低強度紛争戦略とは何か(橘さんより)



今回は橘さんが研究している米国の戦略について紹介したいと、
思います。詳しくは、橘さんのホームページを見てください。
HPのURLは下記:
http://www.portnet.ne.jp/~kazu-t/home/index2.html

(本文)
 1978年のニカラグアにおけるサンディニスタ革命、そして
イランで発生したアメリカ大使館人質事件は、ベトナム・シンドロ
ームが深く社会に浸透して対外介入に関して消極的になっていた
アメリカに、再び積極的な介入主義的政策をとらせる契機となった。
しかしながら直接的かつ大規模な介入はベトナムでの教訓により避
けられ、間接的で小規模な介入政策が追求されるようになった。

 そのような状況の中で大統領に就任した保守主義者のレーガンは、
「強いアメリカ」の再生を主張してレーガン・ドクトリンを打ち出し、
新たな介入政策として低強度紛争戦略を採用、発展させていったので
ある。

 低強度紛争とは、通常戦争よりも下であるが、国家間の日常的で
平和的な競争関係よりも上の、対立する国家または集団間における
政治的・軍事的紛争である。それにおいてはしばしば、対立する主義
及びイデオロギー間の争いが長期化する。低強度紛争の範囲は破壊
活動から軍隊の使用にまでわたる。

 この定義からも分かるように、アメリカ軍では武力紛争をその強度
により区別して戦略を立案している。高強度紛争は核戦争や第一次
・第二次世界大戦のような世界的全面戦争を、中強度紛争はイラン
・イラク戦争やフォークランド紛争のような地域紛争を、そして
低強度紛争は、主として第三世界における「通常戦争よりも下である
が、国家間の日常的で平和的な競争関係よりも上の、対立する国家
または集団間における政治的・軍事的紛争」、つまり「ゲリラ活動」
や「テロ」をそれぞれ指している。

 しかしこれらの区別は明確になされているわけではなく、その定義
は未だ確立されていない。
なぜなら武力紛争を区別する際の基準を何にするかが問題となるから
である。
例えば、1983年のベイルート爆弾テロ事件では駐留米軍に241
人もの死者を出したが、この数はフォークランド紛争における全イギ
リス軍戦死者数に匹敵する。したがって死者の数を区別の基準とする
と、ベイルート爆弾テロ事件と国家間の争いであるフォークランド
紛争が、同じ強度の紛争として処理されるということになってしまう。

 しかし、「低強度紛争」という言葉が有する曖昧さは、それを促進、
遂行しようとする者たちには有利に働く。なぜなら、その曖昧さ故に
反対派はその運動の焦点を絞ることが難しくなり、その結果としてベ
トナム戦争時のような、国内を二分するほどの大規模な反対運動を
回避することができるからである。また「ゲリラ活動」と「テロ」と
いう言葉の厳密な区別も、アメリカの第三世界に対する介入政策を考
えるに当たっては全く意味のないことである。

「ゲリラ」であろうが「テロリスト」であろうが、いわゆる
「パクス・アメリカーナ」に異議を唱える者は全てアメリカ軍の
攻撃対象となるからである。結局その定義がどのように確立されたと
しても、低強度紛争は「アメリカの軍事機構の再編成」と、「第三世界
の革命勢力や政府に対する反共十字軍に軍事力を行使するという誓い
を新たにしたこと」を意味するのである。そして「低強度紛争」という
言葉には、「低強度紛争は一般的に第三世界地域に局地化されるが、
地域的および国際的安全保障に密接な関係を有している」という定義
から逆に考えると、第三世界の「パクス・アメリカーナ」に対する
異議申し立てを「第三世界内に局地化」してしまいたい、言い換える
とアメリカにとって「低強度」のうちに処理してしまいたいという願望
がそれには込められているのである。 

 そしてそのような願望に、ベトナムでの失敗が大きく反映している
ことはまず間違いない。したがって低強度紛争戦略の遂行には以下の
4点が重視されている。

第一にアメリカは、純粋な軍事的手段のみならず、政治的、経済的、
文化的、社会的な手段を複合的に用いる必要があった。
第二に、当該紛争に長期的に関与できる忍耐力、耐久力、持久力が
要求された。
第三に、アメリカの直接的軍事関与を最小限度に抑え、規模もエスカレ
ートさせてはならなかった。
そして第四に、干渉に対するアメリカ国内の支持を動員し、かつそれ
を維持することが要求された。
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(著者Fの見解)
 強・中強度紛争では2正面作戦ができないと米高官が表明して、
今後は低強度紛争対応と、政略等の手段で切り抜けることになる。

 どんどん、米国軍事戦略が後退していっている。アンチ・グローバリ
ストの方向になってきた。このため、地域集団安保の考え方を取り入
れていかないと、日本や東アジアの安定がなくなる?EAECの構想
を進める必要が出てきたようです。
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(共同通信から引用)
11/11 09:44 「2正面作戦」遂行は困難 即応態勢低下と米高官

 【ワシントン10日共同】米国防総省高官は十日、米陸軍十個師
団のうち二個師団が有事即応態勢の評価で最低とランク付けされ、
朝鮮半島と中東での二つの地域戦争に勝利するとの米軍の主軸戦略
「二正面作戦」の遂行が困難になっていると指摘した。     
 冷戦後の米軍の人員・装備の削減や国連平和維持活動(PKO)
への投入が理由とされ、今後、即応態勢の低下が他師団にも広がれ
ば、東アジア情勢にも微妙な影響を与えそうだ。        
 高官によると、四段階評価の最低ランク「C4」となったのは第
一歩兵師団(司令部ドイツ、重歩兵)と第一○山岳師団(同ニュー
ヨーク州、軽歩兵)。第一歩兵師団は兵員の四五%をボスニアの平
和安定化部隊(SFOR)に、第一○山岳師団は三五%をコソボの
国際治安部隊に派遣している。 
 高官は「二正面戦略は米軍全兵力の導入が必要だが、二個師団の
司令官は二つの地域戦争では、求められるスケジュールで参戦はで
きないと判断している」とし「米軍は二正面と(コソボのような)
小規模有事の同時対応を想定していない」と語った。      
 高官によると、米軍は二正面と小規模有事を想定した兵力の展開
移動計画や、平和維持活動への州兵の積極利用などを検討している
。                             
 米軍は冷戦末期には総兵力二百二十万(陸軍師団数十八)だった
が、現在は百四十万(同十)まで減少。冷戦時代になかった平和維
持活動などへの参加で「非常に忙しい軍隊」(シェルトン統合参謀
本部議長)となっている。                  
(了)  991111 0944  

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