7.地球温暖化の話(講演)
著者:近藤純正
	7.1 問題の起こり
	7.2 地球の温度の決まり方
	7.3 温室効果とは?
	7.4 気温は上昇しているか?
	7.5 難しい問題点・未熟な科学
	7.6 温暖化がなぜ問題か?
	要約
	文献
トップページへ 身近な気象の目次 次へ



人間の活動が盛んになり、石油・石炭などの消費により大量の二酸化炭素 が排出されるようになってきました。その結果、地球の気候が温暖化し、 異常気象と災害の頻発が心配されています。「地球の温暖化」はなぜ 起きるのか、その仕組みについて学ぶことにしましょう。

これは2004年9月18日、高知市で一般向けに講演した 内容に補足したものです。 また、本ホームページの 「1.地球温暖化と都市気候」の章も参考になります。さらに、日本の 温暖化の実態についてのまとめは「M42.正しく知ろう 地球温暖化(講演)」に掲載してあります。

7.1 問題の起こり

大気中の二酸化炭素(CO2:炭酸ガス)の濃度が増加すると、地球の気温が 上昇するだろうということはかなり以前から言われていましたが、 1956年のこと、プラスという学者が、大気中の二酸化炭素が2倍になると 地球上の平均気温は3.8℃上昇すると発表しました。これは具体的な数値 でありますので、この問題に関心が高まってきました。

さて、ハワイ諸島には西からカウアイ島、オアフ島、モロカイ島、マウイ島、 そして東の端には一番大きなハワイ島が並んでいます。ハワイ島は地図では 小さく見えますが、四国の55%ほどの面積でありながら、マウナケア (標高4206m)とマウナロア(標高4171m)がそびえています。 北側のマウナケアには有名な天体観測所があります。 山頂は空気が澄んでいて観測に向いており、世界の天体観測所が集まり、 日本の「スバル天体観測所」もあります。 最近は観光ツアーも行なわれているそうです。

他方、南側のマウナロアの中腹、標高3400mのところにはアメリカ 海洋大気局の観測所があります。私は20数年前に、この観測所に行った ことがあります。ここでは、大気中の二酸化炭素(CO2) 濃度の測定が昭和33(1958)年から開始されました。 この観測は米国人化学者チャールズ・キーリング博士の提唱によるものです。 石油や石炭などの消費が急激に進んだ20世紀前半には、大気中のCO2の 増大が心配されだしたので、それを実証するための十分なデータを蓄積 しなければなりません。CO2濃度を正確に知るには、人間活動から遠く 離れた場所で観測を続ける必要があり、マウナロアが選ばれたのです。

マウナロアで観測されたCO2濃度
図7.1 ハワイ島マウナロアで観測された二酸化炭素濃度の年々変化 (キーリングによる観測)。(近藤純正著 「身近な気象の科学」(東京大学出版会)、図1.5、より転載)

図7.1の観測記録を見ると、CO2濃度は冬にやや上昇し、 夏にやや下降する季節パターンを繰り返しながら、全体として着々と 増大していることが分かり、世界中の学者から大きな注目が 集まりました。地球温暖化の話題は最近では、一般の人々にも広まって きました。

日本上空のCO2濃度
図7.2 日本上空における二酸化炭素濃度の年々変動(Nakazawa et al., 1993, に加筆、中澤高清教授のご好意による)。 (近藤純正著「地表面に近い大気の科学」(東京大学 出版会)、図7.3、より転載)

東北大学では民間の航空機定期便に測器を積み込んで、地上から上空までの 二酸化炭素の濃度を定期的に測っています。私の主な研究テーマは太陽 エネルギー、大気放射、地面と大気の間で交換される熱エネルギーや 水蒸気の流れを調べることが主でして、二酸化炭素の観測を担当したことは ありませんが、現在では中澤高清教授が中心となり観測を継続しています。 図7.2を見ても、二酸化炭素は上空でも確実に増加していることが わかります。

