化学結合<原子核と電子しかない> 原子は,プラスの電荷をもった「原子核」のまわりにマイナスの電荷をもった「電子」が存在する。原子核は電子よりもはるかに「重く」,電子の動きに対し て「静止」していると考えてよい。 [化学結合のイメージ] (重い原子核)−(軽い電子)−(重い原子核) という構造で,「クーロン力」でつながっていると考えられる。 電子は存在するだいたいの「場所」(軌道という)と入る「数」が決まっている。 電子の動きは原子核に比べてはるかに速い。軌道のエネルギーの差が大きいと,電子が移動した場合,大きなエネルギー差が生じる。この大きなエネルギー差 を「止まっている」原子核は吸収できない。 したがって,エネルギー差の大きい軌道の電子は別の軌道の電子と相互作用しない。 例) 同一原子内のK殻とL殻の電子 では,マイナスの電子どうしがどうして結合するのであろうか? <電子の性質> マイナスの電子がどうして結合するのかというと,電子には「波の性質」があるからである。この「波」は,我々が普通イメージする波とは「全く異なる」も のである。電子1個の電荷と質量は知られており,電子を1個ずつ回析格子に入れることができる。驚くべきことに,電子を1個ずつ入れたはずなのに,スク リーンにはなぜか「縞」ができてしまう。ということは,電子1個が,「波」のような性質をもつ不思議なものということになる。 電子の運動は,「シュレーディンガー方程式」と呼ばれる方程式で表されることが判明した。非常に不思議な話ではあるが,現在の科学では,「シュレーディ ンガー方程式」を否定することはできない。 そこで,シュレーディンガー方程式を用いることにする。 電子のエネルギーを, (運動エネルギー)+(位置エネルギー) とする。 とりあえず位置エネルギーを無視して0とし,シュレーディンガー方程式を解くと, (運動エネルギー)=(nh)2/8mL2 (n=1,2,3…) ここで,hはプランク定数,mは電子の質量,Lは動ける電子の範囲である。 したがって,電子は広い空間を運動すると,エネルギーが小さくなるという性質がある。 したがって,「遊びたがる子供」のように広い空間をさまよいたがっている。ただし,先ほど述べたようにエネルギーの近い軌道でないと移動できない。この ような「動きやすい」電子を引きとめているのは,「親」のような原子核があるからである。 <なぜ化学結合するのか?> 「共有結合」というものがある。 @ 電子の移動 原子が接近すると,電子は「広い空間をさまよいたい」ので,隣の原子に移りたがる。電子どうしはマイナスの電荷をもっているので,電気的に反発するが, 移れる場所(エネルギーの近い軌道)があれば,移っていく。移ると電子の動ける範囲 は大きくなるからである。ただし,希ガスのように入る場所があまりない原子には,電子は「めったに」移らない。 A 電子の安定化 移った電子は,隣の原子核にも引っ張られて安定化する。 ← はじめに書いたイメージ 結局,電子はどちらの原子の所属だったかわからなくなってしまう。 (補足) 量子力学計算によって,電子の全エネルギーが求められる。これをビリアルの定理で「電子の移動エネルギー」と「電子の安定化エネルギー」に分けることが できる。それによると,水素分子では,10-10 m 付近で,主役が@からAに移行するようである。ビリアルの定理とは,万有引 力や静電気力のように距離の2乗に反比例する力が働く粒子では, (運動エネルギー)×2=−(位置エネルギー) となる。ということは,化学結合というものは,最終的には,電子の移動エネルギーよりも,核からの静電気引力による電子の安定化エネルギーで決まっ てしまうこ とになる。 <化学結合に対する誤解> @ 電子は一番外側の殻に8個入る。 最外殻に電子が8個入れば安定になるが,べつに空いている場所に電子が入れば結合はできる。この誤解は,高校で「なぜ化学結合ができるか?」を教えてい ないからである。 A 電子は対にならなければならない。 電子は対になれば安定になるが,電子1個でも結合はできる。H2+という安定なイオンが存在する。 <イオン結合> NaClの結晶を気体にすると,NaClの分子ができる。このNaCl分子は電子が極端にClのほうに偏っている。一般に「化学結合」といえば,「棒」 のようなものを想像するであろうが,この場合,「大小のだんごが引っ付いた」ようなイメージになる。これは電子の運動よりも,原子核の電荷の違いからくる 静電気的なもので,「イオン結合」とよぶ。 このように電子が偏ると,結合に「方向性」がなくなり,3次元的にNaとClが結び付いていく。これがイオン結晶である。「3次元化」することにより, 電子が完全に移ったようになる。 多くの化学結合は,イオン結合と共有結合の「中間」であると考える人が多数派である。石川正明の「新・理系の化学」に面白いことが書いてある。 Na → Na+ + e− … @ Cl + e− → Cl− … A @+Aは, Cl + Na → Na+ + Cl− … B @は 493 kJ/mol の吸熱反応,Aは 364 kJ/mol の発熱反応。したがって,Bは 129 kJ/mol の吸熱反応と なる。この反応は自発的 には起こり得ないことになる。 NaからClの電子の受け渡しが,量子力学的な電子波の干渉(いわゆる共有結合)なしでは無理であることが分かる。 <金属結合> 結晶中に存在する「共有結合」の特殊な場合である。原子が接近したとき,電子は他の原子に移動したがるが,移動できる電子が「少なく」,移動できる場所 が「多すぎる」と,原子は次から次へとつながって,電子は「移動しまくる」ことになる。移動しまくることによって結合は安定化する。これを「金属結合」と いう。本質は「共有結合」である。 金属Liを気体にすると共有結合して,Li2分子ができる。Liは内殻電子のしゃへいが大きいので,ゆるく結合するようである。 結合エネルギーはH2の4分の1程度である。Liは金属結合したほうがずっと安定になるのである。 <炭素と炭素の間に4重結合が存在しないのはなぜか?> C2分子は,宇宙空間に存在する。夢のある話である。 炭素の電子配置は, 2s(↑↓) 2p(↑ )(↑ )( ) 4重結合したとすると, 2s(↑ ) 2p(↑ )(↑ )(↑ ) sp3混成軌道になる。ところが,この軌道は正四面体方向に伸びるので,たとえ結合したとしても3重結合 になる。 実際に,量子化学計算した結果は,3重結合を示している。 混成しないとすれば,上記の電子配置から分かるように,p軌道の2重結合になる。 |