2009.4
生きる力ー自殺を防ぐには
「自殺させない地域社会」を作るために(清水康之)
- 1998年3月ショックというのがある.今まで2万人台だった自殺者数が3万人を突破.この年の決算期に,金融破綻が非常に起こり,倒産件数も過去最多など日本の経済状況が悪化したためである.2009年時点でもサブプライム問題で派遣切りや倒産件数が増加している.
- 自殺は経済的な問題と連結していているが,そればかりではない.自殺死亡率はアメリカの二倍,イギリスの3倍という状況は明らかに社会のひずみが自殺者の数に表れている.
- 自殺の要因は,健康,経済,労働問題などと分けてパーセンテージとして表されるのでは無く,連鎖していることを理解するべきである.また自殺した人は自分の問題をそれなりに相談していたりしている.それも自殺する一か月前という直近でである.自殺は身勝手な死では無く,ほんとうは生きることを望み,最後まで何とか生きる道を探そうともがいていたのである.
- 自殺する穴が3万人分あって,毎年そこにはまってしまう人が自殺しているという印象.そして,穴に落ちるのは多くが社会的に弱い立場に置かれた人たちである.いじめ,失業,介護疲れ,過労…それらも連鎖しつつ,生活苦や絶望の色を濃くしていくのである.
- 自殺の要因は連鎖しているのに,相談窓口の連携ができていない.自殺に無くなった72%もが相談していたにもかかわらず死なざるを得なかった背景にはそうした社会構造的な問題がある.社会全体にはびこる閉塞(へいそく)感が原因であり,その欠如のツケを社会的に弱い人が払わされてる.
- 人を自殺に追い込むような要因と取り除く.いじめや失業などおきないような対策をする.そして例えそうした要因がおきてもさらなる要因が発生しないように連鎖を断ち切ること.そして穴にはまっていてもそこから這い上がれる道を作ること.
- 自殺は社会構造的な問題ではあるが,その対策も社会構造的でなければいけない.それは地域作りの重要性である.自殺対策基本法でもうたわれている.
- 自殺願望については,40歳代は10%程度であるが,30代では28%,20代では25%と高い.これは現代社会が生きる意味を見いだせない社会であることを意味しているのではないか.
家族ー残された遺族のケア(宮橋幸江)
自殺は宗教が影響するかと言えば,そういうわけでもなく,宗教は関係ないという前提に立っている.
自殺による死は家族からすればおおっぴらに公表できないものであり,悲しみを表出できない死として捉えられている.そのため,参列を拒否するなど副次的に社会的援助の機会を逸することになり,家族にとってはかなりのマイナスとなる.
日本の自死遺族者の特異性については,
- 遺族は自殺者の意味,理由にこだわり自責の念や個人への怒りをもつ
- 社会が自殺に対して偏見を持つ
- 自殺は遺族心理に負の影響を及ぼすので適切な啓発支援などが必要である.
死別を経験した遺族は一様に身体的負担を有するが,自殺遺族とは身体に現れる症状の差よりも精神的負担の差がかなり大きい.
遺族は社会的環境に疑いを持ち,その結果社会的に孤立する傾向がある.また,うつ病が自殺との関連が高いが,うつ病は遺伝が関与するという考え方もあり,親族たちは残された同朋への影響を気にせずにはいられない.自殺によって亡くなった家族とそうでない家族が悲嘆ケアで同席するとしばしば小さなトラブルになることがある.
自殺はある時点において偶然性が重なり,家族内で多発するようであることが考えられるので,ケアには細心の注意が必要である.
自殺者遺族の悲嘆--その特徴と求められるケアをめぐって〜PDFなし
死因の相違が遺族の健康・抑うつ・悲嘆反応に及ぼす影響〜PDFあり