飯嶋和一作品のページ


1952年山形県生。83年「プロミスト・ランド」にて小説現代新人賞、88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」にて文藝賞、2000年「始祖鳥記」にて中山義秀文学賞、08年「出星前夜」にて大佛次郎賞を受賞。


1.
始祖鳥記

2.
狗賓童子の島

 


 

1.

「始祖鳥記」 ★☆        中山義秀文学賞


始祖鳥記

2000年2月
新潮社刊
(1700円+税)

 

2001/05/05

帯にある称賛の文章は、かなり派手なものです。その通りと思う一方で、それ程ではないところもあります。
相次ぐ大飢饉や天変地異、そして公儀の横暴に人々が希望を失っていた江戸・天明期、備前岡山に空を飛ぼうとする表具師がいた、というのが本書ストーリィ。

その当人・幸吉は、単に空を飛びたいと、夜中橋の上から大凧で飛び降りたりしていただけのこと。しかし、目撃談が市中に広まると、怪鳥鵺だとか、池田藩の失政を糾弾していた、という噂になってしまう。その挙句幸吉は岡山を追放されるに至ります。
一方、“空を飛んだ表具師”の話は誇張されて全国に広まり、その勇気(誤解なのですが)に触発され、悪政に立ち向かおうとする人物が現れます。第2部に登場する行徳の地廻り塩問屋・巴屋伊兵衛、廻船船頭の福部屋源太郎などもそうした人物。それらはやがて、大きな力となって、公儀や一部の問屋の専横に風穴を開けることに繋がっていきます。
となれば、本書は爽快な物語である筈。しかし、出来事を着実に書き連ねていくという作風で、スリリングな部分はあるものの、展開は膨らみを欠いている気がします。その点がちょっと物足りない。

紆余曲折を経ながら、最後に再び幸吉は空を飛ぼうとします。
型に嵌った人生を斥け、夢を追い求めて技術を凝らす幸吉の姿には、時代を超えた新鮮さを覚えます。

     

2.
「狗賓童子(ぐひんどうじ)の島」 ★★☆


狗賓童子の島

2015年02月
小学館刊

(2300円+税)

 


2015/03/29

 


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幕末に起きた大塩平八郎の乱、その高弟で挙兵に参加した河内の大庄屋=西村履三郎、その父親が犯した罪に問われ6歳の時から親類預けとなっていた常太郎が、15歳となり隠岐島に流刑されてくるところから本ストーリィは始まります。
いくら父親が罪を犯したからといえ、6歳の子供に連座責任を負わせ、規定の15歳になったからとたった一人孤島に流刑するとは何と過酷な仕置きだろうと思わざるを得ません。
しかし、本土での履三郎の行動を知り、畏敬を抱いていた島民は温かく常太郎を迎えます。そして身元引受人となった大庄屋の好意的な配慮により常太郎は島の医師の元に弟子入りし、医者の道を歩み始めます。

前半は、隠岐島における常太郎の成長記。そして中盤は、離島とはいえ隠岐島でも黒船来襲への危惧、黒船が持ち込んできたコレラ等の伝染病、幕末の尊王攘夷〜倒幕の動きと無縁でないことが描かれます。
そして後半は、史実としてある
隠岐騒動(松江藩と尊攘派島民との争い)の顛末。

隠岐島を舞台に、島民が味わい続けてきた苦しみ、そして幕末から維新にかけての騒動を緻密に描いた本ストーリィの重み、真実には圧倒されるばかりです。
そしてそれは島民だけのことではなく、大塩平八郎の乱〜隠岐騒動と、旧弊な幕藩体制の底辺で苦しみ続けた農民たちの姿を浮き彫りにしている、隠岐騒動はひとつの具体例に過ぎないのは明らかです。

前半は、常太郎の物語として感動的に面白く読めたのですが、後半は隠岐騒動一辺倒で、常太郎がストーリィの中心から外れるどころか観察者にもなっていないのは残念です。
また、常太郎の妻となった
お幾について殆ど描いていないところは、折角の人物像なのにと、残念至極。

   


  

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