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Myriam Leroy 1982年ベルギー生。ジャーナリスト、作家。ベルギーの様々な雑誌に寄稿し、テレビやラジオへの出演も多数。インターネット上の女性に対する迫害をテーマにしたドキュメンタリー映画の製作にも携わる。デビュー小説「Ariane」はゴンクール賞新人部門にノミネート。 |
「わたしがナチスに首をはねられるまで」 ★★ |
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2025年05月
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2020年、ブリュッセルの墓地を散歩中だった著者は、「1942年に斬首された」という文言が刻まれた墓碑を見つけます。 その墓に埋葬された女性は、マリーナ・シャフロフ=マルターエフ。いったいどんな女性だったのか。 本作は、歴史から抹殺された実在の女性マリーナを描く物語であると同時に、マリーナという女性の真実を探ろうと関係者に取材等した著者の足取りを描いた物語。 (客観的に書くためでしょう、著者自身のことは「あなた」として記されています。) マリーナの一家は、ロシアからのベルギー移民。やはりロシアから移住した6歳下のユーリに惚れこみ、23歳で結婚、二人の息子に恵まれます。 しかし、1940年ドイツはオランダ・フランス・ベルギーに軍事侵攻し、ベルギーは僅か18日で全面降伏。ナチスの統治下におかれます。 夫のユーリをはじめ、口先だけ勇ましいが実際にはナチスと戦おうとしない男どもにマリーナは呆れ、自分自身で行動しようと決意する。そして夜、一人で行動するナチスの将校を襲い、その挙句に自首、斬首刑に処せられたという次第。 彼女はいったいどんな女性だったのか、何故そんな行動に出たのか、残される家族のことは考えなかったのか、いろいろな疑問が浮かびます。 しかし、殉教者、伝説化を恐れたナチスによって歴史の中に忘却させられてしまう。 本作からショックを覚えたのは、彼女の行動、そして斬首という残酷な事実、さらに忘却という扱いのこと。 マリーナの戦いは、単なるナチスへの抵抗というだけでなく、男性優位社会に対する一人の女性としての抗戦だったのではないかと考えます。 その後の彼女の子どもたちが辿った運命を含めて考えると、彼女の行動の是非を判断することは難しいのですが、マリーナという女性の存在を歴史から抹殺してしまった行為は極めて不当、と感じます。 本作によって、マリーナという女性の存在が歴史に刻まれることを祈ります。 |