おおきな木

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おおきな木


■第9回/おおきな木

 この絵本は、かつて某通販会社で発行のカタログに掲載されていたもので、その存在は以前から知っていた。当時、筆者はカタログ制作に関わっていたゆえ、そのスペックから大ざっぱな内容だけは把握してはいたが、実際に読んだ訳ではなかった。今、そのカタログが手元にある訳ではないので、詳細は記せないが、強く残っているのは「無償の愛」ということであった。

 むしろ、今回このコーナーでこの絵本を紹介するにあたって、漠然としたものしか知らなかったことが、かえって良かったと思う。もし、当時のカタログで記載されていた内容をほぼ完璧に覚えていたとしたら、やはりそのスペックが先入観となってしまう気がするからである。

おおきな木表紙 原題は「THE GIVING TREE」。つまり与える木という意味だろうか。作者はシェル・シルヴァスタイン。写真を見かけたことがあるが、ひげ面で、正直なところ絵本作家というイメージにはほど遠い人物であったと記憶している。さて、内容であるが、非常にシンプルでありながら、何とも奥が深い。1本のりんごの木がある。その木はある子どもと大の仲良しだった。子どもはりんごの木で木登りをしたり、枝にぶらさがったり、りんごを食べたり…子どももそのりんごの木が大好きで、木も子どもが大好きだった。

 しかし、子どもは成長する。それに伴って考え方も子どもの頃とは違ってくる。「お金が欲しい」…成長した子どもが言うと、木は自分になっているりんごをもいで、売ってお金にすればいい、と教える。それならば、と青年になっていたかつての子どもはりんごをすべてもぎとって行ってしまう。でも木はうれしかった。

 さらに成長し、すっかり大人になったその子は今度は「結婚したい、子どもが欲しい、だから家が欲しい」と言う。そこで木は自分の枝を切って、それで家を建てればいい」と言う。壮年になった男はその言葉通り、枝をすべて切り取って、持っていってしまう。でも木はうれしかった。

 そしてさらに年をとったかつての子どもは「遠くへ行きたいから船をくれ」と言い出す。木は自分の木の幹を切り倒し、それで船を造れば」と言う。年取った男はその通りに木の幹を切り倒し、船を造って行ってしまう。でも木はうれしかった。

 そしてさらに長い年月が過ぎ、もうすっかり老人になったかつての子どもが、また木のもとに帰ってきた。が、もう何もあげられるものが残っていない木は、自分にはもうなにもないことを告げる。しかし、老人は「もう、たいして欲しいものはない。ただ、座って休む場所があれば」と言う。それなら、と木は精一杯に背筋を伸ばし、残った自分である切り株に座ってやすみなさい、と言う。老人はそれに従って座る。木はそれでうれしかった。

 以上があらすじである。絵は線画でモノクロという非常にシンプルなものである。そして文章も今まで簡単にご紹介してきたようにわかりやすい表現で、子どもから老人になっていく男の姿と、その度にやはり姿を変えていく木の様子が、同じ言葉を繰り返し使うことで、あるリズム感を感じる。「きは それで うれしかった」…この表現が男の要求に応え、姿を変える度に繰り返される。淡々としている、と言えばその通りの展開なのだが、何故か深く心に残る。

 考えてみれば、子どもの頃から成長するにつれて、男は自分勝手で、自分の欲求を満たすためにりんごの木から順番に欲しいものを持っていく。しかし、「きは それで うれしかった」…と、一向に自分が「犠牲」になったとは思わない。まさに「無償」なのである。自分の身を少しずつ削られ、それでもよろこびを感じているのである。「与えることのよろこび」である。

 確かに「現実的」ではないかもしれない。そこまで「無償」を貫き通せるものか?と反感を持つ方もいるだろう。人間はそこまで強くない、どうしても「見返り」を心の奥底で期待してしまうものである。作者であるシェル・シルヴァスタイン氏はこの作品を通して、何を言いたかったのだろうか?何を読みとってほしいと思ったのだろうか?「無償の愛」なのだろうか?確かにそうかもしれない。そして同時に人間のエゴも表現したかったのではないだろうか?りんごの木という自然界の生物に対して、あまりにも身勝手な人間の存在…自分のためなら自然であろうが、おかまいなしに何でも破壊してしまう人間という生き物。「無償の愛」というあまりにも尊いテーマの裏側をも感じずにはいられない。

 正直なところ、読んだあと、自分自身を恥じる部分が多々あった。形は違っても自分自身もこの成長し、年をとって、老人になっていく男と同じ行為があったことを認めざるを得ないからである。そして、人間らしい、といえばそれは弁明になるのだろうが、何かを与えたとき、知らず知らずのうちに心の奥底で「何かを求めている」自分自身を認めざるを得ないからである。その意味で、奥深い素晴らしい作品に出会えたよろこびと同時に、妙に心が痛い思いをしたことも事実であることを正直に記しておきたい。


おおきな木
シェル・シルヴァスタイン作・絵●ほんだきんいちろう訳●篠崎書林刊●880円(税別)●227×180mm●28ページ
表紙
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