ニール・サイモン作品のページ No.1


1927年米国ニューヨーク市ブロンクス生、ニューヨーク大学中退。テレビの放送作家を経て劇作家となり、61年の処女作「カム・ブロー・ユア・ホーン」以降ブロードウェイにおいて次々とヒット作を連発し、現代アメリカを代表する喜劇作家となる。代表作は「裸足で散歩」「おかしな2人」「サンシャイン・ボーイズ」等。91年「ヨンカーズ物語」にてトニー賞・ピュリツァー賞を受賞。 


1.
カム・ブロー・ユア・ホーン
−戯曲集No.1−

2.プラザ・スイート−戯曲集No.1−

3.ジンジャー・ブレッド・レディ−戯曲集No.2−(映画“泣かないで”原作)

4.二番街の囚人−戯曲集No.2−

サンシャイン・ボーイズ−戯曲集No.2−

名医先生−戯曲集No.2−

第二章−戯曲集No.2−(映画“第二章”原作)

カリフォルニア・スイート−戯曲集No.2−

ビロクシー・ブルース−戯曲集No.4−

10おかしな二人(女性版)−戯曲集No.3−


ブロードウェイ・バウンド、噂、ヨンカーズ物語、ジェイクの女たち、書いては書き直し、第二幕、23階の笑い、ロンドン・スイート、求婚

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1.

●「カム・ブロー・ユア・ホーン」● ★★★
 原題:"
Come Blow Your Horn"     訳:酒井洋子

  


1961年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集1
第2刷

(2700円+税)

 
1985/01/13

私としては、サイモン劇の中で最も繰り返し読みたくなる作品です。その理由は、一番安心できる、喜劇の原型どおりの作品だからかもしれません。
ストーリィは、頑迷な父親、その拘束の中から逃げ出そうと親元を離れて都会でのアパート暮らしを選ぶ2人の息子。そして、結局は、愛する女性を手に入れる(結婚する)為に、父親が繰り返し説くとおりの生活に戻る長男、というのが主筋。
喜劇としては、ドタバタ劇という単純な手口ですが、それが安心感、気軽に楽しめる雰囲気を醸し出しています。そして、特筆すべきは、電話という小道具の使い方の旨さ! 母親が電話を取り次ぐのに右往左往したり、主人公が電話にせつかれたりする有様が、とても面白いのです。
本作品への満足感の一方で、こうした生活が現代アメリカの何処に消え去ったのか、と考えさせられます。
長男アランの恋人コニーの希望は家庭の主婦になることであったし、アランが選んだコニーへの回答も、最終的に結婚でした。古き良き時代の理想的家庭観がそこにあった、と感じます。
読んでいると、観客の笑い声が聞こえてくるような、そんな楽しさのある健康的な喜劇です。

   

2.

●「プラザ・スイート」● ★★
 
原題:"Plaza Suite"     訳:酒井洋子

 
1968年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集1
第2刷

(2700円+税)

 
1986/10/20

3幕から成るオムニバス劇。
ドタバタ喜劇とはいうものの、各々の登場人物たちの生活を、端的に言い表している点は見事なもの。
ことに、第三幕。結婚式をあげている最中の娘がバスルームに閉じこもってしまった、親2人の困惑ぶりがとてもおかしい。
けれども、娘の閉じこもった原因が、自分たち夫婦の今の姿にあると気付かされて絶句する辺り、何とも言えない絶妙の味わいがあります。

単なるドタバタ劇に終わらず、人生の機微というような味わいを後に残すところは、さすが、と思わざるを得ません。

ママロネックの客/ハリウッドの客/フォレスト・ヒルズの客

    

3.

●「ジンジャー・ブレッド・レディ」● ★★★
 原題:"
The Gingerbread Lady"     訳:酒井洋子


 
 

1970年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

    
1986/10/22

サイモン戯曲の中で、好きな作品のひとつです。
主人公のエヴィ、その娘ポリー、同性愛者であるジミートビーと、登場人物すべてが魅力的で、可愛らしくもあります。
女優である主人公のエヴィは、男好きのアルコール中毒者でありますが、酔い方にも可愛らしさがあり、憎めません。
一方、ポリーという娘は、独立心旺盛で、まさにアメリカ的なしっかりした娘です。エヴィがポリーに対して、「大人になったら、ポリーのようになりたい」というセリフは、我々凡人がこうありたいと望むところと似ています。
エヴィの元夫=ポリーの父親は、舞台には登場せず、エヴィとポリーの会話の中にのみ登場しますが、彼もまた魅力ありそうな人物です。
結末は、余りに安易という批判もありそうですが、しかし、結局それが多くの人の望むところではないか、という気がします。
安易さだけを理由に本作品を軽んじるのは誤りだと思います。

※なお、本作品は“泣かないで”という題名にて映画化され、サイモン夫人であるマーシャ・メイソンが主演しました。私の好きな映画です。

   

4.

