枝雀 桂枝雀の「寝床」をDVDで観た。 何ヶ月か前に発売された、CDとDVDの二枚組で、 枝雀の決定版あるいは入門版と云ったところだろうか。 値段も手頃である。 落語「寝床」は前にちょっと書いたが、いま調べてわかったのだけど、 桂枝雀と古今亭志ん朝は1つ違いなんだ(志ん朝が一歳上)。 収録されたのもほぼ同じ時期で、志ん朝のは77年10月5日、 東京文京区本駒込の三百人劇場(今年12月で閉館)。 枝雀の方は80年11月25日、大阪ABCホール(ABCテレビで放送)。 で、枝雀の「寝床」。 上方落語だから、義太夫狂いの旦那ではなく、浄瑠璃狂いの旦さんになる。 噺のプロットもサゲも志ん朝版とほぼ同じ。 いや、そうじゃない。 あべこべで、「寝床」は上方で生まれた噺なのだ。 志ん朝の旦那は、素人の芸好きは困ったものだと云うふうに造形するが、 枝雀の旦さんは至って無邪気である。 聞かされる長屋の連中は迷惑して、「どうする、どうする」と、やけくそで掛け声をかける。 「東京ではね、『どうする、どうする』てなこと云いますけれど、こっちではね、 えー、『後家殺し、後家殺し』ちゅな、 これが褒(ほ)め言葉だ、云うてみなはれ」 「あ、さよか。 いよ、よー、後家殺し、後家殺し、後家殺し、・・・・・人殺し!」 矢っ張り、映像で観るのは面白い。 いまはDVDと云う技術があるのだから、テレビ局に埋もれている録画をもっと出してほしい。 ところで、桂枝雀である。 爆笑王と云われた見かけとは違って、二代目桂枝雀を襲名の頃から鬱(うつ)にかかる。 7年前に自宅で首をつり意識不明になって、その後病院でなくなった。 享年59。 当時、石井英夫さんは「産経抄」に、こう書いている。 <イラチで、繊細で、凝り性だったという。 インテリだったが、インテリ過ぎたのである。 「笑いは緊張と緩和である」という理論を立て、その理論を極めようとした。 理論なんてどうでもよかったのに、である> まあ、そうなんだけど、身ひとつの芸と云うのもむずかしい。 志ん朝さんもいないし。 |
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満足 第二水曜日は資源ゴミを出す日である。 同じこの日はマイクロソフトがセキュリティ更新プログラム(修正パッチ)を出す日だから、 きのうはマイクロソフト・アップデートを実行してパッチをあてたが、30分近くかかるので少し迷惑した。 古今亭志ん生の落語はマクラが可笑しい。 「えー、落語と云うのは洒落(しゃれ)の塊でしてェ」、なんてことを云って、 「ゴミ取りに目がついて、ゴミトリマナコ」と云う具合で、文字にしても何とも面白くはないけれど、 CDで志ん生の声を聴くと頗(すこぶ)る可笑しいのだ。 それではゴミの日にパッチをあてて、「ゴミ出しマイクロソフト」と書いてはみたが、ちっとも面白くない。 テレビの新番組「Drコトー診療所2006」をたまたま見た。 前シリーズは2度か3度か見たと云う覚えがある。 吉岡秀隆、柴咲コウ、泉谷しげる、筧利夫、小林薫などは何となく覚えているのだが、 時任三郎が現れてドラマの構成を想い出した。 まあ、ドラマはどうでもいいのだけれど、途中でCMが流れた。 携帯電話のCMで、ローリング・ストーンズの曲「サティスファクション」を使っていた。 尤も他人が歌っていたのだが、それで想い出したことがある。Windows 95 が発表されたときである。 マイクロソフトが至福の時である。 その時分は、CMにストーンズの「スタート・ミー・アップ」を流していた。 これに、ニューズウィーク誌は皮肉って、ヒット曲「サティスファクション」を使えばいいのに使わないのは、 <満足させる>OSではないからと書いた。 その通り、いまでも満足出来ないけれど、それに替わるのがない。 リナックスがいいと云うけれど、文字コード(ユニコード)については、いい加減な儘。 まあ仕方ない。 |
