2016.12
地域で支える地域包括体制
座談会 新しい時代に向けた地域包括支援
- 地域包括支援とは急にできた考えでは無く,1986年のころから地域福祉学会で提唱されている.地域包括というと地域包括ケア研究会がまとめた報告書と2015年に厚労省が出した「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現」が有名だが,前史を考えると一つは医療系,そしてもう一つは行政と住民が協働して地域を作る福祉の側面である.また長野県茅野市で策定された「福祉21ビーナスプラン」とか保健福祉エリア構想なども地域包括的な取り組みと位置づけられる.
- 入所施設の職員だった人とか老人病院で手足を拘束されている人たちを見て,これではいけないという思いで地域福祉や地域包括ケア的な実践をしている人などが混ざっている.また地域福祉の大御所,大橋健策先生とか上野谷加世子先生が入っている内容.
- 専門家と言うよりも一般の素朴な視点で見る必要がある.そうした一般市民の生活センスを大事にすれば地域包括ケアで何をするべきかが分かる.施設ではサービスをパッケージ化してしまう.在宅サービスでは制度化されたものとそうではないものがある.そうではないものをどうするか.NPO法人法の改正により行政に認められるとか市民活動を行うと言うことが容易になって,ニッチなサービス提供がビジネスとして成立できるようになった.
- また対象者のみでは無く,その家族も問題がある場合がある.80代の認知症の親と無職の50代の息子とか,子どもが精神障害や知的障害で,親が要介護状態であったり…こうした家族をトータルで考えていくことが必要となる.→富山型と言われる高齢者も子ども障害のある人もみんな一緒にというスタイルへと昇華している.
- 富山型では,まだ分野別の相談となってしまっているが,今後は総合化していくことが求められる.そのためには属性分野ごとに教えている福祉教育の見直し,地域での暮らしではソーシャルワーカーだけではなく,施設,医師,看護師,栄養士を意識的につなげる.そして住民に協力してくれる体制を組まないといけない.
- 人材育成に関しては,福祉分野の知識だけでは無く医療面…単価や仕組みについての実務的な知識が非常に役に立つ.それを理解するとより良いケアプランを作ることができると思う.
- 訪問看護や保健師の活躍がより求められる.それはアウトリーチをしていくことにつながる.それができないのは,福祉教育のせいである.どうしても憲法25条ばかり目が行き,13条の個人の尊重や生きる喜びについて忘れがちになっている.様々な自立がある中で経済的・労働的自立ばかりに目が行っている.
- 長い間厚労省が決めた政策を市町村に下ろしたものを1999年以降は,市町村で行えるようになったのだからどんどんと独自性を打ち出していけばいいと思う.
- 地域包括が広がらない理由として,個別支援に即応できるシステムをどう作るか.次に税源を含めた運営管理を行う必要があること.そして,個別支援のコーディネーターをどう育成するかである.
- 街づくりができて福祉もわかるプロデューサー的な人材が行政にいたり,街づくりに長けた外部人材がいると地域包括ケアシステムは回ることができる.そうでないと行政と地域がまったくつながらずみんなイライラしているというケースがある.
- 地域包括ケアといいながら,施設が増えて高齢者がデイや施設に行きいなくなっているような気がする.本人の尊厳をまもるはずなのに家族に意向が尊重されている.家族が本人の尊厳を具体化するために協力してくれると良いのだが…
- 個別支援の事例を積み重ねていくことで,地域が変わっていく.
地域のニーズを地域で支える(岩間伸之)
生活困窮者自立支援法などで社会的排除のない社会を目指していることに言及.総じて生きづらさを抱えている人をいかに支援するかを軸に論じている.生きづらさを本人の側から考える姿勢が大事で,そのニーズを視野に入れること.制度の中で考えるのでは無く,生活の中にある複数のことが一体的に生じているという視点.そして生活は地域と結びつき,地域が問題をはらんでいることを覚えていくこと.人が制度に合わせるのでは無く,制度が人に合わせるという考えを持つこと.それが地域福祉である.
総合相談は近年の地域における相談支援体制を象徴する重要な概念である.総合相談は中学校区くらいの小規模で,アウトリーチや伴走型の個別的・継続的支援の拠点とする.そして個別支援と個別を支える地域支援を一体的に行うこと.専門家と日常的に連携できる住民の担い手の存在.それをバックアップする広範な社会資源の存在が欠かせない.そして出口として地域がどのようにあるのかという形…一つの個別支援が地域を変えるという考えの下で地域福祉を推進すること.しかし,入り口と出口ができてもそこに至るプロセスがないと出口には至らない.プロセスこそが援助の特質で在るとも言える.
アウトリーチとは戸別訪問だけでは無く,本人の生活の場に近いところに出向き,本人を起点として援助を展開する実践の総体である.地域を拠点とした援助を展開することも含まれている.
福祉サービスの効率化に向けて(田島誠一)
論者が考える効率化とは,お金と時間を無駄なく使うことで生まれる余裕を利用者のサービスの充実へと振り向けることである.利用者を全人的に向き合い,支えることで職員の自己実現を図っていくことであると.
2015年に厚労省から「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現」が出され,そこで効率的・効果的なサービス提供の必要性や生産性の向上を歌われた.これは厚労省が福祉サービスについて使用したのは初めてだと思う.その上で,効率化とは提供する側の手抜きでは無く,福祉観に支えられた物では無いといけないこと.生産性の向上は業務の効率化によって実現されること.これまで労働を削ることしか考えてこなかった.また生産性を上げるために投下する費用をケチってきた.その結果,効率という言葉への忌避的感覚がある.組織体制の見直しや直接サービス提供場面での見直しなど改善する余地はたくさんある.また離職率の高い職場は非効率の極みと言って良いという考えで人材育成を図ること.事務処理合理化,記録のICT活用で天気のロスを無くすなどやれることはたくさんある.その結果,サービスの創意工夫二時間をかけることが大事である.