祭りに浮かれて兵士たちも誰一人この階段に気づかないか、それともワナなのかはわからないが、入口は兵士たちによって封鎖されているのでどうしようもない。
・・とはいえ、もちろんアセトくんたちは侵入者なので、護衛兵たちとの激しい戦闘が待ち構えていることは言うまでもなかった。
とくに、二人プレイの上、術法はこのゲームではあまり強くないので、タルミッタ兵のエストック(細身の剣)によって繰りだされる『睡魔剣』の攻撃に苦しむ。
睡魔剣は、敵を眠らせるだけなので、一人だけでは意味がないが、他の兵士が高い攻撃力で攻めてくるので、眠って反撃できない間にやられてしまうのだ。
どうしようもなくなってきたので、南エスタミルの酒場にいたバーバラを仲間にし、最前列に配置。
おとりとしてやられ役になってもらうことにした。
彼女の犠牲のおかげでなんとか最新部に到達。
そこには兵士たちに守られたタルミッタの太守、ハルーンがいた。
落ち着き払っているハルーンに、アセトくんの怒りが爆発。
「さらってきた娘たちを、かえせ!」
後ろでアイシャがうなずき、槍をかまえる。
しかし、ハルーンはまったく動じず、ひゃひゃひゃ、と甲高い笑い声をあげると、
「バカめ、娘たちは ここにはおらぬわ!本物のハルーンが、マラル湖の水竜の神殿へ連れていったからな!・・もうすでに、 生け贄の儀式が、はじまっておるかも、な?」
と、歪んだ笑みを見せたかと思うと、本当の姿を現した。
強敵か!?思わず息をのむアセトくん一行。
・・ところが。
登場したのは目玉一匹。
・・って目玉かよ。たいしたことないな、と。プレイヤーが油断したのもつかの間。
ぴきーん!と音がしてバーバラが石になってしまった。
必殺技『石化にらみ』だ。
油断大敵、アセトくんとアイシャは渾身の力をふりしぼって目玉をやっつけた。
そして、あまりのことに呆然とたたずむ兵士たちを問いつめる。
彼らはショックのあまり守秘義務を忘れて質問にこたえてくれた。
どうやら、『水竜の神殿』はマラル湖のまん中の島の地下にあるらしい。
石になったバーバラとはとりあえず酒場でお別れすることにし、急いでマラル湖にむかうアセトくんとアイシャ。
水竜の神殿は、地下一階から不定形生物系がたむろっており、戦闘回数をセーブするのが難しい。
下の階も同様に、宝箱をとろうとすれば敵に囲まれてしまう。
とりやすいのだけ探して、他は無視することにして、最新部へ。
最新部は湖の中心にある小島であり、大きな空洞のようになっていた。
目を凝らすと、奥に祭壇がしつらえてあるのがわかる。
そして、そこでは今、まさに生け贄の儀式がはじめられようとしていた。
「偉大なるクジャラートの守護神、水竜よ!我らの祈りに答え、我らが捧げ物を、受け取りたまえ!!」
朗々としたハルーンの声が、大空洞に響き渡る。
アセトくんは、とりあえず様子を見ることにした。
すると、祭壇の向こうから巨大な龍が姿を現した。
「欲深き人間よ、何が望みだ?」
その声は見ているアセトくんたちも思わず感銘を受けるほどの威厳に満ちていた。
ハルーンは、クジャラートの栄光を取り戻すため、力が欲しい、そのために娘を捧げるのだ、と答えた。
そのとき、ハルーンが水竜に歩み寄ったので、ちらっとだが、娘の姿が見えた。
「あ、あれは・・」
アセト君は思わず身を乗り出しそうになった。
気絶してぐったりと横たわる娘の顔が、アフマドから見せてもらった『娘の肖像画』にそっくりだったからである。
これは放っておくわけにはいかない。約束を守るのは騎士のつとめの一つだからだ。
立派な騎士になろうと夢見るアセトくんは、思わず叫んでいた。
「やめろ!」
ハルーンが気づいて振り返る。
そばのアイシャはどうなるものかと気が気ではない。
もし水竜が襲いかかってきたら、今の戦力ではどうにもならないからである。
ハルーンは初めいぶかしがっていたが、娘の顔を見ると、
「さては、アフマドの手の者だな!・・邪魔させるな!殺せ!!」
と叫ぶと、そばの護衛兵を呼びつけた。
今回も相当な苦戦を強いられる。
・・が。
ロマンシングサガはセーブがどこでもできるので、何回でもやり直し可能なのだ。
勝つまで続けること数十分。
なんとかタルミッタの護衛兵を撃退。
するとハルーンはしばらく考え込み、
「・・仕方ない。アフマドにいくらもらった?わしは、それ以上出すぞ!悪いことは言わん、わしのために働け!」
ここで引きさががったら騎士として父上母上に申し訳ないので、もちろん選択肢「なめてんじゃねーよ」を選択。
(旅の間に彼もずいぶんお下品になってしまいましたが。)
・・もちろん、ハルーンとの戦いは楽勝。
彼はすごすごと逃げ帰ったが、これだけ痛めつけられては上のモンスターどもの餌食になるがいいところなので、アセトくんたちは深追いしなかった。
その様を見ていた水竜は、またおもむろに口を開くと、
「その娘は生け贄として捧げられた以上、私のものだ。返してほしくば『雨雲の腕輪』をとりもどしてこい」
と言って、説明を始めた。
ベイル高原のまん中にある『グレートピット』という大きな穴に住むドラゴン、アディリスにその腕輪を貸したままになっているというのだ。
そして、
「それまで娘はあずかる。では、さらばだ」
と、言うと、水竜は再び水中に姿を消した。