5.SiO2の頂点に立つ水晶の構造        このページや、下層のHTMLファイルに直接リンクされた方は、このボタンをクリックして下さい。

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5−1.石英(水晶)の結晶構造                        目次

  珪酸塩鉱物の最も進化した形である石英(水晶)は、その構造内にイオン結合している金属イオンをほとんど含まないため、もはや珪酸塩鉱物とは呼べなくなるが結晶構造から分類すると長石と同じ網状珪酸塩鉱物に属している つまり、SiO4四面体の全て(4個)の酸素イオンが別々の四面体に共有され立体網状に連結しているわけであるが、長石と大きく異なるのはAl-同形置換が起きていないことと、Al-同形置換による K+Na+,Ca2+イオンの取り込みが無いことで、基本組成は単に(SiO2)で表される
  しかし後述するように、SiO2という単純な組成であるにもかかわらず、強固なイオン結合の制約が無いため、温度(圧力)によってはSiO4四面体の連結方式が変化し、様々な結晶構造を持つのが特長でこれを「同質多像(Polymorph)」と称して 各々の結晶状態を古くから「変態」と呼んでいる(単に「多像」「多形」と呼ぶ場合もある) つまり、アルカリ長石の構造でも少し触れたが、SiO4四面体の全ての酸素イオンが共有されて連結しているため温度や圧力の変化に伴うSi-O-Si結合角の変化は、そのまま構造の変化となって現れるのである 石英の変態には、低温型のα-石英(水晶)と高温型のβ-石英などあるが、SiO2としての変態には低温・低圧で安定な石英のほか高温状態で安定なクリストバライトやトリジマイトまた高圧状態で安定なコーサイトやステイショバイトなどがあり更に低温型や高温型に別れるものも入れると20種類以上に及んでいて溶融固化した非晶質のシリカガラス(石英ガラス)をも含めて「シリカ(Silica)」と総称する場合が多い
  本章でこれまでに述べてきた酸化鉱物や珪酸塩鉱物の結晶構造は、“SiO2(シリカ)”の結晶構造を理解する上での導入部に過ぎないが本節においても(超高圧下でしか形成されないコーサイトとステイショバイトは除いて) クリストバライト→トリジマイト→β-石英→α-石英(水晶)の順に解説し最後に石英の六角柱状結晶である“水晶”について詳しく触れてみたい

下の2枚は、「鉱物の加藤さん」提供の水晶の写真で、左は無色透明できれいな若い結晶の集合体(クラスター)です また、右は白色半透明の石英(これも水晶)をベースにダリアの花弁状に成長した紅水晶(ローズクォーツ)の珍しい写真です

水晶(加藤氏提供) 紅水晶(加藤氏提供)

  
(1)シリカの同質多像関係とその各種変態(多形)              目次
  シリカ(石英)の結晶は、高温・高圧時にバラバラに分散していた単鎖状のSiO4連結体が、温度・圧力がゆっくりと低下していく過程で、豊富な水分の助けを借りながらSi-O-Si結合角を徐々に変化させ、隣り合うSiO4連結体と酸素イオンを共有し、横軸(軸)方向にも連結が進んで成長することは、3-2(3)d) でも詳しく述べた通りである そして、金属イオンによる制限が無くなったSiO4連結体は、その時々の温度(圧力)条件に見合った自由なSi-O-Si結合角をとるため、多種多様な結晶構造(変態)を形作るが、実際は連結し合う隣のSiO4四面体との位置関係が足かせとなり、その種類はかなり限定されている つまり、結晶を形成するための最低条件として横軸方向の連結に周期性(繰り返し性)を持たせなければならないからである もし急速な冷却などで周期性を無視して連結させると非晶質のガラスになってしまうことは改めて言うまでもない
  表 5-1 に主要なシリカの同質多像(変態)として、低温で安定なものから順に「α-石英→β-石英→トリジマイト(高温型)→クリストバライト(高温型)→シリカガラス」の太線で表示したグループと地下100km以上の超高圧のマントルで安定なコーサイトとステイショバイトの結晶形と安定領域を示した 本項では、後者の特異状態における変態の説明は割愛するが、特に地下数100kmの下部マントルで安定とされるステイショバイトはその膨大な圧力のために これまでに述べてきたSiO4四面体が押しつぶされて、珪素イオンと酸素イオンが最密充填を成し、SiO6八面体を形成したルチル型構造(図 4-3 参照)に変わっているのが大きな特長である