●「二番街の囚人」● ★★★
 原題:"The Prisoner of Second Avenue"     訳:酒井洋子

  

 
1971年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

     
1986/10/22

小品と言うべき作品です。
メルエドナの中年夫婦が主人公。メルの失業、そして泥棒に入られ、またしてもメルの失業、という展開。
これまでか、これまでか、と痛めつけられる姿の2人ですが、最後にメルが男性らしさを取り戻すと同時に、初めて独立した一人の大人となるのが、この劇の救いです。
失業した故の興奮、メルと兄弟の会話から、メルが4人兄弟の末っ子として可愛がられ、他人に依存する傾向の強い人間であることが明らかになります。そのメルが、挫折を越え、漸く独り立ちする様子を描くのが、本作品のテーマです。
そのメルが、階上の部屋からバケツの水を浴びせ掛けられるシーンは、圧巻! 
上記シーンは2回ありますが、最初はメルの自業自得のもの。しかし、2度目はエドナを庇ってのことであり、その中味はまるで違います。バケツの水が、メルという人間の変化を、はっきりと表しています。
電話といい、バケツの水といい、サイモンの小道具の使い方は、思わず唸ってしまう程上手です。

      

5.

●「サンシャイン・ボーイズ」● ★★  
 原題:"The Sunshine Boys"     訳:酒井洋子

  
1972年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

  

2001/09/23

ニール・サイモンというと、必ず本作品の名前があがる程、サイモン劇の中にあって名高い作品です。
昔人気者だったコメディアン・コンビ2人、ウィリーアルに、往年の名コンビぶりをなんとかテレビで演じてもらおうと、周りが奮闘するといった劇。しかし、この2人、お互い憎しみ合っているという位に、仲が悪く、そう簡単にことは進みません。
ウィリーのアルへの対抗心や、2人の感情的対立等がその原因。
2人が唯一意見一致するのは、お互い気が合わないと自認することだけなのですから、どうしようもありません。
結局、コンビ復活はあきらめられ、アルは俳優専門の老人ホームへ。ウィリーもまた甥ベンの勧めに従い同様の決心をすることに至ります。
人生の黄昏時、ということを強く感じさせられた作品でした。

   

6.

●「名医先生」●  ★★
 
原題:"The Good Doctor"      訳:鳴海四郎 

  
1973年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

  
1986/09/23

冒頭の、くしゃみの小役人の話は、まるでゴーゴリ作品のようです。典型的なロシア役人世界を戯画化したものです。
この一連の劇が、チェーホフを意図したものであると聞くと、成る程と思わざるを得ません。
しかし、ひとつにまとまったストーリィはなく、一人の作家を紹介者として仲介させ、無理にひとつの戯画としたもので、中味のひとつひとつは、全く独立した趣の劇となっています。

サイモンらしくない、と言えばそれまでですが、プレイボーイの劇を見ると、女性の心をくすぐるようなやり取りは、サイモンらしい繊細な心の動きを的にした作品と言えます。

   

7.

●「第二章」●  ★★★
 
原題:"Chapter Two"     訳:福田陽一郎・青井陽治

 

 
1977年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

  

1986/10/26

サイモン劇の中でも、最も好きな作品のひとつです。
何度読み返しても魅力ある作品だと思いますし、またすぐにでも読み返したくなる作品でもあります。
また、この作品は、最初の妻に死に別れたサイモンが、女優マーシャ・メイソンと知り合って僅かな期間で再婚したことを正当化する自伝劇ではないか、という指摘もある作品です。
実際どこまで事実どおりで、どこが違うのか。そんなことは別にして考えても、本作品は素晴らしい戯曲です。
第一に、女優ジェニーと作家ジョージの電話での出会い、最後の和解シーンも洒落ていますし、2人のアパートを同時設定し、2人の側を対等に描くなど、構成面でも優れているところが多くあります。
第二に、ジェニーとジョージの真面目な生き方、および自分自身に正直な点、観客の共感を呼ぶ部分でしょう。それは、ジョージの弟レオとジェニーの友人フェイの、曖昧な浮気場面と極めて対照的であり、故に2人の主人公への好感を引き立てています。

※映画の“第二章”では、サイモン夫人であるマーシャ・メイソン、ジェームズ・カーンが競演しました。この作品を読むときは、いつも2人の姿が目に浮かびます。2人とも適役でしたし、マーシャ・メイソンはいつもどおりに魅力的でした。

   

8.