いまでは世界の主要な地点で大気中の二酸化炭素の濃度が観測される ようになりました。南極では太古の昔から積もった雪が圧縮されて、 氷の大陸を形成しています。その氷の中には、昔の大気中に含まれていた 二酸化炭素が閉じ込められています。ボーリングをして氷の中に閉じ 込められている二酸化炭素を測り、過去の大気中の濃度を調べることも 行なわれています。その結果と比較すると、現在の大気中の二酸化炭素濃度 は、過去の何十万年間に起きた変動幅をはるかに上回り、急速に増加して います。

地球は太陽からのエネルギーを受け、一部を反射することによって、 温度は地球上の平均で−19℃に保たれることになります。大気は主に 窒素と酸素から成りますが、水蒸気、二酸化炭素などの少量気体も含みます。 水蒸気や二酸化炭素などは赤外線(目には見えない)を吸収し同時に射出 する性質があります。これら少量気体の働きにより、地球の表面近くは −19℃より高温の15℃前後に保たれることになります。この作用は、 温室(ビニールハウスやガラス張りの温室)内が高温になることに 似ていることから「温室効果」と呼ばれています。

水蒸気や二酸化炭素が存在することで、地球上の 動植物にとって適度な「現在の気候」がつくられているのです。 ところが二酸化炭素が増えすぎると、温室効果が効き過ぎて、地表面付近の 温度が現在よりも上昇してしまいます。これが 「地球の温暖化」なのです。地球の温暖化は 極地方で顕著に現われると考えられています。

温暖化が急速に進むことが問題です。それに対する私たちの対応や順応が 困難だと見込まれるからです。

7.2 地球の温度の決まり方

「温室効果」や「地球の温暖化」の問題を理解する前に、現在の地球の 温度はどのようにして決まっているか、学んでおきましょう。

地球は太陽から受けるエネルギーの大きさによって、その温度が決まります。 太陽光線に垂直な面積1平方メートルにつき1360ワットのエネルギーが 地球に注がれています。もし、地球が回転せず大気も動かずに、 同じ昼半球が太陽の方に向いたままだとすれば、太陽直下の地域は 120℃になります。また、夜半球に近い地域は太陽光線が斜めに入るので 受け取るエネルギーは少なく低温になります。昼半球を平均すると58℃に なります。いっぽう、夜半球は限りなく低温に近づいていきます(図7.3)。

静止地球の場合の地球の温度
図7.3 地球の同じ半球が太陽の方向に向いたままだと仮定したときの地球の 温度の説明図。

今度は地球が自転する場合を考えてみましょう。地球には大気があり、 熱的な慣性をもっていて、夜になっても急速には冷えないので、仮に昼夜の 温度が一定として計算してみます。最初に、地球が黒くて、太陽エネルギー を反射しないとします。つまり、1平方メートル当たり340ワット (地球全表面積の平均値=1360ワット÷4)を受け取る場合を 想定します。公式によれば、球の表面積は断面積の4倍であることか ら、1360を4で割り算して340ワットが出てきました。

地球が全球面の平均値で340ワットを受け取る場合、「平衡になる地球の温度」 は5℃になります。

今度は現実の地球を考えてみましょう。地球上には雲があり、 また氷で覆われた地域や砂漠などがあり、太陽エネルギーの30%は 反射されています。したがって残りの70%が地球に取り込まれています。 すると、地球の昼夜・全面積で平均すると1平方メートル当たり238ワット (=340×0.7)のエネルギーを取り込んでいることになります。

1平方メートル当たり太陽エネルギーが平均238ワット注がれていれば、 「平衡になる地球の温度」は−19℃ となります(図7.4)。この値は大気と地球表面 を平均した温度を意味しています。宇宙から地球を観測すると、 実際に−19℃が得られます。

