北村 薫作品のページ No.1


1949年埼玉県生、早稲田大学第一文学部卒。県立高校教諭を経て、89年「空飛ぶ馬」にて作家デビュー。91年「夜の蝉」にて第44回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、05年「ニッポン硬貨の謎」にて第6回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)、09年「鷺の雪」にて 第141回直木賞を受賞。


1.
空飛ぶ馬

2.夜の蝉

3.秋の花

4.覆面作家は二人いる

5.六の宮の姫君

6.冬のオペラ

7.スキップ

8.覆面作家の愛の歌

9.覆面作家の夢の家

10.ターン


朝霧、謎のギャラリー・謎のギャラリー特別室、謎のギャラリー特別室2、謎のギャラリー3・謎のギャラリー最後の部屋、月の砂漠をさばさばと、 盤上の敵、リセット、北村薫の本格ミステリ・ライブラリー、詩歌の待ち伏せ(上)、詩歌の待ち伏せ(下)、

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街の灯、語り女たち、ミステリ十二か月、ニッポン硬貨の謎、北村薫のミステリー館、紙魚家崩壊、ひとがた流し、玻璃の天、1950年のバックトス、北村薫のミステリびっくり箱

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北村薫の創作表現講義、野球の国のアリス、鷺と雪、元気でいてよR2-D2、いとま申して、飲めば都、八月の六日間、慶應本科と折口信夫、太宰治の辞書、中野のお父さん

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1.

●「空飛ぶ馬」● ★★★

空飛ぶ馬画像

1989年
東京創元社刊


1994年04月
創元推理文庫化

1996/09/15

「私」と円紫師匠シリーズ第1冊目。

女子大生の「私」が 見かける日常生活の中にパズルを見出し、そこに人生のささいなドラマを発見する、といった物語集。
通常の時間の中に人生のヒトコマを見つけ、大事にしようとする、そんな作者の視線が好ましい。
「砂糖合戦」「空飛ぶ馬」がことに好きでした。

主人公を普通の女子大生にしていることにより、普通人の感覚で出来事を眺めることができ、読者としては素直に入り込み易い。また、探偵役の春桜亭円紫師匠、人情の機微を知るにふさわし噺家をもってきたところが、ヒット。
落語といい、文学作品といい、作者の博識には降参するばかりですが、けっして嫌な気はしません。

織部の霊/砂糖合戦/胡桃の中の鳥/赤頭巾/空飛ぶ馬

   

2.

●「夜の蝉」● ★★   第44回日本推理作家協会賞受賞

夜の蝉画像

1990年
東京創元社刊

1996年02月
創元推理文庫化

1996/09/15

「私」と円紫師匠シリーズ第2冊目。

前作から少し進み、収録3作のうち2作は「私」のごく親しい人に関わる謎。
「6月の花嫁」は親友の庄司江美について。
「夜の蝉」は、「私」の美人で派手な姉の心の中にある秘密。3作の中では「夜の蝉」が一番好きでした。

こうして読み進むと、本シリーズが「私」の成長過程を辿っていることが明らかです。女性版ビルドゥングスロマンということができます。
一方で、探偵助手役である「私」は常に傍観者とならざるをえないことに一抹の寂しさも感じました。

朧夜の底/六月の花嫁/夜の蝉

  

3.

●「秋の花」● 

秋の花画像
 
1991年
東京創元社刊


1997年02月
創元推理文庫化

1996/09/21

「私」と円紫師匠シリーズ第3冊目、初の長編。

「私」の近所に住む3年下の仲の良い女子高校生二人のうちのひとりが、文化祭準備中の夜、 校舎の屋上から転落死する事故があった。残ったもう一人の子は精神不安定の状況に。そんな中「私」の家のポストに 「殺された」旨の手紙が。

なんとなく作者の術中にはまって、雰囲気とノスタルジーにため息をついてしまうが、冷静に考えると、ちょっと待って、と言いたくなるストーリィ。今回の謎解きは釈然としなかった。
一方、フローベルとか一般的にあまり読まれないであろう作家、作品が当然のごとく出てくるのには、相変わらず脱帽。

  

4.