シリカの変態(多像)

結晶系(外観)

比重

  安定領域(:安定,:準安定,:不安定)
常温 (220)  573   867 1050 1470 1550 1713℃・常圧
α-石英 三方(六角柱状) 2.65
β-石英 六方(六角両錐形) 2.5
β2-トリジマイト 六方(六角薄板状) 2.2
β-クリストバライト 立方・等軸(球状) 2.2
シリカガラス (非晶質) 2.2
コーサイト 単斜[SiO4四面体] 2.92  (3〜10万気圧で安定、隕石孔で発見、長石型構造)
ステイショバイト 正方[SiO6八面体] 4.35 (10万気圧以上で安定、隕石孔で発見、ルチル型構造)
表 5-1 主なシリカの変態と その安定温度(圧力)領域

  多像関係にある複数の結晶構造が、ある温度(圧力)条件下で変換することを「転移」と呼ぶが、石英⇔トリジマイト⇔クリストバライト⇔シリカガラス間の構造再編成を要する転移にはかなりの時間がかかり中には適当な融剤(アルカリや高圧熱水)を必要とする場合もある 従って温度(圧力)の変化が短時間で起こった場合は転移しきれずに高温(高圧)で安定な結晶構造が低温(低圧)下においても準安定状態で存在することができまた逆の場合も同様である 一方、構造再編成を伴わない転移はα-β転移(低温⇔高温型転移)とも言いわずかな原子配列の変化だけで済むため、転移は瞬時に行われ かつ可逆的である そして前者は シリカや長石以外にも、独立型珪酸塩鉱物の紅柱石⇔藍晶石⇔珪線石(同質三像)や炭素鉱物の黒鉛⇔ダイヤモンド(同質二像)などに見られるが、後者のα-β転移はシリカ(石英、トリジマイト、クリストバライト)や長石など網状珪酸塩鉱物(あるいは類似の化合物)に特有な現象となっている
  表 5-1 に“主なシリカの変態とその安定温度(圧力)領域”を示したように、 常圧下におけるシリカの転移温度は、α-石英 ← [573] → β-石英 ← [867] → トリジマイト(高温型) ← [1470] → クリストバライト(高温型) ← [1713] → シリカガラス(融液)となっているが、1050℃と1550℃付近にも何らかの特異点が見受けられる この特異点は6-1(2)でも詳しく述べるように、温度変化に伴うSi-O-Si結合角増減の転換点に相当しこの温度を境目にして上記の転移温度における結晶構造の変化とは別に結晶内部で潜在的な構造変化が起こり始めると考えた方がよい
  α-石英を急速に加熱した場合、573℃で数秒の内にβ-石英に転移するが、結晶の完全なものは転移による“ひずみ”の逃げ場が無く ひび割れを起こす場合がある 次に867℃を越えるとトリジマイトに転移するはずであるが3-2(3)e)でも既に触れたように何らかの融剤(高圧熱水)の助けが無いとβ-石英からトリジマイトへの転移は起こりにくく、β-石英は867℃以上でも準安定領域に入り構造的な変化はほとんど見られない そして、1050℃付近からSi-O-Si結合角が増大し始めると共にβ-石英の結晶内の空隙が拡がり始め(3回らせん軸対称のSiO4らせん体が、4回らせん軸対称に変わり始め)、部分的にクリストバライト構造が出現するのである 更に数時間以内に1550℃まで上昇させると、途中 クリストバライトへの転移点1470℃を通過するが、急速な転移は起こり得ず、遂に1550℃付近でSi-O-Si結合角が180°まで拡がり、らせん軸と垂直な軸(横軸)方向の切断が加速して、部分的な溶融が開始される しかし、この温度(14701550℃)で1日以上放置すれば、軸方向の切断と再結合が繰り返されて秩序化が進行し ほぼ完全に 4回らせん軸対称のクリストバライトに転移させることが可能である 従って、急速加熱した場合の石英の溶融開始温度は1550℃付近で、その後は徐々に粘性が低下するだけで、1713℃を越えても劇的な溶融(粘性の急激な低下)は起こらない

