有沢佳映
(かえ)作品のページ


1974年生、群馬県在住。昭和女子大学短期大学部国語国文学科卒。図書館、書店等に勤務。2013年まで公立図書館嘱託職員。09年「アナザー修学旅行」にて第50回講談社児童文学新人賞を受賞し作家デビュー。14年「かさねちゃんにきいてみな」にて第24回椋鳩十児童文学賞および第47回に日本児童文学者協会新人賞をダブル受賞。


1.
アナザー修学旅行

2.かさねちゃんにきいてみな 

3.お庭番デイズ 

4.全校生徒ラジオ 

 


   

1.

●「アナザー修学旅行」● ★★☆       講談社児童文学新人賞


アナザー修学旅行

2010年06月
講談社

(1300円+税)



2010/09/04



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様々な事情で修学旅行に行けなかった中学3年生6人+αの、代替授業に登校した3日間を描くストーリィ。

中学の修学旅行、もちろん行きました、奈良・京都。その時もたぶん、何らかの理由で参加できなかった生徒はいた筈。でも、そんなことは記憶にまるで残っていません。
ですから本作品の内容を知った時、誰もが見過ごしていたスポットを見事に突かれた、という思いがして興味を覚えました。

とはいうものの、登校して一つの教室に集められた6人。クラスもバラバラで顔を知っているという程度で親しいということもない。それを表すように、座る席もバラバラに点在、という風。
皆が修学旅行中の時間を何とか過ごすだけですから、何のドラマがある訳でもない、そんなに知っている連中でもないし。
それなのに、何かが起こり、6人が結束して事に当らなくてはならないという場面が生じるという展開が、巧妙。

これまで顔を知っている程度だった同学年生と親しく交わり、意外な面で意識しているところがあったり、という点が面白い。
また、彼らの間で交わされる会話が楽しい、気持ち好い。
親しい同級生と泊まりがけで観光地を巡るという修学旅行の楽しさを味わうことはできなかったけれど、知らない同学年生と最後にはまるで一つのチームのような連帯感を共有したという点で、やはりこれは“もう一つの修学旅行”と言えるのでしょう。

ただ、親しくなったとはいえ、それはこの3日間だけのこと。来週になればまた元に戻るだけという主人公の締めが秀逸。
変にハッピーエンド、友情物語に終わらせない点が実に良い。

舞台設定といい、各人のキャラクターといい、清新な中学生ストーリィ、是非お薦めです。

           

2.

「かさねちゃんにきいてみな」 ★★ 
                
椋鳩十児童文学賞・日本児童文学者協会新人賞


かさねちゃんにきいてみな

2013年05月
講談社

(1400円+税)



2013/07/08



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アナザー修学旅行以来、待望の第2作。
本書内容は、小学生たちが集団登校する様子を11月〜12月に亘り毎朝描いたもの。

主人公となるのは、間宮小学校
“南雲町二班”の5年生=ユッキーこと上原孝行。来年は班長になるのが確定的ですが、同じ登校班の下級生5人はそれぞれ問題のある子たちばかり。
しかし、現在班長の6年生=
かなえちゃんこと深町累は誰に対してもうんざりしたりしない。そのうえかなえちゃんが一言「ちゃんとして」と言えば、皆がそれに従うという風。
来年かなえちゃんに代わって班長になっても、そんな風にうまく皆をまとめていく自信がないと、今から頭を抱えている。

ありきたりの毎日、その朝の光景を描き重ねていく作品ですが、仲間内であれこれ言い争ったり、毎朝ワイワイガヤガヤと煩いばかり。それでも視点を変えてみると、2年生から6年生までの小学生だけという小さな世界の中で、皆が生き生きとしている姿がとても印象的です。
いいなぁと感じたのは、班の中でこそ悪口を言ったり問題児扱いしたりしていても、他の班から自班の誰かを攻撃されれば皆で一致団結して仲間を守ろうとするところ。
こうした同胞感を貴重な経験となって子供たちの成長の糧になってくれればいいなぁと祈りたくなります。
 
※なお序盤にユッキーが洩らす、班長は女子の方がいい、女子の方が大人だから、という言葉は素直に納得できます。
男子の場合はどうも強引に従わせようとするところがありますから(包容力がない所為?)。

            

3.
「お庭番デイズ−逢沢学園女子寮日記− ★★


お庭番デイズ

2020年07月
講談社

上下
(1500円+税)
(1600円+税)



2025/06/20



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中高一貫の逢沢学園、一年生から六年生までの女子生徒が共同生活を送る女子寮を舞台にした、学園小説。

