瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)
医師の働き方改革を議論する厚生労働省の検討会は28日、ほとんどの勤
務医の残業時間を一般労働者並みの年960時間とする方針を決め、報告書に まとめた。一部の勤務医に長時間労働を認め、過労死への懸念は強いが、将 来的に廃止したり、上限を引き下げたりする。医師の過酷な労働環境を変える 大改革となり、かじ取りを誤れば地域医療の崩壊を招く恐れがある。
2024年度から適用される残業の罰則つき上限についてこの日、年960時
間と決定。一方、病院勤務医の1割で残業が年1900時間を超える現状や、医 療の質を保つ必要性を踏まえ別枠を二つ設けた。
年1860時間に決まった、この別枠の上限が検討会の最大の争点となっ
た。病院団体の委員は「相当厳しい水準」と主張。一方、脳・心臓疾患の労災 認定基準を大幅に超え、「過労死水準をはるかに上回る非常識な数字」(連合 の村上陽子・総合労働局長)との強い批判もあり、「賛同できないとする意見が あった」と報告書に明記された。
地域医療を守るための別枠の特例上限は、全国に約8千ある病院のうち、現
状で救急病院など1500程度が対象。35年度を目標に廃止するため、研修医 などへの別枠を除き、すべての勤務医の残業は将来、年960時間以下にな る。
だが、厚労省の調査では、4割の病院勤務医がこの水準を超過。労働時間
の圧縮が急務で、厚労省は今後、報告書に盛り込まれた改革を具体化させ る。長時間労働させている医療機関には、短縮に向けた計画作成を義務づけ、 長時間労働の要因を分析して指導する仕組みもつくる。医師の仕事を看護師ら に移す取り組みも進める。
一方、労働時間の大幅な短縮には、医師不足の解消が欠かせない。厚労省
は4月から偏在対策を強化するが、うまく進まなければ大幅な診療の縮小や救 急患者の受け入れ制限を招き、病院の閉鎖にもつながりかねない。(姫野直 行、阿部彰芳)
(朝日新聞 2019年3月29日)
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