リサリサ先生と教え子が告白して一時間で自制心ヤバイ  引き出してもらったワゴンRはまだなんとか走った。夜の田んぼ道を塔夜の家に向かった。二人とも陽気だった。まるでただの口の減らない小学生の男の子と、それに手を焼く担任の女教師みたいに、お互いの軽口をぶつけあって窓からこぼした。 「ほんと抜けられてよかったよね、ガンっていったときどうしようかと思ったよ」 「マジすげーよなJAFって。リサリサ乗ってんのに引っ張り出すんだもんなー」 「あたしが乗ってたからどうだってんだコラ」 「えー別にー? 誰もリサリサが一億トンだとか言ってませんしー?」 「言ってるじゃん、何一億トンとかだっさ」 「リサリサいなかったら俺一人で戻せたし」 「絶対だな、もういっぺん田んぼ突っ込むかんな、戻せよ? あんた一人で戻せよ?」 「バカじゃね本気にするとかジョークわかんねーの?」 「ぐっわ激むか何このガ……お子様」 「ガキ? ガキって言いかけた? いいんですかー先生そんなのゆってー」 「があああもう黙れこの!」 「また出たよモーが。モー女が。どんだけ牛だよ」 「うぎゅううう」  助手席で脚を組んでへらへら笑う水谷塔夜十二歳の横で、桜庭理砂二十六歳がハンドル握って悶えているうちに、到着した。  田園地帯のお屋敷や分譲住宅からちょっと離れた一軒家。車はなくて窓は暗くて、誰もいないと一目でわかる家の前で、キッと軽を止めてサイドを引いた。 「ここ、だよね」 「ん。――オヤジ、まだだ」  びびびびび、とアイドリングする車内で、お互いを見てしまう。少し先の街灯の薄明かりが届いている。寂しそうに見上げる少年、長いまつげ、ショートパンツ、すんなりとした筋肉のついた、まだすべすべの脚。少し唾を飲んで見下ろす女教師。湿りっぱなしのセミロングヘア、ふっくらと大きな胸の盛り上がりと、斜めに食い込むシートベルトに挟まれて、しわになった生乾きの白ワイシャツ。タイトスカートから伸びてアクセルに置かれた長い脚、ストッキングの鈍い艶。  理砂が、にこっ、と笑って言った。 「ほれ、さよなら! 降りた降りた!」 「――ん」  塔夜はうつむき、足元のランドセルをのろのろと取ったかと思うと、急にガチャリとドアを開けてリアへ回って、あっというまに玄関へ飛び込んでいった。リサは苦笑してクラクションを鳴らす。 「おやすみ、また明日!」  窓から水谷家を一瞥して、ワゴンRを発進させた。  そして街灯の先のT字路を県道に向かって曲がろうとしたとき、バックミラーの異変に気づいた。 「ん……んんっ!?」  一度見てから二度見する。水谷家の門前に、ぽつんとたたずむ小さな影。  ギュッと思い切りブレーキを踏んで、ためらうことなく路肩に寄せた。窓から手を出して、ちょいちょい、と手招き。――それからこそこそと周りをうかがう。前は田んぼ。右手も田んぼ。左は県道だけど、そっちは車体が隠してくれる。  すぐにせわしない足音がして、塔夜が追いついた。 「リサ! なに?」  ダッシュで息を切らせて、期待に顔を輝かせている。ちょっと呼んだだけでこの反応だ。最初から素直に寂しいと言わないところがまた、こいつらしい。  ――ほんっとかわいいなあ、このやろう……!  内心を隠して、優しい大人の先生顔。ベルトを外してガチャリとドアを開けて、「ほらっ、おいで!」と両腕を広げた。  子犬みたいに塔夜が飛び込んできた。  理砂の胸元に鼻をうずめて、もぞもぞもぞっと顔を擦り付ける。見えない尻尾がパタパタと猛烈に振られている気がする。両腕を回して、思い切りぎゅうっと抱きしめる。小学生の背中が細くて、「くぅっ……」という苦しそうな声にぞくぞくした。草の香に似た髪の汗を胸を震わせてすうーっ……と吸った。 