図 5-1 シリカの状態図(実線)    
      と水分の影響(点線と色分け)

  逆に、1713℃以上に加熱したシリカガラスの融液をゆっくり冷却した場合、1550℃付近で数日間放置しても クリストバライトへの転移は部分的にしか起こらず更に低い温度でトリジマイトや石英に戻すことは融剤(高圧熱水)を用いないと不可能に近い 通常では非晶質のまま準安定状態のシリカガラス(固体)になってしまうのである ところが、高圧変成などで多量の高圧熱水が関与した場合は様相が一変する
  図 5-1 に シリカの相平衡を実線で表したが豊富な熱水が存在すると点線の状態図に変わり石英の融点低下と トリジマイトの領域拡大が顕著である 熱水が関与しない場合(実線)は、約300気圧でトリジマイト相が消え、約500気圧でクリストバライト相も消滅する つまり、両者はSi-O-Si結合角が伸びきった状態(180°)で連結しているため高圧下では存続できずシリカガラスの融液から直接β-石英に転移するようになるが、SiO4四面体がランダムに結合したシリカガラスの融液から密な結晶を直接形成するのは困難である しかし熱水が関与した場合、約400気圧以上でクリストバライト相は消滅してしまうもののトリジマイト相は約1400気圧まで存続している そして豊富な熱水中で比較的低い温度で溶融(実際は短いSiO4連結体が分散)したシリカガラスの融液からゆっくりとした温度低下や圧力低下(火山性のマグマの上昇)によってトリジマイトが晶出できるのである また 図 5-1 の状態図(点線)からは、1400気圧(地下約5km)以上でβ-石英が直接晶出し、更にその高圧側(おそらく4000気圧以上)では、β-石英も飛び越えてα-石英が直接晶出することが容易に推測される

  
(2)クリストバライト(方珪石)の立方晶系“4回らせん軸対称”構造    目次
  クリストバライトSiO2は、シリカ中最も高温(低圧)下で形成され、図 5-1 からも分かるように、多量の高圧熱水が関与したとしても、1400℃以下・500気圧以上の条件下では形成されない 地球の内部では玄武岩質マグマがこの条件に近いが、地中の圧力が500気圧に相当する3km程度の深さでは、マグマの温度は1300℃にも達していない つまり、ダイヤモンドの母岩であるキンバライトのように、深さ100300km(310万気圧)のマグマが急上昇して、温度が1400℃以下に冷却されない内に地表まで達したと考えられる原始地球時代の大地殻変動か地球の創成期に微惑星同士が衝突して衝突エネルギーによる急激な温度上昇と衝突後の飛散による急激な圧力低下が同時に起こった場合あるいは、地球に隕石が衝突した際などの急激な温度上昇がないと形成されにくいのである
  しかし、純粋なシリカとしてのクリストバライトではなく 不純物を多く含んだクリストバライト型の結晶は、火山の噴出岩や その気孔に球状の結晶として発見されることが多い 流紋岩や安山岩など比較的低温(8001100℃)のマグマでも、火山の噴火で急激な圧力低下が起こった場合マグマの主成分でイオン半径の大きなアルカリ金属イオンを含む長石などがクリストバライト型の結晶として晶出するのである つまり、マグマの噴出時に 急激な圧力低下と アルカリ金属の融剤としての働きで一時的にクリストバライト構造が現れるが温度低下が速すぎて長石などが再結晶化する充分な時間がない場合クリストバライト構造の大きな空隙が、イオン半径の大きなアルカリ金属イオンで埋められて低温になってもクリストバライト型結晶として存続できる考えられこの傾向は、クリストバライトよりも低温領域で安定なトリジマイトに多く見受けられる
  高温型(β)クリストバライトの結晶構造は、下の図 5-2(a)の側面図からも分かるように、高温trans型の単鎖状SiO4連結体(太線)を、縦・横・斜めの3方向に平行移動させた位置関係で無限に連結し、立体網状の連結網を形成している 言い方を変えると、全てのSiO4四面体が高温trans型で無限に連結しているのである 同じく側面図から分かるように酸素イオンの配列は空隙が多いものの 図 4-1(b) に示した立方最密充填の形となり結晶系は立方晶系(等軸晶系)に属している そして、やはり立方晶系のザクロ石と同様に 対称軸の多いことが大きな特徴で様々な金属イオンを含んでいるザクロ石よりも対称性が完璧に近いためザクロ石に見られた斜方十二面体や偏菱二十四面体から更に進んで四十八面体、九十六面体(・・・・?)と限りなく球状に近付いた形で晶出すると考えられる