太陽エネルギーの30%を反射する地球の温度
図7.4 太陽エネルギーの30%を反射する場合の地球の温度の説明図。

上述の「平衡になる地球の温度」のことを説明しておきましょう。 地球は太陽エネルギーを受けると温度が上昇していきますが、地球自体は その温度に応じた赤外放射を宇宙に向かって放出します。地球から238 ワットを放出すれば平衡になるわけで、その温度が−19℃というわけです。 赤外放射量は温度が−19℃なら238ワット、5℃なら340ワット、 20℃なら419ワット、120℃なら1360ワット放出します。

赤外放射は目に見えないので、普段は感じないのです。皆さんも体温に 応じて赤外放射を出しています。また、部屋の壁からも赤外放射が私たちに 向かって出ています。そのため、差引きゼロに近いので私たちは体感的には 気付きません。

7.3 温室効果とは?

地球の表面と大気を含む地球の温度は−19℃ですが、実際の地表面付近の 温度はこの値よりも高温になっており、逆に上空の大気は非常に低温と なっています。これは「温室効果」によるためです。

みなさん、温室を想像してください。温室はガラスやビニールで覆われて います。そのため、太陽エネルギーは透過して温室内へ入ってきます。 しかし、ガラスやビニールは赤外放射を透過しないので、地面から出た 赤外放射は温室の外へは出て行かず吸収されてしまいます。同時にガラスや ビニールからは赤外放射を地面に向かって出しています。その結果、 温室内は高温に保たれているわけです。

なお、温室では外の冷たい風を中に入れないという風防作用も重要 です。

大気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素は、温室のガラスやビニールに似た働きを するために、地球の表面近くの温度は高温に、逆に上空の 大気は低温に保たれます。この働きを 「温室効果」と呼んでいます。

「温室」と「地球」の対応関係を整理してみましょう。
○温室が高温になる理由:
(1)ビニールやガラス板は太陽放射を透過 するが、(2)温室内から出る赤外放射(長波放射:目には見えない)を 吸収し、外へ出るのを防ぐ。
(3)ビニールやガラス板は、その温度に 応じた赤外放射(長波放射)を出し温室内を温める。
(4)風防効果により、風を防ぎ冷気を入れない。

○地球の表面付近が高温になる理由:
(1)大気は太陽放射量の大部分を透過する。 (2)大気中の水蒸気、二酸化炭素などは 地表面から出る赤外放射(長波放射)を吸収する。
(3)同時に、水蒸気、二酸化炭素などは 地表面に向かって赤外放射(長波放射)を出し、地表面を温める。

現実の大気による温室効果の正確な計算は複雑になりますので、単純な モデルについて計算してみます。結果は図7.5に示してあります。このモデルでは、 大気は太陽エネルギーを完全に透過し、赤外放射(長波放射)を90%吸収、 残りの10%を透過するとした場合です。この場合には地表面温度は22℃、 大気の温度は−25℃で平衡となります。

10%透過の場合の温室効果
図7.5 大気が赤外放射を10%透過する場合の温室効果の説明、地表面温度= 22℃、大気の温度=−25℃となる。

この場合、図に示すように、 地球に入る太陽エネルギーは面積平均値で238ワット。いっぽう赤外放射 として宇宙へ出ていくエネルギーも238ワット(=195+43)です。 ちょうど収支量が等しくなっており平衡状態が保たれることになります。

温室効果は大気中の水蒸気や二酸化炭素などが赤外放射 を吸収し、同時に赤外放射を射出する性質によって起きるのです

大気成分の割合
図7.6 大気成分の割合、大部分は窒素と酸素から成る。

大気の成分は主に窒素と酸素から成りたち、少量気体の水蒸気は 0.5%程度、二酸化炭素はさらに少なく0.03〜0.04%ほどしか含まれて いません。そのほか、オゾン、メタン、フロン、亜酸化窒素など極微量 の気体によって温室効果が起きているのです。われわれ地球に住む 動物植物にとって、温室効果はなくてはならぬものなのです。

温室効果がまったく無いとすると地球の平均気温は、上述した値−19℃と なるのです。 現在の地球の気候は温室効果によるものです。近年、問題となっているのは、 人間の活動で二酸化炭素などが急激に増えており、温室効果が強くなり 過ぎて地球の気候が変わってしまうことが心配です。

温室効果を生む気体は、人間に例えれば薬のようなもので、適量ならば 健康を維持できるのですが、多量に服用すると体調異常となり、死んで しまう場合もありますね。

7.4 気温は上昇しているか?