●「覆面作家は二人いる」● ★★☆


覆面作家は二人いる画像

1991年11月
角川書店刊
(1200円+税)

1997年11月
角川文庫化

1999/01/30

amazon.co.jp

“覆面作家”シリーズ第1作。

姓は「覆面」、名は「作家」という珍妙な名前の新人ミステリ作家が誕生したと思ったら、なんと現実においても名探偵だった。さて本人はというと、可憐な深窓の令嬢・新妻千秋・19歳。
「推理世界」の若手編集者・岡部良介をワトソン役に、なんともユーモラスな探偵コンビが登場したのでした。

ともかく、新妻千秋という楽しい探偵を世に送り出しただけでも絶品と言いたい作品です。現に何度読み返しても新鮮に楽しいです。
また、イラストの千秋さんの可愛らしいこと!
最初に読んだ時は“私+円紫師匠”シリーズと比べてしまい、単なるユーモア・ミステリと割り切ってしまったのですが、その後何度読んでも面白さが劣化することがないというのは特筆すべきことです。
勿論、謎解き自体もなかなかのものですが、本書のはちょっと軽め。

覆面作家のクリスマス/眠る覆面作家/覆面作家は二人いる

 

5.

●「六の宮の姫君」● ★★

 六の宮の姫君画像

1992年04月
東京創元社刊

創元推理文庫化

1996/09/11

「私」と円紫師匠シリーズ第4冊目、長編。

NIFTY-SERVEのフォーラムで薦められて読んだのですが、思えばとんでもないところから読み始めてしまった。(^^;)
推理ものといっても、芥川龍之介菊池寛の文学上の謎を探るストーリィ。
最初は正ちゃんの合いの手が煩わしかったのですが、円紫師匠とみさき書房の天城さんの登場からテンポが上がり、理解し易くなりました。前の作品から読み始めていたら、もっと楽しめたでしょうに。
何だかんだと言いつつも、途中から面白さにのっていきました。

   

6.

●「冬のオペラ」● ★☆


冬のオペラ画像

1996年10月
中央公論社刊


2002年02月
中公文庫化

2002年05月
角川文庫化

(552円+税)


2002/06/21

春桜亭円紫覆面作家こと新妻千秋に続く、北村薫・シリーズもの探偵の3人目が登場するミステリ短篇集。(再読)

名前は巫(かんなぎ)弓彦、職業は“名探偵”
本書に登場する探偵は、本当に名探偵なのです。事件の話を聞けばすぐその真実が見えてしまう、という位。
しかし、名探偵の現実は辛い。それ程の事件はなかなか無い為、収入もない。その為、名探偵は日々ビアガーデンのウェイター、新聞配達、道路工事と副業に忙しいのです。
笑ってしまいますけど、頷ける設定です。だからこそ、この巫はまさしく名探偵らしく感じられます(笑)。
語り手として登場するのは、名探偵の大家である不動産会社の事務員・姫宮あゆみ。彼女はワトソンを目指し、記録係として積極的に活動します。
なにやら、“円紫”シリーズの円紫師匠+「私」に似た主人公コンビですが、はっきり〔ホームズ+ワトソン〕を目指しているところが相違点。でもよく似ています。
本書に収録されているのは、短篇2+中篇1。前者が日常ミステリであるのに対し、中篇は殺人事件という本格的ミステリ。
本書1冊で終わってしまったところが不満ですけれど、北村さん3番目の探偵コンビ像として、北村ファンには欠かせない1冊です。

三角の水/蘭と韋駄天/冬のオペラ

  

7.

●「スキップ」● ★★★


スキップ画像

1995年08月
新潮社刊
(1748円+税)

1999年07月
新潮文庫化

  

1995/08/25

 

amazon.co.jp

“時と人の三部作”第1作。

17才の女子高生・一ノ瀬真理子が、突然未来(現代)へ飛んでしまうという、タイムスリップ・ストーリィ。
学校から帰ってきた真理子がひと眠りして目覚めてみると、そこは全く見知らぬ家。それも、何と25年後。しかも、真理子自身、17歳ではなく42歳の、自分自身と同じ高校生の娘をもつ母親となっていました。
ちょうど本作品刊行の少し前に、グリムウッド「リプレイというタイムスリップの作品が評判になっていました。本作品は、それとはまったく逆の仕掛けとなっています。しかし、同じタイムスリップを題材にしていますが、本作品は決してそれが主題ではありません。むしろ、17歳から急に42歳になってしまった元高校生・真理子が、どう新たな人生に立ち向かおうとするか、という物語なのです。単にタイムスリップというSF的なものではなく、生きていくうえで大切なもの、貴重なものを捜し求めるストーリィと言えます。
17才の感覚で、新しい境遇に新鮮にチャレンジしていく真理子の姿、それが素晴らしい。そんな真理子の姿に、家族(夫、娘の美也子)も新鮮に蘇っていくようです。その感じが素敵です。青春時期の甘い思い出と、高校生活のノスタルジーを新たにさせてくれるような作品です。
この物語の救いは、時間差の解決ではなく、真理子自身の中にあります。
本ストーリィは、最終頁も続いていきます、人生のように。この感じもまた素晴らしいものでした。

※“時と人の三部作”は、「ターン」「リセット」へと続きます。

   

8.