結晶格子内の8個のSiO4四面体に対する空隙数=大空隙:4個
図 5-2(a) β-クリストバライト型 立方(等軸)晶系の結晶構造
 
図 5-2(b) クリストバライト型 
  “4回らせん軸対称”の結晶構造

  クリストバライトは、単鎖状のSiO4連結体から形成されたと考えられるが見方を変えると、右の図のように螺旋(らせん)構造も現れる つまり、上の図に珪素イオン(赤丸)のつながりで示したような高温trans型のSiO4らせん体を橙色の一点鎖線で示した 立方体(結晶格子)の面から垂直に見ると右図のように 90°左旋回してSiO4四面体1個(=酸素イオン1個)分下がり4回繰り返して3軸投影図上 元に戻るという「4回らせん軸対称(左ネジ回り)」の結晶構造になっているのである そして、左ネジ回りのSiO4らせん体を束ねるとその間に右ネジ回りのらせん体が形成されるため後述する石英型構造に見られるような(右手と左手のように外観が異なる)対掌体は存在しない また、右図に表したSiO4四面体の連結は6個ある四面体の陵を真上から見た状態で、3軸投影図は正方形の集まりに見えるが、1軸と2軸に対しても全く同一の投影図となり(β)クリストバライトが対称性の良い結晶であるかが分かる
  このようにクリストバライトは、長石などを構成している単鎖状のSiO4連結体から、圧力低下によって形成される場合と3-2(3)e)でも述べたように石英を構成する「3回らせん軸対称」のSiO4らせん体から温度上昇によって「4回らせん軸対称」に転移する場合があり後者の方が結晶構造的に重要である シリカが「石英⇔トリジマイト⇔クリストバライト」と転移する過程でSiO4らせん体が伸び縮みすることでSi-O-Si結合角を変化させるが、多量の高圧熱水が関与した場合熱水に分散したSiO4らせん体が自由に移動できるようになり、Si-O-Si結合角も自由に変化させて結晶化が促進されるのである
  高温型(β)クリストバライトの結晶空隙は、直径3.5Å(半径1.75Å)で非常に大きく、最大のイオン半径を持つK+イオン(半径1.6Å)でも余裕を持って取り込める大きさである そして、8個のSiO4四面体(16個の酸素イオン)で形成される結晶格子(橙色の一点鎖線)内に4個存在し、最大で1/2Al-同形置換が起きている斜長石から転移した場合でもアルカリ(土類)金属イオンを取り込むスペースは十分確保されている Al-同形置換が起きていない純粋のクリストバライトは、この大空隙が空席となるため 比重は2.2と小さく、硬度も6.57で石英よりは軟らかい クリストバライトは 1470℃〜1713℃(常圧下)で安定な高温型(β)が、275℃〜1470℃の間で準安定状態となり、約220℃以下では低温型(α)のクリストバライトに転移するが、基本的な構造は変わらず、温度が低下するにつれてSi-O-Si結合角は180°から徐々に小さくなって、2軸がつぶれた形で正方晶系に変り 比重は2.3に増加している

下の2枚は、「鉱物の加藤さん」提供のクリストバライトとトリジマイトの写真です 左のクリストバライトは黒い黒曜石を抱えた球状の大きな結晶で、一つの直径が4cmもある珍しい標本です また、右のトリジマイトは、火山岩の空洞で高温ガスから晶出したと考えられ六角薄板状の結晶が放射状に重なった双晶を形作っています