大気中の二酸化炭素の濃度は確実に増加しています。そのため「温室効果」 が強まるのですが、地球の気象・気候は単純ではないのです。 気温が上昇すると、水蒸気量も増え、ますます温室効果が強くなり 温暖化が進みます。また、温暖化によって極地方を覆う氷や雪が減少すると、 太陽光の吸収量が増え、地球はますます温暖化してしまいます。

一方、対流活動が盛んになり雲が多くなると 太陽エネルギーは反射されて地球に取り込まれる分が減少し、地球の 温度は低下することになります。

これは一例ですが、そのほか、砂漠の拡大、都市の密集化、 海洋汚染、森林生態系の変化、等々の問題もあります。温暖化は地球上で 一様に起きるのではなく、顕著に現われる地域や、一部では逆に低温化の 地域も出てくるかもしれません。そこで最初に世界の地上気温の平均値から 見ていきましょう。

世界の平均地上気温の経年変化
図7.7 世界の平均地上気温の経年変化。(気象庁資料)

図7.7は世界の平均地上気温の変化を示しています。この100年余の間、 10〜40年の変動を含みながら、全体として約0.8℃の上昇傾向が現われて います。

気象観測所の多くは都市にあり、図7.7には都市化の 影響も含まれているのかも知れません。この図は気象庁が2003年2月4日に 発表し気象庁のホームページ
http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/index.html
の中に掲載されている
「2002年の世界と日本の年平均地上気温の平年差について」
の図1から引用したものです。 平年差とは平均気温から平年値を差し引いた値(平年偏差)です。 平年値としては1971〜2000年の30年平均値を使用しています。

世界の年平均地上気温の平年差は、気象庁に入電した月気候気象通報の 約1200地点のデータを使用しています。

そのうち日本の気象観測所については都市化の影響が少ないだろうと見なされ、 さらに特定の地域に偏らないように選定された17地点(網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、 長野、水戸、飯田、銚子、境、浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬、石垣島) が使用されています。 東京における年平均気温の変化傾向
図7.8 東京における年平均気温の変化傾向、赤の線は長期的傾向。

図7.8は東京における年平均気温の変化を示したもので、この100年間に 約3℃も上昇しています。この上昇は主として、東京の都市化による ものと見なされます。都市化のうち、最重要と考えられるものは、 次の2つです。

(1) 人為的な熱の排出量の増加による昇温
(2) コンクリートやアスファルト舗装に伴う蒸発量の減少による昇温

私たちがエネルギーを多量に消費し熱の排出が増加すれば、大気の温度が 上昇します。 東京都心での人工熱は、地表面に入る太陽エネルギーの年平均値 (1平方メートル当たり約130ワット)に匹敵するほどの大きさになって います。また、森林、草地(田畑)、あるいは水面であれば蒸発が盛ん ですが、これらがなくなると高温になります。蒸発がなくなると、 それまで蒸発のために使われていたエネルギー(東京近辺では、 1平方メートル当たり約90ワット)は地表面温度と気温を上げることに なります。

エネルギーを排出する地域の面積が狭ければ、熱は風で拡散され、 気温上昇は小さいのです。ところが東京・首都圏では人口の密集地域が 拡大してきましたので、気温の上昇が顕著に現われるようになって きました。

