究者リキ・カワナベ、火星自治警察の非常勤捜査員マル、等々。 ストーリーは、地球へ向かおうとしていたリリが、ロケットへの乗船寸前に誘拐されたところから始まります。 面白さの鍵は、地球と火星の時間差。 人および物資輸送に片道4ヶ月を要するというのは当然ですが、オンラインでやり取りするにも、その距離故に約10分のタイムラグが生じてしまう、という処が本ストーリーのミソ。 良きにつけ悪しきにつけ、その10分が両者の運命に関わるのですから。 そのタイムラグを巧妙に使い、ストーリーを見事に作り上げた点を称賛したい。 なお、火星を舞台にした傑作エンターテイメントとして、上田早夕里「火星ダーク・バラード」を思い出します。 ただし、本作とは、片や格差社会問題、片やエンターテインメントと、趣向をことにするようにと思います。 |