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味覚 随分と前のことだけど、午(ひる)に中華料理屋に這入って中華ソバを注文した。 ショーウインドウの模型を見て、テレビのCMが昔懐かしい中華ソバとでも云いたそうな素朴さに引かれたのだ。 食べて、こんなに旨いものはないと思った。 それで、一週間か二週間後に、もう一度食べてみると、何だ只の中華ソバじゃないかと思った。 味覚とはどうも怪しいもので、懐かしい味を覚えて旨いと感じたのか、どうだか分からない。 尤(もっと)も料理にブレがある店もあって、いつも同じ味とは限らないのだ。 インスタントやカップのラーメンは長らく食べていない。 長らくのスケールは一年か二年と云うほど。 夜中に何か食べたくなって、台所を物色するとカップ麺を見つけた。 で、お湯を沸かして、それで食べてみると、あんまり旨くはない。 いやァ不味(まず)い。 まあ、好みによるので明かさないけれど、そもそも不味いものかも知れない。 |
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寝床 昼ご飯の後、居間で横になってうつらうつらしながら、 古今亭志ん朝の「寝床」(ソニー、『志ん朝復活-色は匂へと散りぬるを (に)』)を聴いていた。 実に人間の出来た大店(おおだな)の旦那。 自分の家作(かさく)に住まっている店子(たなこ)の面倒見もいい。 唯一の欠点は、下手な義太夫(ぎだゆう)を語りたがると云う義太夫キチガイ。 「それァね、下手なら我慢して聴けるんですよ。下手はもちろん下手なんです。 それに加えてあの声なんです。ね? あの声でみんなね、患(わずら)うからいけない」、と云う始末。 ある日、義太夫を語りたい発作を起こした旦那は、番頭に長屋の店子を呼びに行かせるが、 全員いろいろと理由を作って出てこない。 それじゃ、店(うち)の奉公人に聴かせようとするが、 みんなそれぞれ仮病を使って拒否する。 とうとう旦那は怒って仕舞い、「あしたの、十二時をもって、速やかに店(たな)を明け渡してもらう…」。 もともと落語の「寝床」は、昭和の名人と云われた八代目桂文楽の十八番(おはこ)で、 CDで聴いたことがある。 いま手元にないのでうろ覚えだけれど、三笑亭可楽の「らくだ」とのカップリングで、 寄席の録音でないのは残念だった。 客席の笑いが入っているのがずっと聞きやすい。 それでも名人芸で、 明るい声に、人物ごとの声の使い分けがすばらしい。 文楽の「寝床」は、一旦はヘソを曲げた旦那が、長屋の連中が来ました、 と番頭に云われて、段々と機嫌がよくなる過程の可笑しさである。 |
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名月 NHKのニュースで、雨と強風で傘が折れて仕舞いずぶ濡れで、きょうは踏んだり蹴ったりだった、 と云う人が映っていた。 今夜は晴れていれば中秋の名月。 代わりに以前デジカメで撮った中秋の名月で我慢しよう。 ![]() |
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おでん 朝起きると少し寒いので秋だなと思う矢先に、もう10月である。 夕方になれば鈴虫が鳴いている。 で、夜の9時頃に用があって駅に行った。 うちを出て歩いて並木の往来を歩いていると微かに風が吹いて心地よい。 まだ寒くはない丁度よい空気だ。 駅前の交差点に出ると、交通課のお巡りさんが何人か突っ立っている。 夜はまだ遅くないから、酔っぱらい運転を取り締まると云う様子はない。 素通りする自転車を目で追っていた。 帰りに、コンビニに寄った。 思いつきで、寝酒のための氷を買おうとしたのだけど、 這入ってみると、おでんを売っている。 なるほど秋だからなあ、と思って氷を買って帰宅した。 女優の萬田久子さんはテレビで知っていると云うほどの人だけど、 以前トークショウのような番組で、おでんのネタのねりものは嫌いだと云っていた。 「あれは無駄なものでしょう」と云うから言い得て妙だと思い同感したのを覚えている。 おでんは巾着、大根、厚揚げ、こんにゃく、がんもどきで、卵はひとつならと云うほどである。 内田百閒に、「がんもどき」と云う随筆がある(中公文庫、『御馳走帖』所収)。 大阪の宿屋の朝食のお膳に、がんもどきがあって、東京に帰ってからその話をすると、 朝のお膳にがんもどきが出るような宿屋へ泊まったのですかと馬鹿にされたと云うものである。 まあ、そんなにがんもどきを悪く云うものではないと思うのだけど。 と、書いていて、おでんを食べたくなった。買っておくべきだったなあと、後の祭り。 |
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