この話は高知市で行なっていますので、高知の資料も見ておきましょう。

高知の地上気温
図7.9 高知における年平均気温の経年変化。

図7.9は高知における年平均気温を示しています。高知市は太平洋戦争のとき 空襲で焼けましたが、終戦(1945年、昭和20年)のあとは復興し、住宅も 増えてきました。1950年ころ年平均気温は急上昇しています。1980年代以後 から現在にかけて気温上昇は大きくなっています。これら上昇のかなりの 部分は都市化の影響とみなされます。明治時代や昭和初期 に比べて年平均気温は約1.5℃高くなっており、東京における上昇量の 約50%です。

高知地方気象台は1882(明治15)年に現在の高知市若松町に「高知県高知 測候所」として創立されました。のち、1888(明治21)年〜1939(昭和14)年 の期間は高知城の二の丸にありましたが、1940(昭和15)年1月1日から 南比島町に移転しています。

以前の南比島町は、周辺には水田・畑もありました。 戦後は時代とともに周辺環境は変化し、数年前までは観測所の周りは住宅が 密集していました。ごく最近の1〜2年は古い住宅地は取り壊され再開発が 始まり新しい住宅と住宅内道路の整備が進められています。

写真によって説明しておきましょう。

高知城の遠景
図7.10 高知県立追手前高校の屋上から眺めた高知城。

高知市街部は大きなビルが立ち並ぶようになり、高知城も見え難くなり ました。城の追手門から東のほうにある高知県立追手前高校(元の 県立高知一中、県立高知城東中学校:私の母校)の屋上から眺めた写真が 図7.10です。天守閣の右手(北側)に高知測候所跡があります。

二の丸への階段からの測候所跡
図7.11 高知城二の丸への階段から眺めた測候所跡(白い建物)。

追手門をくぐり、杉の段にある「山内一豊の妻像」の脇、さらに三の丸を 経て、二の丸直下の階段から右手上方に白いコンクリート建てが見えます。 これが測候所として使われていた建物です。ここには史跡・測候所跡を説明 する案内板が欲しいところです。

日中には測候所跡の建物の南側に並んで、はでに飲食物を宣伝した屋台の売店 2つが並んでいました。国宝(現在の呼び名は重要文化財)の高知城 天守閣を眺める二の丸に、はでな売店は似つかないと思いました。 そこで翌朝早く、売店が設営される前にふたたび二の丸に登り写真撮影を しました。

二の丸の測候所跡
図7.12 二の丸の測候所跡(白い建物、その奥の左手は高知公園管理事務所)。

図7.12は二の丸の広場から測候所跡を写したものです。松の木に囲まれた 白い測候所跡の建物と、奥の左手に高知公園管理事務所がかすかに見えます。 写真外の右手後方に天守閣がそびえています。

次に、現在の高知地方気象台の観測露場のある比島町一丁目に行くと、 昔周辺にあった住宅地はなくなっており、整備・再開発中の新しい住宅地が できつつありました。観測露場の南側ではブルトーザーで作業が行なわれて いました。 尋ねると、小公園を新しく作っているとのことです。碁盤の目のような舗装 道路も整備されていました。

高知地方気象台観測露場
図7.13 高知地方気象台観測露場、右に見える大きな電柱から向こうが 露場の敷地、その手前が小公園に整備中(2004年9月20日撮影)。

多くの気象台・測候所の周辺では、大なり小なり、都市化が進んでいる だろうという印象を強く受けました。 そこで、こんどは都市化の影響のない室戸岬測候所のデータを調べる ことにしました。

室戸岬の地上気温
図7.14 高知県室戸岬における年平均気温の経年変化(黒丸印)。 1900〜1929年期間にプロットした破線付きの小さい四角印は (高知の気温+0.7℃)である。

図7.14は室戸岬測候所における年平均気温を示しています。室戸岬では1903年 から2年余の観測資料がありましたが、その後休止し、1921年に再開される までデータがありません。1902、1903年の貴重な資料も活用したいので、 欠測期間およびその前後の30年間については高知における年平均気温に 0.7℃を加えた値を小さい四角印でプロットしてあります。これらプロットを 参考にして長期的な傾向を赤線で描きました。

