江戸料理百選タイトル   

  

*** 第4回 ***

酢豆腐[上方版:ちりとてちん]

江戸の職人さんの中で朝一番の早起きは、なんといってもお豆腐屋さん。私が子供の頃、家の隣はお豆腐屋さんでした。父母の話ですと四時頃には起きているのではないかと・・・。ちなみに、お豆腐屋さんの起床時間は3時頃だそうです。
早朝いつも、決まって私の耳と鼻に入ってくる「ゴォー」という力強いボイラーの音と香ばしい匂い。あれは豆を煮ていた音なのでしょうか? 冷たい水を使う仕事、大変でしょうね。白いお豆腐をすくい上げるおばさんの手は、いつも真っ赤な色をしていたように思います。

夏の盛りに、町内の若い衆があつまって一杯やる相談をしていた。酒はあるのだが、銭がないので肴がない。糠味噌の古漬けはあるのだが、臭いので誰も糠味噌樽に手を突っこもうとしない。昨夜買った豆腐があったが、与太郎が鼠がかじるといけないと釜のなかにしまったので、暑気にやられて腐ってカビが生えていた。そこへやってきたのが、気取っておつにすました若旦那。若い連中は、若旦那を食通だのなんだのとおだてあげ、この腐った豆腐を食べさせてしまう。『若旦那、これはなんてぇ食べものでございます?』『私が思うに、これは酢豆腐だな』『酢豆腐ですか。さすが若旦那よく知っていますね。沢山食べてくださいよ。』『いや、酢豆腐はひと口に限ります。』
 ※参考文献:『落語手帖』矢野誠一著 講談社+α文庫

                   * * * * *

知ったかぶりの若旦那は、豆腐が腐っていると解ってはいるが、おだてられて食べてしまう。最後に「いやあ、酢豆腐は一口にかぎる」と逃げたのは、たいしたものだ。若旦那あっぱれである。

「上方落語『ちりとてちん』は、腐った豆腐に白砂糖と唐芥子の粉をまぜたものを長崎名物『ちりとてちん』だとして、気取り屋の男に食わせる話になっている。」(『江戸の食文化』山本志乃著 河出書房新社)

上方落語『ちりとてちん』
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豆腐を扱った江戸落語
『甲府い』---信仰して一生懸命働けば必ずいいことがあるという正直者の男の噺。
「豆腐い」と、長くひいて、「生あげ、がんもどき」と節をつけての売り声が面白い。なれると、ひとりでにどならなければ、足のはこびがわるいくらいになるらしい。

『穴どろ』---大晦日にお金の工面がつかないで女房に「豆腐の角に頭をぶつけて死んでおしまい」といわれた男の噺。

『家見舞(別名「こいがめ」「祝いの瓶」)』---冷や奴(湯豆腐)を肥がめで保存した臭い噺。

『付き馬(別名「早桶屋」)』---朝飯に湯豆腐がでてくる。
 ※参考文献:『古典落語(大尾)』興津要編 講談社文庫

「豆腐」を題財のけちんぼの笑話(小豆の豆腐でご馳走)
 大変に、けちんぼな亭主の家に珍しくお客がきた。「何かご馳走したいと思っても何にもない辺鄙な場所で申し訳ないです。」などといっている処へ「豆腐は、豆腐は」豆腐屋が売りにきた。亭主は「豆腐を買おう。しかしながらアズキの豆腐だろうな。」「いいえ、いつものダイズの豆腐です」と豆腐屋が答えると、亭主は「それならば買うのはやめよう。ご馳走というほど珍しくもないから」と断ってしまった。

 このお話はアズキで豆腐は造れない事を知っていながら、珍しく遠方より来たお客に豆腐の一丁も、おもてなしをしなかったという噺。辺鄙な土地でも豆腐屋が毎日のように売り歩いていたのが解る。

 ※参考文献:『醒睡笑』安楽庵策伝著(落語の祖)岩波書店---1628年(寛永五年)三代将軍徳川家光の頃

『いろはカルタ』の豆腐
『豆腐にかすがい』---豆腐にかすがいを打つ。意見をしても少しも利きめが無いこと。かすがいとは二つの材木をつなぎとめるために打ち込む、コの字型のくぎ。

『酢豆腐』を国語辞典で調べると・・・
知ったかぶりをする人。きいたふう。半可通。半可通が、くさって酸い豆腐を「これは酢豆腐という料理だ」と言った笑話による。
半可通とはよく知らないのに知ったふりをすること。通人ぶること。いいかげんな通人。

                     ♪♪♪♪♪

* 第5回 うなぎ へ♪ *


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