偏光に関する教材と偏光板(フィルム)の製作

 

大阪府教育センター理科第一室  平田 允


始めに
偏光板は自然光を直線偏光に変える素子である。偏光板は我々の身近には、電卓等の液晶表示板やテレビやパソコンの液晶ディスプレイ、 サングラスや立体映画用の眼鏡に利用されている。学校においては光の波動としての性質や複屈折、光弾性、旋光性を示す実験の教材として偏光板が利用されている。
 偏光板を利用した教材は、後述するように、生徒達が紙を切り貼りする工作で自作可能なものが多くあり、個々の生徒に自作させることで、 光の性質への興味・関心を高めることができると考えられる。しかし、偏光板は工作用紙などに比べて高価であるため、多くの生徒に気軽に消耗品として 使用させることはできないのが現状である。そこで、安価で手軽に使用できる偏光板を自作する方法を開発したので偏光板の製作法と偏光板を使用した 教材について紹介する。

偏光に関する諸現象を説明するための教材
  光は進行方向に垂直な面で振動する電磁波であり、自然光は電磁波の振動方向が一定でなく、すべての方向の振動を含んでいる。電磁波は電場と磁場が直交している ので、以後は光の振動方向については特に断らない限り、電場の振動方向を示すことにする。

偏光
自然光が偏光板を通過すると、偏光板が光の振動を通過させる軸(以後透過軸という)に平行な方向の振動は通過するが、透過軸に垂直な方向の振動は吸収されて、 通過できないので一定方向のみに振動する光が得られる。この光を直線偏光という。直線偏光の進行方向に垂直に偏光板を置き、偏光板を回転させると、偏光板の透過軸 と直線偏光の振動方向が平行なときには光はほとんど透過するが、振動方向と透過軸が垂直のときは遮断される。
この現象は光が横波としての性質を持っていることの説明に用いられる。教材としては図1のように工作用紙を切り、A、Bの窓に図2のように透過軸が直交するよう に貼り合わせた偏光板を貼り、箱を組み立てる。偏光板を貼った窓を通して、向い側の窓を少し斜めの方向から見ると、写真1のように中間に黒い仕切があるように見える。 これは、斜め方向の偏光板の軸が互いに直交しているために光が透過しないためであり、ブラックウォールと呼ばれている。

               ブラックウオール用紙          図2         写真1 ブラックウォール 

 

複屈折
非対称性の分子配列を持つ物質に光が入射すると、2つの屈折光が現れ、強さの等しい2本の光線に分かれて進み、互いに垂直な振動面を持つ直線偏光となって出てくる。 この現象は物質中に偏光の方向に依存する二つの屈折率があることになり、複屈折と呼ばれる。2本の光線の内、一方の光線は通常の屈折法則に従い、常光線と呼ばれ るが、他方の光線は方向によって、速度が変化するため、屈折法則に従わず、異常光線と呼ばれる。複屈折する物質でも、ある特定の方向からの光に対しては複屈折を 生じない方向がある。この方向に平行な直線を光軸という。
 複屈折をする物質の板に直線偏光を照射すると、板の出口では常光線と異常光線の間に式(1)で示される位相差(δ)が生じる。

       δ=2π(no-ne)d/λ      (1)      

ここでλは光の波長no,ne は常光及び異常光の屈折率、dは板の厚さである。 このように位相差が生じるため、板を通過した偏光は一般には円偏光となる。特別な場合として、偏光の入射面が 光軸に対して45゜で、位相差が半波長のときは直線偏光となり、偏光面は90゜回転する。そこで、複屈折する板を透過軸が互いに直交する2枚の偏光板で挟み、白色光 を照射すると、板の厚さに応じて、位相差が半波長に相当する波長の光が透過してくる。
 セロハンやセロハンを素材にしたテープは長い繊維状の分子からできており、複屈折の性質を示すガラスやアクリル板にセロハンやセロハンテープを適当に重ねて貼り、 2枚の偏光板で挟み、光に透かしてみると、セロハンの重なり具合によって、写真2のような様々な色彩 の模様を見ることができる。セロハンやセロハンテープの重ね方を変えると、式(1)のdが変化し透過してくる光の波長が変化するので、 好みの模様を切り抜いたセロハンを重ね合わせると、ステンドグラスのような効果を持たせることができ、複屈折および光の色と波長の関係を教える教材として利用されている。