●「覆面作家の愛の歌」● ★★★


覆面作家の愛の歌画像

1995年09月
角川書店刊


1998年05月
角川文庫化

  

1999/01/24

  

amazon.co.jp

覆面作家”シリーズ第2作。

家人 にと思って借り出してきたのですが、つい手が出てしまいました。再読です。
一年程前に読んだ時は、“私+円紫師匠”シリーズと対比してしまったためもあって、ユーモア・ミステリと単純に割り切って読んでいました。
ところが、今回改めて読みなおしてみると、ストーリィの隅々まで北村さんの細やかな神経が行き届いていることに驚かされます。
軽く楽しんで読んでしまえばそれまでなのですが、じっくり味わって読んでみると、それはそれで深い味わいがあるのです。
例えば、新妻千秋という名探偵からしても、単に面白いというだけでなく、微妙な彼女の乙女心があっての「借りてきた猫/サーベルタイガー」であるのだなあ、と。他にもいろいろとあるのですが、とても言い尽くせません。
千秋、良介、静美奈子、優介等の主要人物の相互関係を考えると、お互いに補い合うかのような仲間同士の素敵な連帯感があって嬉しくなります。
なお、文庫化の楽しさは、単行本で割愛された高野文子さんのイラストが復活していること。イラストだけ眺めていても、登場人物の個性、そして温かみが伝わってきて楽しくなります。
本書3篇の中では、「覆面作家のお茶の会」が私のお気に入りです。ひとつの短篇の中で幾つものストーリィが楽しめます。ケーキも!

覆面作家のお茶の会/覆面作家と溶ける男/覆面作家の愛の歌

  

9.

●「覆面作家の夢の家」● ★★☆


覆面作家の夢の家画像

1997年01月
角川書店刊

(1300円+税)

1999年10月
角川文庫化


1997/02/22

“覆面作家”シリーズ第3作。

このシリーズはいつまで続くのやら、という思いが常にありましたが、現実に第3巻=最終巻となりました。
前2巻と異なる点は、同業作家が3人登場すること。
しかし、登場人物間の関係が進展したため、本巻では、優介、美奈子の活躍場面がなくなっているのがちょっと寂しいです。残された興味は、必然的に良介の恋の行方は?ということになります。この点について、北村さんはきちんと読者の期待に応えてくれています。
本書の中では、なんといっても3作目の「夢の家」が圧巻。これほど楽しい殺人事件は覚えがありません。しかも、最後の作品らしく、サービス満点という感じです。
北村さんらしいきれいな納め方が、シリーズ終結という寂しさを感じさせませんでした。

覆面作家と謎の写真/覆面作家、目白を呼ぶ/覆面作家の夢の家

    

10.

●「ターン」● ★★★


ターン画像

1997年08月
新潮社刊

(1700円+税)

2000年07月
新潮文庫化

  

1997/08/30
2000/07/11

“時と人の三部作”第2作。

何故か、物語は二人称で始まるストーリィ。
主人公・森真希は、交通事故により時の渦の中に巻き込まれ、その日から時間のターンを繰り返すことになります。つまり、ある時間がくると、事故のあった1日前の時間、場所に真希は戻ってしまうのです。繰返し、繰り返し、それが続きます。
こういうと、グリムウッド「リプレイ」を思い出す方もあるかと思いますが、ストーリィは全く別の進展をします。その違いが北村さんの魅力の所以です。
淡々と繰り返されるストーリィの中に強く感じることは、北村さんの優しさです。まるで、髪をなでるような印象を受けます。でも、それがずっと続くとこれだけのストーリイなのか、と失望感も感じます。しかし、そこから、思いもかけない出来事が起こります。それは電話。
それから後は、それまでのゆるやかなペースが嘘のように、新たな展開が始まります。けれども、決してむさぼるように読むという感じにはならないのです。静かな気分のまま奥底まで引きこまれていく、と言ったら良いでしょうか、そんな印象です。進展につれ、何時しか緊張感が芽生え、緊迫の度を高めつつ、ストーリィは一気に結末へ向かいます。
また、タイムスリップのようなストーリィの中に、もう一人の主人公とも言える泉洋平とのストーリィが生まれます。版画家の真希とイラストレーターの泉、お互いに遠慮しあうような2人の仲の進展も、本作品の魅力ある一部です。
最後に真希が口にする一言、なんて素敵な言葉だったことでしょうか。ごく普通の言葉なのですが、そのひとことによって、静かな、けれども深い感動が、胸の内に広がっていきます。
ストーリィの中には、いくつものすてきな言葉が散りばめられています。それもまた、私にとっては嬉しいことでした。
読後は、心の中に青空が広がるような、素敵な思いが残りました。

※映画化 → 「ターン」

    

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