「寂しい?」 「んっ……!」 「言えよ、もう。付き合ったでしょ?」 「だって、おれ、わかんなっ……て!」  ワイシャツにしがみついて、胸の谷間にんっんっと頬ずりしながら言う塔夜の声は、いやらしいというよりも涙声だ。うんうん、と理砂はしっかり抱き支える。甘えたこと、ないんだったね。気づけなくって、ごめんね。 「水谷……顔上げて」  小さな子供みたいなべそかき顔を上げた塔夜に、理砂は自信をもって顔を近づけ、しっかりと深くキス。――つむ、つむ、んふ……と、二度ついばんでから、仕上げに長く、お互いの鼓動しか聞こえなくなるまで、しんみりと唇を重ねた。  不安げだった塔夜が静かに目を閉じて、ふー、ふー、ふう……とゆっくりな息になる。抱き合う胸の間が熱くなる。  二人はまた、ぴったりひとつに溶け合った。  それとともにまたちろちろと体の底が熱くなってきた。指先や体の端が温まる。下腹が熱くなる。触れ合う唇の快さが、そういうスイッチをどんどん入れてしまう。  でも、ここでそんなことするのは、いけない。――理砂はありったけの理性をかき集めて、教え子の肩を押す。 「水谷、ね、水谷。今夜はもう遅いから……ね?」 「いやだ」 「お願い。見つかるから」  塔夜は懸命にしがみついていたけれど、耳元で重ねてささやきかけると、は、とわれに帰ったみたいに手を離した。「わ……かった」と体を離す。 「ね、いい子」  にっこりとまた微笑みかけたけれど、それだけではさっきと変わらないと感じて、おでこをこつんと押し当てて言い聞かせた。 「水谷、大好き。ずっとあんたのこと、考えるね」 「ん……うん、リサ、おれも……」 「また明日ね」 「うん」  最後のうなずきは、本当に天使みたいに素直だった。  そうやって肩を押すと、ようやく少年は離れてくれた。理砂はドアを閉めて、最後に窓から手を振って、ギアをDレンジに入れた。  バックミラーの影は、今度はまっすぐに駆け去っていった。  居間のソファで膝を抱えてぼんやりしていると、十分もしないうちに車の音がして、倉庫事務員の父親が帰ってきた。おうすごい雨だったな、コロッケ買ってきたぞ、もう飯食ったか、と声をかける父親のいつもの顔を目にしたとたん、カッと頬が熱くなって、居間を飛び出した。 「おい、塔夜?」 「後で食うから! 先食ってて!」  階段を駆け上ってから少し下の様子をうかがうと、父親は一人で食事を始めたようだった。そうなると、二階まで見に来ることは滅多にない。  自室に飛びこんでベッドに突っ伏した。 「……くそっ、くそう……!」  甘い嬉しさと胸の痛むような罪悪感が交互に浮かび、そこにもやもやした強い衝動が入り混じって、頭がぐちゃぐちゃだった。  ……リサリサが、おれのこと好きって、恋人だって。  ……あいつのことだから絶対嘘じゃないけど、教師と子供ってことだからヤバいことで、おれが甘えたのが悪かったのに、でもあいつすごく優しく笑ってくれて……。  キス、した。  唇ねっとり押し付けて、ドラマみたいにめちゃくちゃキスした。頭の後ろがぞわぞわして、ありえないほど気持ちがよかった。  それから、それから……。 「……うああぁ」  伏せた頭に枕を両手で力いっぱいかぶせて、叫びながら塔夜は脚をばたつかせる。  ……おれ、すごく大人な、エロいことした……。  つやっとしてぷりぷりした、くちびる。うぶ毛の生えた首筋の甘酸っぱい匂い。骨が痛むほどぎゅうっと抱かれた。あれ絶対本気だった。「みずたにっ……」震える声。ボタン、外して。青白い、丸くてゆっさりと大きい、怖いぐらいきれいな。それ、手でさらって、むにゅむにゅして、赤ちゃんみたいに吸い付いて……。