   写真2 セロハンの複屈折  


光弾性
プラスチックは非常に長い分子からできているが、通常は特定の方向に整列することなく、ランダムな方向に絡み合って固化している。 したがって、プラスチックはとくに複屈折を示さない。このプラスチックの一片に応力を加えると、分子が一定方向に並びやすくなり、複屈折の性質を帯びる。 このため、プラスチック板を透過軸が直交する2枚の偏光板の間に置き、プラスチック板に応力を加えると、透過光には加えられた応力に応じた縞模様が現れる。 この現象を光弾性と呼んでいる。光弾性は材料の歪みや応力分布を知る手段として利用されている。
 ペットボトルや卵を入れているプラスチックのパックは成型時の歪みが残っているために、これらの破片は写真3のように光弾性を示す。2個の紙コップの底に 図3のように穴をあけて偏光板を張る。紙コップの底に歪みのあるプラスチック片や重ねて貼ったセロハンを切ったものを入れ、もう一つの紙コップを重ねて、 明るい方を見ると、光弾性や複屈折によるいろいな色の模様が見られる。紙コップを回転させると、あたかも万華鏡のように模様や色が変化してみえる。

   写真3 卵パックの光弾性             図3  穴を開け偏光板を貼った紙コップ           写真4 光弾性万華鏡     

 

  旋光性
光軸に直角に切った水晶板を偏光が通過すると、偏光面が旋回する。このような性質を旋光性といい旋光性を示す物質を光学活性な物質という。 旋光性は水晶のような結晶だけでなく、不整炭素原子を持つ有機化合物等の溶液においても観測される。光学活性な物質には偏光面を左に旋回させるもの (左旋性)と右に旋回させるもの(右旋性)の2種の形態が存在する。
フレネルは直線偏光を回転方向が逆の2つの円偏光が合成されたものとみなし、旋光性を持つ媒質内では、右回りの円偏光と左回りの円偏光では伝わる速度が違い、 媒質を通過した後では両者の間に位相差ができると説明した。図4に示すように、入射時の左回り及び右回りの円偏光のベクトルをOAOBとし、Oyからそれぞれ θ<sub0回転した位置にあるとすると、合成された入射光のベクトルはOPとなりy軸上にある。光学活性な物質を通過後、出口ではOAがθA OBがθB、回転して、OA'OB'になったとすると、これらを合成したベクトルはOP'でその時の旋回角(θ)は式2に示すように両ベクトルの回転角 の差の1/2になる。


                  入射点            出口 
               図4 旋光性の説明図   

 

 θ= 〔(θB+θ)−(θA+θ)〕/2=(θB−θA )/2    (2) 

固体における偏光面の回転角(θ)は物体内の光路の長さ(d)に比例し、式(3)で表される。

θ=[α] d    (3)

ここで比例定数αは物質の種類、温度及び波長に依存し、旋光能と呼ばれる。溶液については溶液の密度をρ、重量濃度をKとすると、(4)式で表される。

θ=[α] ρKd    (4)

偏光面の旋回が光の波長に依存する関係を回転分散といい、偏光面の回転角は波長の2乗に反比例する。
底面が透明で平らな筒にしょ糖の溶液を入れ、底面と上部を偏光板ではさみ、底部から白色光で照らしながら、上部の偏光板を回転させると、 偏光板の回転角に応じて溶液は着色して見える。偏光板の回転角を一定にしておいて、溶液の濃度を変えるか、溶液の量を変えて底面からの距離を変えると、 溶液の色は変化する。このことから式(4)の関係が明らかになる。

偏光を得る方法
自然光より直線偏光を得る素子を偏光子という。偏光子には透明誘電体の反射を利用する方法、複屈折性を利用する方法、光の吸収が振動方向によって異なる二色性 を利用する方法などがあるが、二色性を利用する方法は比較的簡単に大きな板状の偏光子を作ることができ、偏光板として利用されている。
今回製作する偏光板は二色性のあるヨウ素をポリビニールアルコール(以後PVAという)のフィルムに吸着させた後、一方向に延伸して、分子の配向を一定方向に そろえることで、異方性を持たせたものである。この偏光板の作用をモデル的に表現すると、径が光の波長より細い金属線を径と同程度の間隔で平行に並べた グリッドのようなものである。自然光がグリッドに入射すると、線に垂直な振動成分は通過できるが、線に平行な振動は線に沿って電流を誘起して、 反射あるいは吸収されてしまうので、このグリッドによって金属線と垂直に振動する直線偏光を得ることができる。今回製作する偏光板では金属線の作用を ヨウ素を吸着したPVAの細長い分子が担っている。したがって、この偏光板における偏光の透過軸はフィルムの延伸方向と垂直になる。

