ロボット(R.U.R)

岩波文庫

 ストーリー紹介 

人間の手足となって働かせる為に、R.U.R社は独自の技術を開発し、
人間とまったくおなじ外見と、高度な知性を兼ね備えた“ロボット”を生み出した。

ただし、ロボット達には感情がなかった。
だから、作業で傷ついても叫ぶ事も悲しむ事もせず、
仲間が肉塊と化しても周りのロボット達は無関心である。

そんなロボットの生活を憂えたヘレナ婦人は、技師にロボットに恐怖の感情を与えよと命ずる。
ところが、恐怖の感情だけを持ったロボット達は、搾取されることに憤り、反乱を起こす。
そして人間を滅ぼすが、彼らは自分達で生殖活動ができない為、人間を一人だけ生かす。

ところが彼は建築家であり、ロボットの製造法を知らなかった。
その時、ロボットのヘレナとプリムスの間に優しい心や恋愛感情が芽生える。
そして二人は外の世界へと旅立って行く。


 感想  


この話のロボットは金属でできたロボットではなく、人間と似たような存在です。
(作り方は本文を読んでもらった方が早いので略)
インプットされた通りに完璧に行動できる所は機械のロボットと変わりありません。

心を持つというのは、どういうことなのでしょうか。
この物語では、恐怖や痛みの感覚から生きたいという感情がロボット達に生まれます。
やがて優しい感情を持つヘレナが誕生しますが、それは後天的に養われたものです。

この物語を読むと、そのあまりの残酷な展開から、
性善説(人は本来、優しい存在だという考え方)を信じられなくなるかもしれません。
人によっては辛くて立ち直れないかも。

しかし、この物語で語られていることは真実ではないかと私は思うのです。

生き物はみな、自分の遺伝子を残したいと考え、行動するものです。
まず自分が生き残るのが先です。他人を生かしていたら死んでしまいます。

でも、集団を作るうちに自分だけでは生きていけないことを悟る。
自分の存在が矮小だと知った時、
初めて、優しい心や親切な行動が生まれるのではないでしょうか?


勿論、この物語最大の悲劇は、ヘレナがロボットの福利厚生のためを思って、
痛み苦しみを与えようと思う所はよかったけれど、
それだけを与えるとどうなるのかを考えなかったところにあります。

痛みや苦しみは確かに身を守る為に必要な物です。
しかし、それしか考える事ができなかったら、
心が傷ついて精神的に自滅の一途をたどる(自殺する)か、
自分が世界の支配者もしくは技術者となって、
苦しみから解放される方策を手に入れるしか無いのかもしれません。

ロボット達は方法を誤りました。
人間がいなくては自滅してしまうのに、滅ぼしてしまった。
しかしそのために潜在的な能力(優しさ、喜び、恋)が目覚め、
より良く生きることのできる存在になれたというのは皮肉ですよね。


無論、この物語の“ロボット”は、金属で出来たものではないことから、
全近代の過剰な資本主義政策下で虐げられた労働者階級の暗喩とも考えられます。

もちろん、人間にはもっといろんな感情が生来備わっているし、
支配者階級が感情や考え方を与えるわけではありませんが。

人間の集団のうち特定の階級を一部の人間が支配する仕組みも、
人間に完全に従属する生物を作り出して人間全体が支配する仕組みも、
あまり変わらないと思うのは私だけでしょうか。


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