「すごくいい、水谷」「爪はだめだよ」。頭ぎゅってして、優しくすりすりしてくれて……。  ……ヤバいヤバいヤバい。  思い出すと心臓が破裂しそうにどきどきしてくる。ショートパンツの中身がコリコリに硬くなって、伸びる。腰の下敷きになってしまって、痛い。手をやって布の上からごそごそと先を上に向けた。そのまま伏せるとジィンとうずくような気持ちよさが広がった。「んっ……」と思わず体重をかけて、ぐり、ぐり、とベッドに膨らみをこすりつけた。  ……ヤバい……。  思ったけれど、止まらなかった。頭の中で渦巻く理砂のイメージと、股間の快感がしっかりと結びついてしまった。  おっぱいを吸い始めてからは、ありえなさ過ぎて、よく覚えてない。いや、ものすごくくっきり覚えていることもあるけれど、順番がはっきりしない。現実なのかどうかもわからない。ただひたすら、いやらしくて、気持ちよくて、すごく悪いことをしているみたいだった。  ……リサの、甘酸っぱくてたゆたゆのおっぱいにキスしたり、頬ずりしたまま……リサが手で、おれの……あれを、こすったり、つまんだり、して……。 「うああ……ああっ」  シーツに顔を押し付けてわめく。消えてなくなりたかった。よりによって自分のあれを、それも硬くなって熱くなったところを、好きな女の先生に、手で触らせたなんて。  恥ずかしさで体がねじれそうで――。  でも、リサはそこを汚いとか変だって言わなかった。  背中をさすりながら、パンツの上から大事に大事に、誉めるみたいに触ってきた。リサの指に触られると、足が溶けてなくなるみたいだった。ちんちんがどこまでも伸びて皮が剥けていくみたいになって、意味がわからないぐらいどんどん気持ちよくなって、それでもリサはやめなくて――「先生ね、これから水谷がどうなるか、知ってる」。それでもう、どうしようもなくなって、リサに抱きついて、全部してもらった。悪いことなのに。 「ふっふっ……ん、んう、ん」  塔夜はうつろな目で記憶を反芻しながら、グッグッと股間の硬さをシーツにねじ込んで、腰をせわしなくもぞつかせる。意味はわからないけれど、その硬いものを、ベッドでもなんでも、柔らかい場所に潜りこませなければ気がすまなかった。  ……恋人なんだから、おれもリサに何かしなきゃいけなかったのに……何もできなくて、膝枕でおっぱい吸わされて。悔しいけど、それがすごくよくて、リサのおなかにもたれながらおっぱいをちゅうちゅうしていたら、下、脱がされて、素手で直接にぎられて……。 「ん、くふっ……」  想像の進展にあわせて、塔夜は尺取虫のように腰を浮かせてショートパンツを膝まで下げながら、ごろりと仰向けになる。ただし枕をかぶったままで。片腕で枕をぎゅっと顔に押し付け、真っ赤になった顔をしっかりと隠して。  枕に押し付けた唇を動かして、思い出の乳房を吸いたてる。  そうしながら、理砂にしてもらったとおりに股間をまさぐろうとした。そんなことは初めてで、ぎこちなくなったけれど、できるだけ理砂の指がふれたとおりに、つまみ、揉み、しごいた。  指の輪をからめて中身をそっとしぼりあげるみたいに、弱く速く真上に向かって、くいくいと手首を――。 「うっうっ……ンンッ……!」  最後の瞬間は、記憶の中の興奮と現在の気持ちよさが混ざり合い燃え上がって、また何もかもわからなくなった。完全に甘えて抱きついて触ってもらっているつもりのまま、逆さまのエレベーターのロープがプツンと切れて、空へ向かってすうーっと落ちていくような感覚に身を任せた。  ショートパンツを半脱ぎにして、勃起しきった性器を天井へ向かってしごきたてていた少年が、枕をつかむ指にぎゅっと力をこめた。