偏光板の製造
ポリビニルアルコールフィルムの製作  
1.
 PVA粉末を用いる方法 
(1)
重合度1800以上のPVA10g100mlの水を混ぜ合わせて、水浴中で、かきまぜながら加熱すると、PVAは溶解してくる。
(2)
液が透明になれば攪拌をやめて、液中の細かい気泡が浮き上がって無くなるまで、水浴を弱火で加熱しながら靜置する。
(3)
ガラス板(40cm×40cm程度)1枚と厚さ1mmの短冊状(1cm×40cm)に切ったプラスチック板2枚及びガラス棒(50cm)1本を用意する。
(4)PVA
溶液表面に膜ができていれば、ガラス棒で一方向に寄せて、膜や気泡が入らないように注意して、PVA溶液をガラス板に垂らし、プラスチックの短冊を スペーサーにして、ガラス棒で均一に延ばす。このとき、気泡ができないように注意する。 
(5)PVA
を延ばしたガラス板を水平な台上に約2日間置き、水分を蒸発させると、PVAのフィルムができる。
(6)
ガラス板上で乾燥したPVAフィルムは一端をカッターナイフで剥がし、その部分を持ってゆっくりと、引き剥がす。このときフィルム同士がくっ付くと 離れにくいときがあるから、互いに張り付かないように間に紙を挟むなどして、保存する。また、濡れ手で触れたり、水滴が付くとその部分が膨潤して使用 できなくなるから注意を要する。

2. 洗濯糊を用いる方法  
主成分がPVAである洗濯糊(以後PVA洗濯糊という)はおおよそ10%PVAを含有している。PVAの重合度、添加物等は各企業で多少異なるようであるが、詳細は不明である。 数社のPVA洗濯糊で実験したところ、生徒実験に利用する偏光板用のフィルムとして利用可能であることが分かった。
(1)PVA
洗濯糊を1のPVA溶液の代わりに利用して(4)(6)の操作をする。液の粘度が低いので広がり過ぎないよいうに、スペーサーで四角く囲っておくとよい。

注意:2010年以降PVA洗濯糊で製作したフィルムではヨウ素染色後の延伸の際、簡単にちぎれてしまうことが多くなった。原因は明らかではないが、PVA洗濯糊のPVA重合度や添加物が変わったのではないかと推測している。このためPVAフィルムの製作はPVA粉末を用いる方が望ましい。

p>2. ヨウ素染色と延伸 
2.
 1 自作したPVAフィルムを使用する場合 
(1)
少量の水に<0.2gのヨウ素と0.5gのヨウ化カリウムを加えヨウ素を溶解させる。この溶液を500mlの4%硼酸溶液に加えて染色液とする。
(2)
手にゴム手袋をして、適当な大きさに切断したPVAフィルムを染色液に約15秒間浸漬する。このときフィルムが曲がらないよう手で四隅の方向へ広げるようにする。
(3)
フィルムがくっ付かないように注意しながら染色液より引き上げ、ろ紙上に広げ、上にもろ紙を置いて、水滴を吸収させる。
(4)
2台の引き延ばし器*1を用意し、短冊状の板にフィルムの端を巻き付け、引き延ばし器に確実にはさみ込む、一方の引き延ばし器を動かないように固定し、他方を慎重にゆっくりと動かして、3〜3.5倍引き延ばし、双方の引き延ばし器をC型クランプ等で固定して,引き延ばしたまま約30分放置し乾燥させる。
(5)
乾燥すると、パリパリの偏光フィルムになり、引き延ばし器より取り外しても、縮んだり、くっ付いたりしなくなる。
 *1 引き延ばし器としては卓上バイスを使用すると便利であるが、バイスがない場合は角材とベニヤ板で、写真5のような引き延ばし器を2個作って、バイスの代わりに使用するとよい。 

p> 2 ビニロンフィルムを使用する場合 
市販のビニロンフィルムはPVAが主成分であり、透明包装材料として用いられている。
ビニロンフィルムを適当な大きさに切り、水中に浸し膨潤させる。浸漬時間はフィルムの厚さ等によって変わるが、通常は30秒〜1分程度浸漬すればよい。延伸倍率を大きくしたいとき等はあらかじめテストして、時間を決めるとよい。
(2)
膨潤させたフィルムを水から引き上げ、水を切ってから、1の(1)〜(5)の操作をする。

         写真5 引き延ばし器                       写真6 引き伸ばしているところ

 

プラスチック板への張り付け
 延伸した偏光フィルムは、図5のような形状をしているので、平行な部分を切り取って使用する。偏光フィルムはそのままでも利用可能であるが、パリパリで裂けやすい。特に延伸した方向と平行に裂け目が入りやすいので、工作に使用するとき以外はプラチック板に挟んで使用する方がよい。多くのプラスチック板は偏光に対して何らかの作用があるので、使用するプラスチック板には注意を要する。市販の偏光板はアセテートフィルムでサンドイッチされている。アセテートフィルムは画材店でアニメーションなどを描くものが販売されているが最も入手が容易な材料はアクリル板で、1mmのアクリル板で偏光フィルムをサンドイッチにし、セロテープで外側を留める方法が最も簡単である。


図5 延伸後のPVAフィルム
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Up 科学実験・製作倶楽部TOPへ戻る