●「カリフォルニア・スイート」● ★★
 原題:"California Suite"     訳:酒井洋子

  

 
1976年発表

1984年12月
早川書房刊
戯曲集2
(2800円+税)

 

1986/04/23

カリフォルニアにあるホテルの一室を舞台に展開する、4話から成るオムニバス劇。

第1話「ニューヨークの客」は、離婚した男女の、娘をめぐる話し合いの場面。ジンジャー・ブレッド・レディを思い出させる人物設定で、家庭的になった元夫と、ニューヨークに固執する元妻。結局元妻が折れることになり、読者をほっとさせる結果で終わる、典型的なサイモン劇です。

第2話「フィラデルフィアの客」は、甥の割礼式の為カリフォルニアにやってきた夫の浮気の話。妻の側に同情しつつも、夫の立場に共感させ、結局妻が我慢して終わる結果に胸をなでおろすという、ストーリーだけ聞けば女性が憤慨しそうな内容です。結果的に夫は楽しみ、妻が耐え忍ぶという、現実の残酷さを軽く、かつ鋭く描いてみせる辺り、さすがサイモンです。

第4話「シカゴの客」は、まるでドタバタのコメディ。2組の夫婦のやること為すこと、お互いの喧嘩になることばかり。

サイモンにしては、ストーリィがちと乱暴という印象を持ちますが、4幕の劇によりひとつの戯曲作品が構成されているということを思えば、各々4幕の対照的な違いは充分楽しめますし、最後にこうしたドタバタ劇をもってくることにより、結果的に気軽に楽しめる劇になっています。

ニューヨークの客/フィラデルフィアの客/ロンドンの客/シカゴの客

   

9.

●「ビロクシー・ブルース」● ★★
 
原題:"Biloxi Blues"      訳:鳴海四郎

 

1985年発表

1988年08月
早川書房刊
戯曲集4
(2500円+税)

  

1988/10/10

「思い出のブライトン・ビーチ」に続く自伝的なBB3部作。
この2作目は、主人公ユージンが戦争へ行った時の話です。もっとも、訓練のみに留まったものですが。

ここでは、ユージンはあくまで傍観者です。何ひとつ自分では実行をしていない。せっせと回想録を書いていますが、すべて他人のことばかりです。同じユダヤ人でも、曲りなりに自分の信念を持ち、自己を確立しようとするエプスティンとは雲泥の差です。
ユージンの目的は3つあります。作家になること、童貞を捨てること、恋愛をすること。そして、その2つは目的を果たします。しかし、それは単にそういうことがあったというだけで、深く掘り下げられるものは何もありません。この作品の中で、ユージンは他の5人以上に何者でもない存在でした。
ただ、彼はこの中で教訓を学んでいます。書いたものが人に読まれたとき、それは事実になりかねないということを。したがって、そこには大きな責任が生じるということ。これは、将来の作家たるユージンの第一歩の試練だったのかもしれません。

   

10.

●「おかしな二人(女性版)」● ★★
 
原題:"The Odd Couple,female version"     訳:酒井洋子




1986年発表

1988年08月
早川書房刊
戯曲集3
−改訂版−
(2800円+税)

 

2006/09/10

“ニール・サイモン戯曲集”で唯一読み損なっていた作品、漸く読めました。
読み損なっていた理由は、買って読んだ“第3集”が3年後改訂され、「思い出のブライトン・ビーチ」が“第4集”に収録された代わりに本作品が第3集に収録されたため。今更買い直しという訳にもいかず、涙を呑んでいたという次第です。

この「おかしな二人(女性版)」、題名どおりに第1集に収録されているヒット作「おかしな二人」をそのまま男性から女性に置き換えたもの。
突然離婚を言い渡された仲間に同情して同居を申し出たものの、相手の異常なまでの潔癖症、掃除好きに苛立ちが募り、遂には相手を追い出してしまう、というストーリィ。
男性の顔ぶれが女性に代わったというだけで、ストーリィは殆どそのままです。敢えて変わった点を挙げるとすれば、ポーカーゲームがクイズ・ゲームに、主役2人のデート相手が英国人姉妹からスペイン人兄弟に変わった、という程度です。

もっとも、定例的にポーカーゲームをやる男たちの自堕落な雰囲気に対する潔癖症のフィリックス・アンガーという人物には、珍奇な印象をもったものでした。
それが「女性版」では独身や既婚の女たちが定例的にゲームに集まり憂さを晴らすという設定になりますが、そのことが納得いくような時代になったかもしれない。また、潔癖症の主婦フローレンス・アンガー、あんな女性いかにもいそうだよなぁ、と思える点は「男性版」よりすんなり納得しやすい。
また結末では、男性版・女性版とも追い出す方も追い出された方もそれなりに治まるところに治まりますが、これも女性版の方がすんなり納得できます。
唯一読み損なっていた一作を読み終えて、ようやく早川書房さんに対する長年の恨みも消えた次第。

       

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