クリストバライト(方珪石)(加藤氏提供) トリジマイト(鱗珪石)(加藤氏提供)

  
(3)トリジマイト(鱗珪石)の六方晶系“ハニカム”構造            目次
  トリジマイトSiO2は通常ではほとんど形成されず、微惑星の衝突で急激な温度上昇と圧力低下が起こって生成したと考えられる隕石やマグマの急上昇による急激な圧力低下を経験した火山の噴出岩中に多く発見されることはこれまで繰り返し述べてきた つまり、学問的には貴重な素材かもしれないが、日常ほとんど目に触れることがない鉱物なので本項では結晶構造についてのみ簡単に触れる
  高温型(β2)のトリジマイトは、下図 5-3 の平面図からも分かるように、六角形の結晶格子(赤い一点鎖線)の内部に高温trans型のSiO4六角環(図 4-9-c参照)が形成されていて、この六角環が水平(軸)方向へ無限に連結している 一方 垂直(軸)方向へは、この六角環が裏表交互に(あるいは軸に対して60°回転)無限につながり、立体網状の連結体を形成しているのである 従ってSiO4四面体の連結方式は、1,2,3)軸方向はtrans型に 軸方向はcis型に統一され、裏表2枚の六角環で元の位置に戻るため、結晶系は六方晶系(六角薄板状結晶)になる
  トリジマイトの結晶構造は、高温trans型のSiO4六角環が原料になった様な形をしているが、実在するトリジマイトは隕石や火山の噴出岩など急激に結晶化の進んだ環境化で形成されているので、このような制限の多い結晶構造が、SiO4六角環から直接 短時間で晶出することは考えにくい しかし、下の図 5-3 に珪素イオン(赤丸)のつながりで示したような 高温trans型と高温cis型が交互に並ぶ直鎖状のSiO4連結体であれば、軸方向へかなり自由に連結することができる そしてこの連結体は、図 3-6の c)と e)にも示したように長石の原料となった単鎖状連結体の圧力低下や、クリストバライトを構成している高温trans型単鎖状連結体の温度低下によって形成される
  高温型(β2)トリジマイトの結晶空隙は、最大径3.5Å(半径1.75Å=クリストバライトと同様)で非常に大きく、しかも側面図に示したように、酸素イオン相当(半径1.3Å)の空隙を挟みながら軸方向に連続していて、蜂の巣と同じ“ハニカム”型の結晶構造になっている 従って 比重は2.2と小さいものの、硬度は7で石英と同様にかなり硬い トリジマイトは 867℃〜1470℃(常圧下)で安定な高温型(β2)の他にも、200℃前後の温度領域で数多くの変態が確認されていて、117℃以下では低温型(α)のトリジマイトに転移するが、基本的な構造は変わらず、温度が低下するにつれてSi-O-Si結合角は180°から徐々に小さくなって、低温型では押しつぶされた形で斜方晶系に変り 比重は2.3に増加している しかし、隕石や火山の噴出岩に見られるトリジマイトが長石から転移したものであるとすれば、Al-同形置換を補完するイオン半径の大きいアルカリ金属イオンは、この大きな結晶空隙に取り込まれ低温型に転移しても つぶされることなく、トリジマイトの結晶構造をより安定なものにしている

