2SK1297のペアを取る


 ウルトラ・ハイ・カレント(UHC) MOS(C)DENONなど、最近大電流スイッチング用に開発されたMOSを、DENONさんやら金田氏をはじめとするアンプ設計者がオーディオ用に使い始めました。
 これは、近年の半導体デバイスにおいて、久々に新しい出来事でしょう。
ここでは、UHCの仲間である大電流MOS・FETを個人で使う場合、どうペアを組んだら良いか、考えていこうと思います。


 まず、これらのFETは、「温度による特性変化が大きい」ということが挙げられます。これは、デバイスを測定する上で、大変大きな問題となります。
 通常のFETもそうですが、温度で特性が変化するので、ペア組みにはその点を十分に考慮しなければなりません。本来はQポイント(*1)まで一つ一つ調べて、ドレイン電流(Vgs−Id特性)などといっしょにペアを組むのが最良の方法であると思われます。
 しかし、そこまでやっていられないのが現状でしょう。(このページにK30Aのペア測定も書きましたが・・・・。)

 この問題の解決には、金田明彦氏のスーパーサーキット講座にもあったように、これは短いパルスで測定することで、かなり改善されます。

 パワー素子では熱容量が大きいので0.01sから0.1s程度のパルス測定でいいと思います。金田氏は、連続パルス波形を用いて測定していました。一般的な測定はそれでよいのですが、ペアを組むためには、あまりよくありません。平均電力相当分の熱が発生しますので、出来たら、ワンパルスで『一発勝負』と行きたいところです。

 

 そこで、前座?の、「ピークホールド回路」に関するノウハウが生きてきます。短いパルス高をどう正確に捉えるか、ここがポイントとなります。

 

 ところで、何のデータを測定すればペアを取ることが出来るでしょうか?それは、Vgs−Id静特性です。更に要求するのなら、gmやVgsoff(*2)、Qポイントの測定も必要でしょうが、実質これで十分でしょう。

 K30AなどのジャンクションFETのペア測定には、これらはデプレッションタイプの静特性ですので、Idss(ゲートとソースをショートしたときのドレイン電流)でペアを組むことが出来ます。ですが、この大電流MOSは、エンハンスメントタイプの静特性を示し、Idssは漏れ電流のみであることに注意する必要があります。エンハンスメントタイプは、ゲートとソースをショートしたら、ドレイン電流は流れません。カットオフの領域になります(Vgsoffが正の領域にある)。

 本来、Idssが存在するデプレッションタイプのFETですら、静特性をきちんと測定する必要があると思いますが、Idssが変わるとVgsoffも変わり、Qポイントも、通常1/2・Idssの付近にあり、またgmもほぼペアが取れ、Idssを測定することで大体静特性が決定するので、ほぼ、差動や完全対称用ペアに使うことが出来ます。

 Idssの存在しないMOSは、静特性を何ポイントか測定して、ペアを組むしかない、というのが私の考えです。ですから、DENONさんのUHCが一部の小売店で発売されていますが、DENON正規ルートはちゃんと測定してあると思いますが、某○松や、某テクニ△ル□ンヨーなどで同等品として出しているものは、今までのJFETの測定方法とは全く異なるので、私としては信用していません。(大電流MOSが出回ったころ、Idssを測定することでペアを組もうとしていた一部のお店や人々がいたことには、大笑いしてしまいました。某お店のおっちゃん曰く、「Idssは小さくて測れないのよ」だって(^_^;)。)

 

 それで、本題です。どうやって静特性を測定するかを図1に示します。このような回路を作れば静特性を測定できると思います。

 

 短いパルスをワンショットなどで発生します。このパルス高は、電圧計できちんとDCレベルを測定しておく必要があります。この電圧をアナログスイッチで被測定MOSのゲートとドレインに加えてやれば良いのです。入力パルス高をオシロで測定することも考えられますが、オシロは精度が悪く、正確なレベルの測定には向いていない測定器です。このパルス高をピークホールドで測定する手もあると思います。