――次の瞬間にはぞくぞくっと鳥肌を立てて、ぐっと強く太腿をすり合わせながら勢いよく射精した。 「ん……ッ! くぅ……ッ!」  ぐい、ぐい、と枕に爪を立てて声を殺しながら、ひと呼吸ごとにたっぷりとした白濁の筋を、びゅるっ、びゅるっと打ち上げる。空中で塊になった液の筋が、薄い腹の上に、シーツのひだの谷間に、窓にかかった柄入りのカーテンに、ところかまわず飛び散った。  スナック菓子と洗う前の体操服の匂いに満ちていた子供部屋に、青臭い粘液の匂いが漂った。 「……っ、……」  塔夜はしばらく、放心していた。それからどさりと枕を横へ投げて、酸欠で真っ赤になった顔で、はあはあとあえいだ。指先まで焼き尽くした快感の閃光が、引き潮みたいに消えていって、忘れていた罪悪感と情けなさが一気に襲ってきた。  ……何言ってたんだろ、おれ……。  一時間前にそれをしたときは、上気した理砂のきれいな顔が目の前にあって、何か舞い上がって浮かれてべらべら口走った。いま思い出したら顔から火が出そうだ。先生のおっぱい吸って、赤ちゃんみたいに汁を漏らして拭いてもらって……あんなの、絶対大人のすることじゃない。あんなので恋人扱いしてもらったなんて、情けなさすぎる……。  ――「水谷のならなんでも、汚くないっ」って。それって、どういう。それって、なんだか……。 「くそっ、くそくそっ」  わけもなく涙が出て、塔夜は腕でごしごし顔をぬぐった。  それからふうと息を吐いて、体を起こそうとした。 「……うげっ」  そこで目に入るベッドの惨状。自分はこんなにリサを汚したんだ、と証拠を突きつけられたような気分になった。 「先生、ごめん……」  さらに輪をかけて情けなくなり、塔夜はどんよりとあたりを拭き始めた。    家に着くまでに二度路肩で車を止めた。そのたびに何もせずに発車したのは、そんなところで何をしているのか、人に聞かれたら死ぬしかないと思ったから。  結局、少し遠回りをしてまで、初めてのコンビニに入った。駐車場の一番暗いところに車を止めて、じっくり気を落ち着かせようとした。店で甘いものでも買おうかと一度車から降りかけたけれど、はっと気づいてあわてて止めた。二度も男の子と抱き合ったしるしが、きっと自分のどこかに残ってると思ったのだ。ましてこんな湿っぽい日なら、絶対匂いがしているはず。  におい。異性の、きれいな男の子のにおい。髪の匂い、シャツの匂い。思い出すだけでも、胸が苦しくなる。  この車には――自分は――さっき本当に、教え子の男の子と、してしまって――。  薄い本ではない、児童に手を出したという現実がのしかかってきた。 「……あああ」  長い髪に片手の指を突っこみ、ハンドルに突っ伏してしまった。 「水谷、ごめんよぉ……」  理砂はしばらくそうやって、落ち込んでいた。  やがて、むくりと起き上がった。その顔は苦悩にしかめられているけれど、ある種の決意も浮かんでいる。  運転席から降りて、すぐに後席に入った。ガチャリとドアをロックする。  それから足元においてある小さなプラスチックのゴミ箱を抱え上げて、蓋をあけた。  いつもはレシートや紙パックなどを捨てているその箱は、今朝たまたま内袋のコンビニ袋を入れ替えたばかりだった。白いくしゃくしゃしたポリエチレンの中に、丸めたキャラタオルが一枚。  それをそっと手にとって、箱を足元に置いた。  窓から外を見る。仕事を終えたトラックから男たちが店に入っていく。ジャージの若夫婦がワンボックスに乗って出て行った。閉まっていくドアからポップスが流れている。  手元に目を戻す。広げてよく見る。暗くてよくわからない。吸い取られちゃったのかな――と布をいっぱいに開くと、親指にぬるりと冷たいものが触れた。  