図 5-3 β2-トリジマイト型 六方晶系の(ハニカム型)結晶構造

  
(4)β-石英(高温石英)の六方晶系“6回らせん軸対称”構造        目次
  石英SiO2の結晶構造は、高温型のβ-石英と 低温型のα-石英とでは多少異なっているが、SiO4四面体の連結方式は全く同じである しかし 本節の第(1)項でも触れたように、それぞれの晶出条件はかなり異なっている 3-4(1)(2)で述べた原始地球時代を例にとると、原料となった流紋岩質マグマの温度圧力条件は原始地球の表面温度が比較的高いうちに 深さ10km近くまで上昇して晶出した花崗岩と、花崗岩体が冷え始めた頃 深さ約20kmで上昇を停止して晶出したペグマタイトでは明らかに異なり、前者は高温・低圧(約800℃・3千気圧)下でβ-石英が、後者は低温・高圧(約650℃・4千気圧)下でα-石英が直接晶出したのである そして、後者のα-石英は常温常圧でも安定しているが、前者のβ-石英は573℃(圧力によって多少異なる)以下になると、外観はβ-石英の結晶(仮晶)のまま、内部構造だけがα-石英に転移するため、“ひずみ”で細かくひび割れを起こす場合が多い
  β-石英は、原料マグマ中の単鎖状SiO4連結体が、豊富な水分の下に圧力が優先して低下した場合、Si-O-Si結合角の増大と回転が起こり、螺旋(らせん)状の「SiO4らせん体」に変化して晶出したことは 3-2(3)d) でも詳しく述べた つまり 図 3-6d) にも示したように圧力の低下によって雲母や長石の材料となった単鎖状連結体が最密充填構造から開放され連結軸を中心として自由に回転すると“螺旋(らせん)構造”が現れるのである 逆に、高圧の熱水に溶解(分散)していた「4回らせん軸対称」のクリストバライト型連結体は温度の低下に従ってSi-O-Si結合角が縮小する 結果的に両者とも 下の図 5-4 に太線で示したような、「3回らせん軸対称」のSiO4らせん体に変化して、1,2,3)軸方向の隣のSiO4らせん体と周期性を保ちながら、酸素イオンを共有して連結したのがβ-石英である
  クリストバライトの結晶構造でも述べたが、高温型のβ-石英は SiO4四面体の軸投影図が正方形となり、軸に対して垂直な 四面体の2つの稜が直行しているため、Si-O-Si結合角をそれ程縮めなくても螺旋状に連結することができる そしてクリストバライトよりも低温の領域において、軸に対して3回らせん軸対称の位置関係で水平(軸)方向に連結すると、図 5-4 の平面(軸投影)図に示したように、Si-O-Si結合角が155.5°(水平投影角150°)のSiO4らせん体が完成する らせん体の旋回方向には“左ネジ回り”と“右ネジ回り” の2種類あるが両者は晶出時の豊富な水分の下では自由に転換できベースとなった種(たね)結晶の旋回方向に統一される 5-2(2)で詳しく解説するが、主に南半球に産出する良質の水晶には“左ネジ”の右水晶が多く以降 “左ネジ”の結晶構造について説明する

図 5-4 β-石英型 六方晶系(6回らせん軸対称)の結晶構造

  左ネジ回りで軸方向へ無限大に連結したSiO4らせん体は、図 5-4 の平面図のように、A,B,Cの3本が一組となって水平(軸)方向へも無限大に連結しているが、材料となったA,B,Cのらせん体同士の連結の結果A',B',C'の位置に新たなSiO4らせん体(同じ左ネジ回り)が3組形成される 一方、これら合計6組のSiO4らせん体の中心軸Zには 比較的大きな連続した空隙が形成され、その周りに6組のSiO4らせん体に属する6個の酸素イオンが“右ネジ回り”の2重の(緑と紫色で示した)螺旋階段を形作っているのである 従ってβ-石英は、60°右旋回してSiO4四面体1個(=酸素イオン1個)分下がり、6回繰り返して軸投影図上 元に戻るという「6回らせん軸対称」となり、六方晶系に属している
  また側面図にも示したように、軸方向に連続している大きな空隙の径は一定ではなく、周りを取り巻く酸素イオンの凸凹のために最大径約1.6Å(半径0.8Å)、最小径約1.1Åのフレキシブルホース状になっている 半径約0.8Åの空隙は1個のSiO4四面体につき1個形成され、まれにSiO4らせん体内でAl-同形置換が起きた場合に、不足する正電荷を補うためのアルカリ金属イオン(主にLi+イオン=半径0.8Å)の指定席となっている(イオン半径の大きいK+Na+イオンが入った場合は結晶が大きくひずみ、結晶欠陥となる) 従って、金属イオンがほとんど無く空隙も比較的多いために 比重は2.5で、常温ではα-石英に転移し その時の“ひずみ”で細かいひび割れを起こす場合が多い しかし、Al-同形置換でアルカリ金属を多く含むものは空隙が埋まって縮むことができず常温でもβ-石英の構造(仮晶)のまま、両端に六角錐面が発達して柱面がほとんど無いダイヤモンドのように輝く無色透明の粒状結晶となるのである

