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1.二人の嘘 2.流氷の果て 3.六月の満月 |
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「二人の嘘」 ★★★ |
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2022年11月
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全く視界に入っていなかった作品ですが、書評を読んで知り、読んだ次第です。 その結果はというと、ただただ圧倒され尽くしました。 主人公は、東大法学部、司法修習所を首席で卒業し「十年に一人の逸材」と評される女性判事=片陵礼子・33歳。 周囲から憧れられるのに対し、本人の心の内は寂しいもの。 8歳の時母親から置き捨てられ、伯母に育てられる。金がないから東大に入学、確実に職を得るために司法修習、人と交わらなくても済むから裁判官。夢も幸せも感じることなく、ただ生きていられればいい、というただそれだけ その礼子が出会ったのは、かつて礼子が判決を下した蛭間隆也。過剰防衛により雇用主を殺害した罪で、懲役4年。 出所した蛭間が、毎朝裁判所の前に佇んでいるのだという。 礼子の判決に不満があるのか、自分は何か過ちを犯したのか。 ・・・まさか、蛭間は誰かを庇って罪に服したのか? 間違いを犯してはならないという思いから蛭間に接触した礼子は、蛭間に自分と似た境遇を感じ、さらに自分が持たない優しさ、人間的な感情を蛭間が持っているのを感じて、彼に惹きつけられていきます。 そしてその結果、礼子はどう行動し、それに応じて蛭間もどう行動したのか・・・・。 蛭間、そして礼子が選んだ生き方の何と痛ましいことか。 その一方、礼子の夫である貴志と義母、殺害された吉住という男らの何とおぞましいことか。 裁判所は、正しく裁けなかった事件に対し、平然としていて良いのでしょうか。 読み進んでいる最中、本ストーリィがどういう結末になるのか、全く見当もつかず。ただただ、圧倒されているばかりです。 せめて、本ストーリィの幕が下りた後、礼子が人間らしい生き方を手に入れることができたらと、祈るように思うばかりです。 お薦め! プロローグ/1.ある判事の日常/2.門前の人/3.接触/4.過去を消したい男/5.いまを大事にする女/6.真実/7.あなたのために/8.走る/9.悲劇 |
| 2. | |
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「流氷の果て」 ★★ |
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1985年、札幌から斜里町を目指した豪華観光バスが途中の峠道で転落事故を起こし、多数の死傷者を出してしまう。 そしてそれは、そのバスに同乗していた少年・少女の人生を大きく変えてしまうことになります。 その15年後、新宿駅南口の歩道橋で中年男の首吊り遺体が発見される。その現場に赴いた新宿署の刑事=真宮篤史は、野次馬の中にいた一組の男女に目を留めます。遺体を挟むようにして立っていた彼らは、確かに一瞬視線を交わしていた。 身元不明の遺体のポケットに入っていたのは、石の破片。 そこに真宮は、1993年に起きて未解決となっている殺人事件との関わりを感じ、一人捜査を始めます。 一方、運輸省特別顧問である相沢武彦が銃撃により殺害されるという事件が発生し、新宿署に特別捜査本部が設置されます。 真宮が目に留めた男女は、全国に介護施設を展開する<陽栄ホーム>創始者、若きカリスマと呼ばれる楠木保。そして女性は、<FM世田谷>でDJを務める能瀬由里子。 その二人には、15年前の観光バス事故の生存者という共通点があった。 真宮は二人が上記事件と何らかの関りを持っていると確信しますが、それは何なのか。そして、バス事故の後、二人はどうやって生きて来たのか。 退職まで残り僅かな日数しかない真宮は、若い新人刑事の香下と共に、二人の過去を追い、何とか二人を犯罪から解放してやりたい、今の状況から救い出してやりたいと祈るように思う。 真宮の捜査によって浮かび上がって来るものは、二人がどんなに過酷な人生を過ごしてきたか、そして現在もなお重たい運命を背負っているか、ということです。 出来るものなら救ってやりたいという気持ちは、二人を知る人間にとって共通するもの、そこには読者も含まれる、と言って差し支えないと思います。 過酷な運命を否応なく背負わされてしまった少年少女たちの姿を描くミステリ。事件の解明は祈りに通じるようです。 読み応えといい、驚愕の真相といい、読み応えたっぷり、お薦めです。 ※なお、時代は大きくことなりますが、松本清張「砂の器」、水上勉「飢餓海峡」を思い出させる共通点があります。 プロローグ/第一章〜第九章/最終章/エピローグ |
| 3. | |
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「六月の満月」 ★★ |
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主人公の山井章吾は20歳の時に人を殺し、刑期20年。32歳になった今、彼が満期出所する処からストーリーは始まります。 誰も迎えてくれる者はいない孤独な身。章吾は就労支援で雇用を引き受けてくれた浅井鉄工所で働き始めますが、この先に何か展望がある訳でもなく、残りの人生をただ過ごすだけか。 そんな章吾の気持ちを変えたのは、通勤途中にある小さな弁当屋で働く巴実日子という女性。いつも明るく、誰にでも元気に接する実日子でしたが、彼女もまた癒されることのない悔い、罪悪感を胸の底に抱えていた。 お互いに寂しい身の二人が出会い、惹かれ合った処から、それまでの二人の日常に、仄かに希望の光が射してきます。 あぁ、それなのに・・・。 浅井鉄工所に新規入社してきた若者=須山琉人が、章吾に向かって「六十五番さんっすよね」と、服役中の呼び名で声を掛けてきます。いったい何なんだこいつは? 聞けば刑務所内での野球試合の際、章吾に親切にしてもらったと章吾を慕う様子。そんな様子を見て、章吾も須山のこと気に掛けるようになるのですが、その須山の登場が、章吾、そして実日子にまで影響を及ぼすようになるとは・・・。 せっかく人並みの幸せを手にするかのように見えた二人なのに、余りに切ない・・・。 終盤、明らかにされる事実はもう驚くばかり、声もありません。 もうこの先は、知りたくない、読みたくないと思いつつ、頁を繰る手が止まりません。 衝撃的な出来事に二人の未来が断ち切られず、再び続いていくことを心から願わずにはいられません。 (※なんとなく、似た結末を読んだような気がしますけれど) プロローグ/1.出所/2.出逢い/3.変化/4.崩壊/最終章.満月/エピローグ |