ぞくんっ、と脚のすねを前席にぶつけるほど、震えてしまった。  うっすらと、ううん、濃厚に、匂いが漂ってくる。青臭い栗の花の。指を広げる。ねっとりとダマになった白濁液がまとわりついている。きゅーっと胸が苦しくなって、歓喜とおぞましさが渦巻いた。ああ本物だ、あたしは本物の変態だ。 「水谷の……せいし……」  瞳を潤ませながら、目を閉じてゆっくりと嗅ぎ、ためらいながら楽しい気分で自問自答した。やれる? 舐められる? 教師なのに。おちんちんから出たもの、口で? あんなに可愛い男の子が精通してくれれたのに? もう死ぬまでこんなことないし、どこだって誰だってこんなことできない。  やってはいけない理由が百もあって、やるしかない理由も百あった。そんなぐちゃぐちゃの頭の中でも、水谷ならいいやという、さっき見つけたばかりの気持ちだけはちっとも濁らず純粋で、あの子にこれを出してもらったんだから他の何がどうなったって構わない、もうこれだけで死んでもいい、という覚悟ができあがった。 「んっふ……」   唇を押し当てた。  ちゅるりと吸い取る。たっぷりと、ひとさじ分ほどもあって、いやしい、汚らわしい、という思いにあごが一瞬こわばってしまったけれど、(リサっ……)水谷の泣きそうな顔を思い出すとどんなこだわりも溶けた。あの子これから何人と付き合うのかな。赤ちゃん作るのかな。わからないけど、その最初の一滴がこれなんだよ。この味……ぬとぬとして、少ししょっぱくて、歯にキシキシひっかかる味、あたしに知られちゃったよ。  タオルを四角く丁寧に畳んで、鼻にかぶせて、香を聞くように深々と深呼吸しながら、うわあ……と内心で理砂は繰り返していた。あたし最低、最悪、変質者すぎてすごい。  でも、いい匂い……。 「……はあっ……」  肺が焼けるほど甘い精液の香りに、理砂は酔い果てて吐息をこぼした。  シャツの裾から手を入れて、いつも教職の邪魔だと感じている重ったるい胸を撫で回す。さっき水谷にいっぱい舐めてもらったおっぱい。腰のホックを外して、タイトスカートの腹からストッキングとショーツに包まれた湿った狭い股間に片手を潜りこませる。さっき水谷に触ってもらえなかったあそこ。  背もたれにゆったりと体を預けた姿勢で、ジンジンうずく股間の谷間にずっぷりと指三本を沈める。前席のヘッドレストの向こうでコンビニが明るい。光が当たらないように尻を前へずらして、顔を闇に隠した。 「水谷……ん……」  そのままずるずると横倒しになって至福の中でオナり続け、二度絶頂して十一時過ぎに家へ帰った。  翌朝。  メガホン片手に挨拶当番で校門に立っていた女教師と、雨上がりの水溜りを飛び越えて駆けてきたランドセルの男子が、目を合わせるなり声を掛け合う。 「み、水谷。おはよっ!」 「うっせーババア朝からボサッと突っ立ってんな!」 「ば、ババア? ここで新型?」  それまで浴びせられたことのなかった罵声に理砂はショックを受けたが、下を向いて近づいた塔夜が早口で言った。 「隠すんだろ、リサ」 「水谷ぃ……!」  きゅん、と胸をやられる桜庭理砂二十六歳。うなずいて小声で返した。 「そうだよ、絶対秘密。――誰がババァだこの生意気児童様! さっさと教室いって朝の会の準備!」 「なげーよ、クソガキでいいんじゃね?」  駆け抜けた塔夜が、少し先で振り向いて、ちらちらっと周りを確かめた。他の児童はちょっと先か、もっと後。  ニコッ、と朝の光みたいな笑顔を見せた。  発作的に理砂はメガホンを口に当てて叫んでいる。 「もう、大好きー!」  そこらじゅうのみんなが振り向く中で、真っ赤な塔夜が全力疾走逃げていく。   (おわり) 2014/05/15