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陽暦6月から7月、アザミに似た鮮黄色の花をつけ、やがて紅に色を深めてゆく。この小花を摘んで臙脂を作り、紅色の原料とした。
『古今集』 題しらず よみ人しらず
人しれず思へば苦し
紅 の末摘花 の色にいでなむ
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源氏物語にこの名で呼ばれた女性は、常陸宮の「末(晩年)」にもうけた娘で、父から大層可愛がられたが、父の死後はひっそりと里住いし、琴など弾いて暮らしていた。そんな境遇に関心を持った光源氏は、親友の頭中将と競い合った末に思いを遂げる。久方ぶりの情事の翌朝、雪の光に照らされた姫の顔を初めて目にし、「普賢菩薩の乗物」すなわち象のように垂れた鼻が赤らんでいるのに驚き呆れる。
『源氏物語・末摘花』
なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖にふれけむ
後日、光源氏が末摘花からの手紙の端に悪戯書きした歌。「慕わしい色というのでもないのに、なぜにこの末摘花を袖に触れてしまったのだろうか」。鼻先が紅い故宮の末娘を「末摘花」と綽名してたわむれたのである。
文字通り一朝にして醒めた恋であったが、世慣れしない姫の風情を源氏はむしろ好ましく思い、また心細い身の上を哀れと思って、世話をすることに心を決めたのだった。
光源氏盛春の忘れがたい一エピソードである。
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『万葉集』巻十(寄花) 作者未詳
よそのみに見つつ恋ひなむくれなゐの末摘花の色に出でずとも
『万葉集』巻十一(寄譬喩) 作者未詳
紅の
『拾遺集』(題しらず) よみ人しらず
紅のやしほの衣かくしあらば思ひそめずぞあるべかりける
『式子内親王集』(恋)
わが袖の濡るるばかりはつつみしに末摘花はいかさまにせむ
『新撰和歌六帖』(くれなゐ) 藤原為家
くれなゐの末咲く花の色深くうつるばかりも摘み知らせばや
『大江戸倭歌集』(紅花) 小池言足
紅の末摘花のすゑはまた誰がよそほひの色をそふらむ
公開日:平成22年08月05日
最終更新日:平成22年08月05日