何と言っても圧巻なのは登場人物が多いこと、何と70人超。そしてその一人一人が個性を持った生徒として描かれているのですから、賑やかであり、かつすこぶる楽しき哉。
(大勢いればいろいろな生徒がいるものですねー。)

私自身、寮生活の経験はありませんし、寮生活が全て良いことばかりとは思いませんが、寮だからこそある他クラスの生徒や上級生との身近な交流という処は、良いものだなぁと感じます。

さて、題名にある<
お庭番>とは何ぞや。
女子寮のモットーは
“ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル”、つまり人助け。問題解決のためにはまず情報収集、そのための偵察隊が必要という訳で、そのために設けられているのが<お庭番>という次第。
今までその職にあった3年生が外部高校へ進学することになったため、その後任として 1
01号室の1年生=戸田明日海(アス)、藤枝侑名、宮本恭緒という3人が芳野寮長から指名されます。幽霊であるレイコ先輩まで含め、全員の総意と。
新お庭番となったアスたち3人、どんな活躍を見せるのやら。
安易に大人に頼らず、自分たちで解決しようという姿勢良いですよね。

「悪あがきの二学期デビュー」:お庭番に指名されたものの、それじゃ楽できないと、アスが悪あがき。さて顛末は・・・。
「恋に落ちたら」:“ラブ・ハンター”という異名をもつ通学生の西村由利亜(4年)、ストーカー紛いの行動が迷惑と、男子寮から苦情かつ対処依頼。寮長からお庭番に使命が。
「ババアにインタビュー」ミカチュウ先輩(5年)がバイトしているババアの店(宝田商店)に万引き被害の疑い。自分が修学旅行で不在する間、気にして欲しいとの頼み。
「真冬の怪談」食堂のおばさんからの依頼。通学生である娘の吉沢聡美(3年)が何か悩みを抱えているらしく、学業成績も低下。娘の力になってやってほしい、と。

1.悪あがきの二学期デビュー/2.恋に落ちたら/3.ババアにインタビュー/4.真冬の怪談

                   

4.
「全校生徒ラジオ ★★


全校生徒ラジオ

2024年08月
講談社

(1500円+税)



2025/06/27



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全校生徒、たった4人という辺境?の中学校。
4人が一緒に学校で過ごせるのも来年の3月までということで、この夏休み、4人は
ポッドキャストで雑談番組を始めます。
名付けて
<全校生徒ラジオ>という次第。

作者の有沢さん、いつもながら目の付け処が独特というか、予想外にお見事というか、相変わらず楽しませてくれます。
  ※なお、本作は全編、横書きです。

れなどん、橘(たっちー)は3年、なつみは2年、モモは1年という4人(それぞれ仮名)。
生徒が4人だけだからでしょう、学年の違いに関係なく仲が良さそう。そのくせ
「普通の学校にいたら4人は別々のグループでしょ」というのですから、愉快。

毎度なつみの家に集まって、和気藹々、気心のしれた仲間同士で交わされる雑談は、聞いていてすこぶる楽しい。
でもそれに尽きるストーリーだよなと思っていたら、徐々にリスナーが増えていき、意外な人気を得ていく。
そして本人たちが思いもよらなかったことに、悩みを抱えていた同年代リスナーたちに元気を与えていく。
仲間の輪を広がっていく、と言ったら良いでしょうか。その辺りは彼女たちの健やかさを見るようで素晴らしい。(拍手)

何と言っても、中学生4人のおしゃべりの輪に加わっている気分になれるところが楽しい。
読者の好み次第だと思いますが、中学生たちに仲間入りしてみようと思える方たちならきっと楽しめる筈。お薦めです。

※なお、4人の配信を密かにフォローしている不登校の男子高校生が、毎回最後に登場します。彼は一体・・・?


第1回.ポッドキャスト始めました!(7/23配信)/2.映画版「補習の魔法時間」の感想を語るよ(7/25)〉/3.セルフ悩み相談回です!(7/27)/4.わたしたちのおすすめポッドキャスト番組(7/30)〉/5.おたよりが来た!(8/2)/6.企画会議という名のフリートーク+救世主降臨!(8/4)〉/7.おたより2通って、ほんとのラジオみたいじゃない?(8/7)/8.ツイッターでもらった質問に答えます(8/10)/9.なんだかまったりフリートーク回です(8/11)/10.共学と女子校と男子校、行きたいのはどこ?+おたより回!(8/13)/11.無計画な長フリートークと夏休みの宿題について(8/17)/12.めちゃめちゃうれしいお返事&なつみのくだらない(?)悩み(8/18)/13.未来(2学期)に想いをはせる回(8/21)/14.緊急!まだ最終回じゃない回(8/23)/15.夏休み最終日スペシャル(最終回じゃないよ!)(8/25)

      


   

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