室戸岬測候所では東京や高知で見られたような一方的な気温上昇の傾向は 明瞭ではありません。長期的には、むしろ40〜50年程度の周期で 上昇・下降を繰り返しているように見えます。

7.5 難しい問題点・未熟な科学

二酸化炭素の増加にともなって、地球の地上気温の上昇が予想されるので、 その兆候を見出したいのです。 しかし正直なところ、前節でみたように気温の観測資料からはCO2増加に 伴なう温暖化の兆候は必ずしも明瞭ではありません。これが「難しい 問題点」なのです。

○温度変動の原因

(1)自然の変動
(2)人為的な原因による変動(二酸化炭素の増加、都市化)

人為的な原因のうち、都市化による都市の温暖化と、 温室効果による地球の温暖化はそれぞれ異なる原因によるものです。 観測データから、これらを区別することは難しい問題です。

将来、地球の温暖化が進むと都市では両方が重なりあって、異常な 温暖気候となるでしょう。すると、冷房に使うエネルギーが増え、 温暖化がますます進むという 悪循環が起きることになります。

○プラスのフィードバック

二酸化炭素の増加によって(1)温暖化が起き気温が高くなると、 (2)大気中に含まれる水蒸気量が増えます。(2)水蒸気は温室効果が 強いので、温室効果が強化されます。(3)その結果、より温暖化が進み ます。この過程が繰り返されると(4)ますます温暖化します。これを 暴走温室効果と呼んでいます。

二酸化炭素の増加によって(1)温暖化すると高緯度や高山にある氷雪域 の面積が縮小します。すると、(2)地球全体として、太陽光の吸収量が 増加する。(3)その結果、より温暖化、(4)ますます温暖化します。 これも暴走温室効果です。

○マイナスのフィードバック

二酸化炭素の増加によって(1)温暖化すると対流活動が盛んになり 雲量が増加する。(2)太陽光が反射され、地球に入るエネルギーが減少 する。(3)その結果、寒冷化して温度の上昇は抑えられる。

●科学は未熟

一例を示しましたが、フィードバックのうち、プラスの作用とマイナス の作用の効き方は現在のところ正確にはわかっていません。そのため将来、 温暖化によって地球の温度がいくら上昇するのか、正しく予測できません。 とくに注意すべきは、海洋は地球の気候変動を決めるのに重要な働きを するのですが、その応答に約1000年の時間がかかるのです。

私が注意したい点は、この話の最初にも紹介したことですが、約半世紀前に プラスという学者が「地球大気中の二酸化炭素が2倍に増えると地球の 地面付近の平均気温は3.8℃上昇する」と予測しました。ところが、現在の ように格段に進歩したコンピューターを使って詳細な計算を行なっても、 プラス氏の予測と大差のない結果が得られています。つまり、最近の 多くの計算結果は3〜7℃程度の範囲内にあります。

これはプラス氏の予測が正しかったとも言えるのですが、他方、そのとき以来、 科学・気象学は本質的なところで、まだ進歩していないとも言えます。 つまり、気候予測はたいへん難しい問題です。大気中で起きる重要な 事柄に気付いていない可能性がありそうです。正しい予測を行なうには、 人間の頭脳による思考と優れた観測・実験・分析に期待しなければ ならないと思います。

多くの科学者の弱点は、以前に発表された結果と 著しく違った結果が得られたとき発表を控える傾向があることです。 そして、すでに常識となっている結果に合わせがちです。 最大限の注意を払って得た結果は自信をもって発表すること。そして、 他の研究者はそれを一方的に拒否せず、十分な討論を行なうことが重要で しょう。

話が脱線しましたので、もとに戻りましょう。
さて、気候変化が正しく説明・予測できるまで対策をしなくて よいのでしょうか? しかし、取り返しのつかない事態になる前に、 手遅れにならぬよう対策をとっておくことが重要 です。

7.6 温暖化がなぜ問題か?

地球の温暖化によって、どういうことが起きるのでしょうか?

