長岡弘樹作品のページ


1969年山形県生、筑波大学第一学群社会学類卒。団体職員を経て2003年「真夏の車輪」にて第25回小説推理新人賞を受賞し、05年「陽だまりの偽り」にて作家デビュー。08年「傍聞き」にて第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。


1.傍聞き

2.教場 

3.交番相談員 百目鬼巴 

  


    

1.

●「傍聞き(かたえぎき)」● ★☆


傍聞き画像

2008年10月
双葉社

(1400円+税)

2011年09月
双葉文庫

2008/10/27

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服役囚の更生支援施設長、消防隊員、子持ちの女性刑事、消防署の救急隊員と、かなり特殊な職業を背景としたミステリ短篇集。
各篇ミステリも、それら職業の特殊性を生かしたものとなっているところが本書の見処です。

4篇の中では文句なく、日本推理作家協会短篇部門を受賞した表題作の「傍聞き」が秀逸。
傍聞きとは、直接話を聞かされるより、誰かに話しているところを横で聞いた方が本当のことと信じやすい、ということを言い表した言葉。
本篇の仕掛けはまさにその傍聞きにあるのですが、2重の仕掛けになっているところを評価したい。

また、怪我人を乗せた救急車が迷走するという、どんな事態が起きたのかと読み手までハラハラさせられてしまう「迷走」も、なかなかの仕掛け。ただ、結末が出来過ぎ、という感じは否めません。

仕掛けに充分面白さはあったものの★評価が辛目となったのは、ストーリィのドラマ性に物足りなさを感じたから。

迷い箱/899/傍聞き/迷走

       

      

2.
「教 場 ★★


教場画像

2013年06月
小学館

(1500円+税)

2015年12月
小学館文庫


2013/11/05


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警察学校の初任科短期課程、この教習をクリアできなければ、あるいは決められたルール違反が見つかれば、「君には、警察学校を辞めてもらう」という教官の言葉が待ち受けている。
そうした警官養成の教習の場であっても、事件は起きる。それは教習生間でのいざこざ、憎悪に端を発するもの。そしてそれらは教官たちの目に触れないように実行されるだけに、より厄介で陰湿なものであると言えます。しかし、
風間教官の何もかも見通しているような目から逃れることはできない。

警官養成の教場で起きる様々な教習生間の事件、その経緯と顛末を連作風に描いた異色の警官小説。
面白味の要素は次の3点にあります。一つは各章冒頭で語られる警察官が身に付けなければならない技能にかかる解説、一つは教習生同士の間における陰湿な攻撃、そしてもう一つはそれらを教官の風間が何故気付き、どう裁こうとするのか、です。
後ろの2点はまさしくサスペンス要素で、警察官養成の教場という特殊な舞台が華を添えています。でも私が見逃せないと思うのは、上記3点の内の一つ目。
警察官という職業における現実的な問題と、架空サスペンス、その両面をどうバランスをとって読み進むかは、読み手の腕次第、という作者の示唆があるように感じられます。 

1.職質/2.牢問/3.蟻穴/4.調達/5.異物/6.背水/エピローグ

     

3.

「交番相談員 百目鬼巴(どうめき・ともえ) ★★   


交番相談員百目鬼巴

2025年04月
文藝春秋

(1700円+税)



2025/06/02



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警察を定年退職し、60代の今は非常勤の交番相談員を務めている百目鬼巴を主役に据えた、連作警察ミステリ。

その百目鬼巴、見た目は穏やかな初老の女性という印象なのですが、県警本部で刑事畑以外の部門をひととおり経験し、科学捜査の知識も豊富。そのため刑事部から「未解決事件の捜査にあたってほしいと」熱烈なお呼びが掛かっていたが、「ものごとをほじくり返すと、ろくなことがないから」と断り続けていたらしい、という。

警察が捜査する様々な事件について、百目鬼が独自の視点から事件の真相を見抜く、というストーリーかと思っていたのですが、とんでもない。
百目鬼が推理するのは、警察内部で起きた事件の真相。
それも警察が見抜けなかったことを鋭く見据え、関係者自身に指摘して見せるというのですから、これまでには無かった、と思えるような趣向の連作ミステリ。

なお、百目鬼巴、どんな女性なのか、どんな警察官だったのか、その正体はもうひとつ不明。
シリーズ化されるらしいので、今後徐々にその正体が明らかになっていくのではないかと思われます。それが楽しみ。

「裏庭のある交番」:南原交番勤務の警官が連続して自殺するという事件が発生。その真相は・・・。
「瞬刻の魔」:私服捜査員をしている警察学校の同期が、駅ホームから飛び込み自殺を図る。いったい何故?
「曲がった残効」:自動車警ら班の渡会がパトカーの運転事故を起こす。渡会を恋慕する福原、その真相を突き止めようと一人で独自捜査をするのですが・・・。
「冬の刻印」:轢き逃げによる中学生死亡事件。記憶力が落ちたという老医師が目撃したその自動車ナンバーを書き留めたところは何と・・・。
「噛みついた沼」:留置管理課所属だった夫は何故、僻地の交番勤務に応募し、その沼にゴムボートを浮かべ転落したのか。
「土中の座標」:警備部長の娘と結婚が決まった向江、関係した女性から妊娠したと言われ、殺してしまう。証拠は隠滅した筈だったのに、百目鬼が・・・。

裏庭のある交番/瞬刻の魔/曲がった残効/冬の刻印/嚙みついた沼/土中の座標

   


  

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