抜目のない未亡人

ゴルドーニ作/平川 祐弘訳
岩波文庫(赤) 703-1 (岩波書店)

ストーリー紹介 


舞台は18世紀半ばの国際都市ヴェネツィア。

肺病病みの老人に嫁がされた美しいロザーウラ嬢は、
夫の死によって介護の日々から解放された。

しかし、このまま婚家に留まるわけにもいかない。
檻に入ったような生活から抜け出したい、
そして自分にふさわしい男と再婚したいと思った彼女は、
舞踏会で出会った4人の男達に次々と求婚される。

イギリスのルネビーフ閣下は礼儀正しいが愛情が続かず、
フランスのムシュー・ル・ブローは美しいが浮気者、
スペインのドン・アルバロ・デ・カスチリャは献身的だが権威主義的、
イタリアのボスコ・ネーロ伯爵は愛情深いが嫉妬も深い。

ロザーウラはこの中から自分にふさわしい夫を選ぶため、一計を案ずる。
彼女に選ばれた夫とは・・

 本文の引用を含む感想 

ロザーウラ 「チチズベーオがいなければ女は男一人ですみますもの。
 男の数をふやせばふやすだけ、女は鎖を身に巻くことになりますからね。」
(P44より)


「イタリアのご婦人方の身さばきの文法書になっている」本について、
ロザーウラが感想を述べている場面です。
このチチズベーオというのは騎士の一種で、不安定な妻の心を慰める存在。
妻は夫よりその人にへりくだって気をつかう・・らしい。

現代だったらダブル不倫(プラトニック志向)の口実にでも使われそうですね。

ヨーロッパでは長い間、貞節さが女性の美徳とされていました。
また、結婚は家同士の結びつきであり、女性の運ぶ持参金は商売の元手でもありました。
そんな時代ですから、女性に発言権などあろうはずもなく・・・
そういう女性達が慰めを求めてチチズベーオができたとしてもおかしい事ではありません。

しかし(尊敬対象にはなり得るかもしれないが)好きでもない夫に尽くすだけでも大変なのに、
チチズベーオにも平等に貞淑を尽くせ、とは..
もし私がその奥さんだったらやりきれないだろうと思います。

「レディファーストは女性を監視し、しかも彼女を無力化する」とは友人の言葉ですが・・

ロザーウラ 「きっと皆様はこのわたしを羨ましいとひそかに思っておいでのことかと存じます」
(ロザーウラの最後の台詞より)


幸せな結婚をしたロザーウラの台詞です。
このように大胆に自分を褒めるヒロインというのは滅多にいないと私は思います。
知性も行動力も美しさも兼ね備えたロザーウラ嬢はまさに理想の女性ですね。

注:ここで言うヒロインとは女主人公のことで、守られるだけの無力な存在のことではありません・・
(スペインの伯爵ドン・アルバロによると、ヒロインは高貴な貴婦人のことらしいですね)


このページの文章の無断転載はお止めください。