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1.わたしが行ったさびしい町 2.香港陥落 |
1. | |
「わたしが行ったさびしい町」 ★★ |
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かつて訪れたさびしい町の記憶を綴ったエッセイ集。 雑誌「新潮」に2019年1月号から20年8月号まで連載された連作エッセイの単行本化。 「さびしい町」というと否定的な印象を受けてしまいますが、本書においては、そんなことはありません。 著者である松浦さん曰く、「わたしがさびしい町が好きだからである」ということですから。 もっとも、本書の中には松浦さんが大好きだという町のことも語られており、「さびしい町」だけではないようです。 単なる旅行エッセイではありません。 いろいろな町を訪ねた時の経緯、その時の状況も合わせて語られており、それは人生の回想に繋がっています。 そこが本作の読み処でしょう。 さびしいと感じたからこそ記憶に強く残り、何故ここに来たのだろうと考え、自分の来し方を振り返ることにもなる、からでしょうか。 それ故に、一気に読み進める本ではないと思います。一日に一篇か二篇ずつ読んでいく、その方が相応しい一冊であると思うのですが、そこはいつも後悔先に立たずと思うパターン。 これから読む方は、是非私のような失敗はなさいませんように。 ※松浦さんとは私は同学年でしょうか。私が20代の頃、海外旅行などは夢みたいなものでしたが、普通行かないようなところまで足を伸ばしているところに驚きます。 留学とか学会とか様々な機会があったからでしょうけれど、それにしてもなぁと、つい思わざるを得ず。 ナイアガラ・フォールズ/ペスカーラ/イポー/名瀬/ヴィル=ダヴレー/ニャウンシュエ/タクナ/上野/シャトー=シノン/長春/上田/台南/コネマラ/パリ十五区/江華島/トラステヴェレ/アガディール/ドーチェスター/中軽井沢/夢のなかで行った町 |
2. | |
「香港陥落 The Fall of Hong Kong」 ★★☆ |
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アジア太平洋戦争において、香港も日本軍の侵略を受け、3年8ヶ月にわたって植民地されたとのこと。 その前後の時代を、侵攻前、侵攻直前、敗戦後という3日に分けて、友人関係にある3人の人物の会話によって描いたところが秀逸であり、かつ面白い。 その3人は、元外交官である日本人=谷尾悠介(40代半ば)、通信社の記者という英国人=ブレント・リーランド(50代半ば)、貿易会社の副社長だという香港人=黄海栄(ホアン・ハイロン、30代)。 会話というのはヘタな解説より余っ程、事実を端的に描き出しますし、状況を俯瞰するような処があって魅力に富んでいます。 とくに谷尾が開戦前から日本の敗戦を予言している部分、興味津々です。 なお、3人が飲み会する舞台は毎度<ペニンシュラ・ホテル>。 一方、「SideB」になると、上記表面では見られない、裏の部分が描き出されていて、まるで情報戦のような様相も見られて、かなり刺激的な面白さあり。 こちらでも3人による会話でストーリィは進行しますが、リーランドと沈昊(シュン・ハオ)は固定メンバーで、他の一人は毎回入れ替わるという処が妙。そのうえ舞台となる<百龍餐館>という裏通りにある中華料理店の様子も変化します。 ※リーランドがシェイクスピアのファンで、度々シェイクスピア戯曲のセリフが引用されている処も、シェイクスピア好きとしては嬉しい。 戦後16年を経ての再会、会話は必然的に思い出話=回想となり、日本の香港侵略と敗戦という歴史語りとなります。 一体、何のための戦争、歴史だったのかという述懐は、登場人物だけでなく読み手もまた共有する思いです。 最後、過去から視線を外し、明日へ視線を向ける処、清々しい気さえします。 会話の妙と歴史譚を楽しめる上質の佳作、お薦めです。 香港陥落:1941年11月8日土曜日/1941年12月20日土曜日/1946年3月23日土曜日 香港陥落−Side B:1941年11月15日土曜日/1941年12月20日土曜日/1961年7月15日土曜日 |