 また、この入力パルスについて注意点は、MOSの入力は、入力容量が大きいので、本当に短いパルスが加わった場合、加える電圧の信号源インピーダンスが十分に低くないとゲート電圧が変動してしまいますが、0.01s程度のパルス幅があれば、通常のOPAMPの出力で十分にドライブできるでしょう。ただし、入力ケーブルが長くなりすぎてL成分が介在すると、オーバーシュートが出て、正確に測定できなくなることがありますので、入力ケーブルは短めに、また出来たら入出力波形をオシロで確認しておきたいところですね。

 あと、出力電流の測定は、ドレイン電流を電流検出抵抗Rdにて電圧に変換して、例のピークホールド回路で電圧として信号を得て、測定するわけです。電圧値から電流値を逆算して電流を求めます。

 Vdcは、測定素子によって変更してください。2SK1297であれば、5V程度でもペアは十分に取れます。本来は、実際に使う電圧がよいのでしょうが、あまり高い電圧を加えると、発熱量が増えます。発熱量が増えると、更に短いパルスを用いて測定せねばならず、高度なパルス発生器と高性能のピークホールド回路が必要となります。

 測定する電流は、実際に用いる測定電流を十分にカバーする程度の範囲に設定すれば良いと思います。

  

 ピークホールドは、前座の、「ピークホールド回路」のノウハウに書きましたが、0.01s程度のパルス幅のパルスを十分にマルチメーターで電圧を見て人間の目で確認できるくらい長い時間、正確(ある程度の誤差範囲以内)に保存できる必要があります。

 マルチメーターは、若干反応が遅いものがあります。また、人間の目で見るには3秒と考えると、5秒以上の保持時間が必要になります。そこのとを考えて、ホールドコンデンサと充電電流、素子のリーク電流を考えましょう。

 また、誤差は、リークによる誤差のほかにもいろいろあるのですが、これは、測定毎に誤差が変化しなければよく、通常はあまり測定毎に誤差の出方が変わる誤差要因は少ないです。今回の測定の目的がペアを取るためなので、この誤差の点に関してはそれほど心配しなくて良いでしょう。

 こんなふうにして、測定した結果を表1に示します。K1297のサンプル一つと、DENONさんのUHCを1サンプル、測定結果を示しています。
 また、表2は、K1297を58個測ったときのデータです。
 ばらつきがこんなにあるのです。ですから、ペアを組んでいないものを買ってきて、ロットが同じだからなどといっても、まったく使えませんので、ご注意ください。

 

 

★実際に測定する場合の注意

 まず、一気にやってしまうことです。次の日になったら、前日の測定データを当てにしてはいけません。あとは温度変化が少ない部屋でやることです。ペアが取れたら、落ち着いてから再度ペアを測定し直すのも一つの方法でしょう。結構、ずれていますよ(^_^;)。

 回路は、皆さんで私のブロック図を参考に考えてみてください。もっと良い方法があるかもしれません。また、測定ポイントも、何処を測ると、出来るだけ少ないポイントできちんとしたペアが取れるか?というのも一つの課題です。これが絞り込めれば、測定時間の大幅な短縮が実現します。

 値の測り方として、1.Vgsを決めてIdを測定、2.Idを決め手Vgsを測定、の2種類があると思いますが、私は前者で行いました。Vgsをある程度の範囲内に決めておき、細かく変化させて、その時のIdを読むのです。同じVgsのときのIdの差が±10%以内に入っているものは、まぁ、ペアとして大丈夫でしょう。出来たら±5%以内のがよいでしょう。

 

 


*1:Qポイント・・・・・・温度によって変化しないVgs対Idのポイント。ここに動作点を持ってくると、温度に強いアンプができ上がるが、実際は、設計上、必ずしもここに動作点を持ってくるわけではない。トレードオフで、温度条件が他の特性よりも優先する場合はこのポイントを用いる。

*2:Vgsoff・・・・・・ドレイン電流が完全にカットオフするVgs。エンハンスメント特性のFET(通常のMOS FET)ではVgs>0(Nch)、デプレッション特性のFET(通常のジャンクションFET)では、Vgs<0(Nch)であるのが普通である。