下の2枚は「鉱物の加藤さん」提供の石英の写真で、左は六角の錐面が両側に現れ、柱面のほとんど無い、β-石英(高温石英)の仮晶です 右は白雲母を抱えたα-石英(水晶)の六角柱状結晶で、柱面が長く伸びています

β-石英(高温石英)(加藤氏提供) α-石英(水晶)(加藤氏提供)

  
(5)α-石英(水晶)の三方晶系“3回らせん軸対称”構造           目次
  低温型のα-石英は、前項の冒頭でも述べたような 約650℃・4千気圧で晶出したペグマタイト中の石英の他にも、更に低温・低圧条件の下、約400℃・2千気圧の高圧変成に伴う海水中で多結晶質の石英や単結晶の水晶として晶出した場合が多く、特に単結晶の水晶はα-石英特有の無色透明・六角柱状結晶で珪酸塩鉱物の(進化の)頂点に立つ天然の芸術品といっても過言ではない そしてガラス製品はもちろんのこと人工水晶を用いた電子製品や 金属シリコンを母体とした各種半導体・太陽電池など最新の先端産業には無くてはならない素材として貴重な資源になっている
  α-石英の結晶構造を 図 5-5 に示したが、基本的な構造(SiO4四面体の連結方式)はβ-石英と全く同じでβ-石英よりも低温・高圧領域で晶出しているため、Si-O-Si結合角が更に縮んで146.5°(水平投影角も146.5°)になっている Si-O-Si結合角を縮める方法については6-1(1)でも詳しく述べるが図 5-5 の側面図からも理解できるように、SiO4らせん体の中心軸の方向に14°だけ 四面体が首を垂れることによって調整しているのである 結果的に平面図に示したように、クリストバライトやβ-石英に見られたSiO4四面体(正方形)の軸投影図が(等脚)台形に変わり材料となったA,B,Cの らせん体(左ネジ回り)同士の連結で形成された新たなA',B',C'の らせん体(同じ左ネジ回り)では反対に四面体の首が持ち上げられて逆向きの台形に変わっている このため、β-石英に見られた「6回らせん軸対称」の対称性は失われやはり6組のSiO4らせん体の中心軸Zの周りに形成される 酸素イオンの“右ネジ回り”(緑色と紫色で示した二重)の螺旋階段を、120°右旋回して四面体2個(=酸素イオン2個)分だけ下がり、3回繰り返して軸投影図上 元に戻るという「3回らせん軸対称」となって 三方晶系に変化する そして図の下方にも示したように、3方向が生長不良で菱面体(錐面)が現れた擬六角錐を頂点に持つ六角柱状結晶になる α-石英の結晶格子はβ-石英に較べ、1,2,3)軸と軸で各々0.1Å縮んで 4.9Åと5.4Åになっているため、比重は2.65に増え、モース硬度は7で硬い
  また側面図に示したように、軸方向に連続している空隙は最大径1.45Åでβ-石英の1.6Åより狭くなり、Al-同形置換を補完するアルカリ金属イオンとして、イオン半径の小さいリチウム(Li+)イオン(半径0.8Å)を取り込む場合でも多少の歪み(膨らみ)を生じるため、水晶の柱面に“ねじれ”が発生する つまり、5-2(4)でも詳しく述べるように中心軸Zに対する右旋回の3回らせん軸対称が3回では完全に元に戻らないため徐々に左ネジ方向に柱面がねじれてしまうのである またLi+イオンが不足して、代わりにイオン半径の大きいK+Na+イオンが入った場合は微調整が効かず、結晶欠陥(点欠陥)として残ることになる 人工水晶の育成では、原料の天然水晶に含まれる微量のAl3+イオンによるAl-同形置換が避けられず、その補完用にアルカリ溶液からNa+イオンが取り込まれて結晶欠陥を生じるため、アルカリ溶液に微量のLi+イオンを混入させる場合もある
  一方、Al-同形置換が起こっていない完璧な結晶は、この軸方向に連続している空隙が完全な空洞になっていて、直進する光を(複屈折を起こさないで)自由に通過させることができるため、軸を光学軸(Z軸)と呼んでいる そして水晶の極めつけの光学特性は、図 5-5 に偏平な楕円で示したように中心軸Zの周りに形成された右ネジ回りの(酸素イオンの)螺旋(らせん)階段に沿って、長さ約6Åのスリット状の隙間が右旋回しながら続いていることである つまり、光学軸(Z軸)に沿って入射した“偏光”は 右旋回しながら進むため偏光を一定の厚さの水晶板(波長板と呼ぶ)に通すと、その向きを自由に変換して取り出すことができレーザー光を用いた光ディスク(CD,LD,MD,DVD,etc.)のピックアップなどに利用されている そして前項でも触れたように、2種類あったSiO4らせん体の旋回方向(“左ネジ回り”と“右ネジ回り”) によって偏光を右旋回(右水晶)と左旋回(左水晶)させる水晶があり、両者を対掌体(光学異性体)と呼ぶこともある