皆さんの発言:
「氷が融けて低地が水没・・・・・。」「台風の頻発・・・・・。」 「病気の発生・・・・・。」「生態系・・・・・。」

その通りですね。まとめておきましょう。
○海水面の上昇: 水温上昇によって海水が膨張します。そのため数10cm から数mの海水面上昇が予測されます。さらに極地などの氷融解が起きると 数10mの海水面上昇が予想されます。

○水資源量の変化: 降水量が変化し、洪水地域と干ばつ地域が広がるかも 知れません。その結果、穀物生産への影響が予想されます。

○異常気象の頻発: 集中豪雨や熱暑日の増加、台風の発生数の変化など が考えられます。

○植物の高温障害: コメなどは低温による冷害が知られていますが、 気温が高すぎても障害が起こり、収穫量・品質が低下すると言われて います。

○病気の発生: これまで熱帯で発生していたマラリアなどの感染が拡大、 夏の熱中症の増加などか考えられます。

○生態系の変化: 気候変化によって、ある種の生物は絶滅するかも知れま せん。地球上では食物連鎖によって生態系が保たれているのですが、これに 影響が及ぶと、食糧・生存の危機となるかもしれません。

地球の温暖化は、二酸化炭素の排出量の増加によって起きるのです。 二酸化炭素の増加は、結局は私たちが贅沢な消費を増やしたことから 生じたのです。石油・石炭の直接的な消費のほかに、いろいろな物・設備 などを作るのにエネルギーが使われていますので、まだ使える物を捨てて、 新製品を購入することも私たちはエネルギー・地球の資源を消費している ことになります。

これまでの狭い意味の経済性、つまり少数の人々の利益のみを追求する 経済ではなくて、社会全体として人々の公平さが保たれ、 さらに自然の景観や環境の維持も含めた総合的な経済性を考えたもの でなければなりません。 これは政治家に任せておけるでしょうか。政治献金と称する大金を貰って、 少数の人の利益を追求するために働いている政治家もいるかも知れません。

いまNHK大河ドラマで「新撰組」が上映されていますね。明治維新前、 黒船が日本にきて、どうするか大変なときでした。そんなとき各藩は 自分の藩のことを、幕府は体制維持のことを考えていました。 土佐・高知の坂本竜馬は、そういうことではいけ ないと、しがらみに捕らわれることなく日本の将来を考えて行動しました。

現在の政治家の中には党利党略、私利私欲、特定の業界のことだけを考える 人がいるかもしれません。竜馬の思想を現代に当てはめれば、 私たちは地球の将来を考えて行動しなければなりません。 現代の「地球温暖化」の問題から、私は明治維新前の「黒船の来航」の時代 のことを連想しました。

今後の私たちの暮らし方を選ぶために参考となる数値を示しておきましょう。
昔に比べて私たちのエネルギー消費がいかに大きくなったのでしょうか。

私たちは生きるために、1日に約2000キロカロリーの食物を摂らねばなり ません。この熱量は換算すると約100ワットです。このエネルギーは、 最終的に人体から周囲の大気へ放出することによって体温がほぼ一定に 保たれています。つまり、昼夜平均して人体は100 ワットのエネルギーを放出しています(図7.15)。この放出エネルギーは、 皮膚から汗を出す際に失われるエネルギーと、周囲に伝えて空気を温める 熱エネルギーとなっています。

ヒトと馬のエネルギー比較
図7.15 ヒトと馬のエネルギーの比較。(「身近な気象の 科学」(東京大学出版会)、図17.2、より転載)

馬は人間より馬力が大きいですね。1馬力はもともと馬の馬力から出た 単位です。1馬力は746ワットですので、馬は 人間の7〜8倍の馬力があります。 具体的に表せば、1馬力は76kgのヒトが鉛直方向に毎秒 1mの速度で階段を登るときのエネルギーに相当しますので、私たちは 瞬間的には1馬力は出せそうです。

