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1.鴨川ランナー 2.トラジェクトリー |
1. | |
「鴨川ランナー」 ★★ 京都文学賞 |
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高校の時、他の外国語とはまるで違う字体であるところに興味を惹かれ日本語を選択、そして2週間の京都経験。 大学を卒業して文部科学省英語指導研修プログラムに応募して、指導教員として再来日。 しかし、京都の暮らしに溶け込む一方で、周囲の日本人たちからは日本語も遠ざけられ、あくまでガイジン扱い。 そんな主人公の違和感や葛藤を描き出す作品ですが、「きみ」という第二人称での語りが秀逸。 外国人から見た日本、日本人はこう見えるのかと、新鮮に感じられます。 その一方、本篇からは、京都という街の雰囲気が立ちのぼってくるように感じられる、そんな有り様も魅力。 「異言」も、外国から日本にやってきた外国人が主人公。 英会話学校で働いていたが学校が倒産、友人を頼って、結婚式に立ち会う牧師のバイトをすることになります。その際の注意事項は・・・。 2篇とも、日本に溶け込むことが許されない外国人のやるせなさ、のようなものを感じます。 すべてがこうではないとは、思いますが。 鴨川ランナー/異言(タングズ) |
2. | |
「トラジェクトリー Trajectory」 ★★ |
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「開墾地」に続き、芥川賞候補作となった作品。 題名の「トラジェクトリー」とは“軌道”といった意味だそうです。さしづめ、人生の軌道、という処でしょうか。 主人公のブランドンは米国を逃げ出し、日本に来て名古屋の英会話学校で教師をしている。 生活はというと、教室とアパートを往復するだけで、日本語の会話は不自由なくなったものの読み書きは未だできずにいる。 同僚たちは、様々な事情でこの教室に勤めているが、まるで彷徨の途中でここに足を留めているだけのよう。 ブランドンにしろ、ここに居場所を得た、という感じは持てずにいる。 何のためにいるのか、何をしようとしているのか、それを見つけられないまま日本に留まっているブランドンのやるせなさが、胸に迫って来るようです。 併録の「汽水」についても、ほぼ同様の印象。 主人公のチャーリーは、米国の大学を卒業して来日し、英会話学校の教師を皮切りに職を転々とし、今は私立大学の国際課で働いている。 今回、出張で上司の部長と共に米国ニューオーリンズに。 同じ南部のミシシッピ育ちのチャーリーにとって故郷に戻ってきたようなものだが、今のチャーリーは言葉にしろ服装にしろ、すっかり南部風な処はなくなっており、アイデンティティを喪失していることに気づく・・・。 アメリカと日本の狭間にいる著者だからこそ、気づき、また描ける作品でしょう。その感覚が、鮮烈で魅力です。 トラジェクトリー/汽水 |