図 5-5 α-石英型 三方晶系(3回らせん軸対称)の結晶構造

  その他の水晶の特性として圧電特性があり、電気的振動(交流)を与えると 水晶片の厚みに応じて一定周波数の機械的振動が発生するためこれを更に電気的信号に変換する「水晶発振器」として、通信機(無線機、テレビ、ラジオ、VTR、携帯電話パソコンetc.)などのあらゆる周波数(色調や回転数も含む)制御そしてコンピュータなどの高速演算(クロック)制御や 時計を含む全ての電気製品の時間制御に利用され現代生活に欠かせない素材になっている しかし良質の天然水晶は少なく通常の天然水晶(2ndグレード)を原料とした人工水晶で需要をまかなっているのが実情でその原料となる2ndグレードの天然水晶も埋蔵量は乏しい
  反面、金属(メタリック)シリコンの原料となる珪石や珪岩(低品質のα-石英)は無尽蔵に近く、これらに還元剤(オイルコークス、木炭)を混合して下式のように電気アーク炉で還元して製造するが今度は電力コストがネックとなり 生産地はノルウェーやブラジル 中国など水力発電が多く電気代の安い国に依存している
  SiO2 + 2CSi(メタリックシリコン) + 2CO  [1500℃以上]  ・・・・・・・・(5-1a)
  Si + 3HClSiHCl3(トリクロルシラン) + H2  [300℃]      ・・・・・・・・(5-1b)
金属シリコンは塩酸と反応させガス状の塩化物にして精製を繰り返し水素還元や熱分解で多結晶シリコンにした後大型の石英ルツボで溶融・単結晶化したものをスライス・鏡面研磨して半導体や太陽電池(2級品を使用)の材料となる薄い円盤状のシリコンウエーハ(純度99.999999999%)が完成するのである
  更に 最も多いα-石英の用途としては、花崗岩中の石英粒(β-石英から転移したもの)が風化・堆積・変成など自然の淘汰(選別・精製)作用を受け比較的純度が高くなった珪砂(純度98%)が、ガラスや珪酸ソーダの原料 あるいは鋳物型の材料として日本だけで年間数百万トンも使用されている また かなり純度の高いペグマタイト珪石(純度99.9%)は、これを粉砕して高級ガラスの原料や半導体用樹脂のフィラー(充填剤)などに使用されているがその量は年間数万トンで差程多くない その他 水晶の代替として、アラスカイトやグラニュラークォーツを粉砕精製した高純度石英粉(純度99.99%)は、半導体の製造装置に使用する各種石英ガラス製品や単結晶シリコンを製造する石英ルツボ用に、わずかな量(年間数千トン)が使用されるのみである

下の2枚は、「鉱物の加藤さん」提供の水晶の写真ですが、左は無色透明のきれいな塊状結晶で石英ガラスの原料にもなる1stグレードの水晶です また、右は淡紫色透明の紫水晶(アメシスト)で、六角錐の現れた理想的な六角柱状結晶を形成しています

α-石英(水晶)(加藤氏提供) α-石英(紫水晶)(加藤氏提供)

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