昔の貴族は2頭だて、あるいは4頭だての馬車に乗っていましたので、 数馬力の車を利用していたことになります。ところが、最近では庶民の 私たちでも自家用車に乗るようになりました。乗用車は、数十馬力〜 100馬力はあります。私たちは、いかに大きなエネルギーを使うように なったのか、おわかりかと思います。私たち、みんな大貴族です。

私たちは、みんなの努力で文明の利器を獲得し、豊かな生活ができる ようになりました。いま地球は、急激に温暖化へ向かうかどうかの分岐点に あります。環境保護を意識し、無駄を少なくした暮らし方をしようでは ありませんか。

皆さんにお尋ねします。現在より贅沢な生活をすると二酸化炭素の増加に つながります。皆さんは現在の生活レベルに満足して暮らすことができま すか? できる方は挙手願います。

皆さん、挙手されましたね。何か問題はありますか?

皆さんの発言:
「私たち戦中・戦後の貧しい時代を生きてきた者は、贅沢でない現在の 生活レベルで暮らすことはできます。しかし、問題は若い人たちです・・・・。 若い人たちには、きょうのお話を聞かせる必要があり、 教育が重要です・・・・」

私はこの発言を深く心にとどめ、きょうの「地球温暖化の話」を終える ことにいたします。

要約

以上の話のまとめをしておきましょう。
人間の活動が盛んになり、石油・石炭などの消費により大量の二酸化炭素が 大気中に排出されるようになってきました。その結果、地球の気候が 温暖化し、異常気象と災害の頻発が心配されています。「地球の温暖化」 はなぜ起きるのか、その仕組みについて勉強しました。

まず、現在の地球の温度はどのようにして 決まっているのでしょうか? 地球は太陽エネルギーを受け、一部を反射することによって、温度は 地球上の平均で−19℃に保たれることになります。

大気中には水蒸気、二酸化炭素(炭酸ガス)などがあり、これらの少量 気体は赤外線(目に見えない)を吸収し同時に射出する性質があります。 これら気体の働きにより、地球の表面近くは−19℃より高温の15℃前後に 保たれることになります。これは、温室内が高温になることに似ている ことから温室効果と呼ばれています。 水蒸気や二酸化炭素などの存在によって、地球上の動植物の生存に適度な 気候がつくられているのです。

ところが二酸化炭素の量が増えてくると温室効果が効き過ぎて、 地表面付近の温度は現在よりも上昇してしまいます。これが 地球の温暖化問題です。観測結果によると、 二酸化炭素は地球上のいたるところで増加する傾向にあり、この傾向が続くと 今世紀末には大気中の二酸化炭素の量は現在の約2倍になる見込みです。 同時に世界の気温は現在より数度も上昇すると予想されています。 温度上昇は南極・北極に近い高緯度で顕著に現われると考えられています。

温暖化が急速に進むことが問題です。極地や高山の氷河が融けると 海面が上昇し、標高の低い島や人口が密集する大都市の多くが水没 してしまうかもしれません。降水量が極端に増える地域と減少する地域が できる可能性もあります。農業不作や水資源が不足する地域も出て くるでしょう。そうして地域間の争いが起こるかもしれません。 これは人類生存の危機であります。

二酸化炭素の排出量の増加は、結局は私たちが無駄な消費を増やした ことから生じているのです。これまでの狭い意味の経済性、つまり 少数の人々の利益を求める商業的な経済ではなくて、社会全体として 人々の公平さが保たれ、自然の景観や環境保護も含めた総合的な 経済性を考えなければならないと思います。

文献

近藤純正、1987:身近な気象の科学、東京大学出版会、pp.189

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学、東京大学出版会、pp.324

Nakazawa, T., S. Morimoto, S. Aoki, and M. Tanaka, 1993: Time and space variations of the carbon isotopic ratio of tropospheric carbon dioxide over Japan. Tellus, 45B, 258-274.

トップページへ 身近な気象の目次 次へ