◆◆◆ 電脳PiCARO ◆◆◆第2弾記事

「大西洋の壁」(HJ/SPI)の楽しみ方

YSGA(現役)冷遇会員 瀬端 保


 WWIIの西部戦域作戦級ゲームといえば、「ノルマンディーの戦い」、「マーケット・ガーデン作戦]、「バルジの戦い」の3つがまず有名なテーマといってよいでしょう。
 その内の「ノルマンディーの戦い」を扱ったゲームと言われて、真っ先に想い浮かべる中には、おそらく「大西洋の壁」(以後AW)も含まれていることと思います。
 AWは常々公言しているように私の好きなゲームの内のひとつです。我が会ではAWのライバルと呼ばれている「史上最大の作戦」(AH)(以後LD)の方が人気が高いように思われるのですが、AWのもつ戦術的な雰囲気が私をソノ気にさせるのです。
 以前のGW恒例のビッグゲーム例会でも、AWのプレイを率先して主張したのは私でした。不幸にして、LDほどの盛り上がりを見せずに終えたプレイでしたので、私は何とかして再びAWの多人数プレイを実現させたいと今でも願っているのです。
 そして私は考えました。ここはひとつ、会長のマネをするしかない、と。会長のマネ、即ち南北戦争モノを普及させるために行なわれた、会を私物化しているかのように凄まじい情報の押し付け、「洗脳」です。
 この記事を書くにあたり、私は皆さんを上手に「洗脳」できるように、AWのセールスポイントについて調べ直そうと思ったのです。
 昔からAWとLDはライバルと呼ばれてきました。
 タクテクス誌61号には、AWとLDを比較した記事が掲載されています。もしも、両者にあまり詳しくない場合には一度この記事を読んでおくと良いと思います。ただし、AWの良さをアピールしたい私の読後の感想は次のようなものでした。
「こいつ(瀬戸氏)、LDのデザイナーズ・ノートに洗脳されていやがる。」(ちょっとウソ)
 さて、あらためて両者を比較することでAWの特徴をウリに変えようと考えていたのですが、ここで私は重大なことに気が付いたのです。
 両者は確かに、SPI社/AH社という二大ゲーム出版社が同時期に出版した同一テーマのゲームです。
 しかし、ちょっと待って下さい。
 あなたは「ノルマンディーの戦い」に何を求めていますか?
 「血のオマハ」の再現ですか?
 ビットマンの活躍ですか?
 ドイツ裝甲師団の反撃ですか?
 パットンの突破ですか?
 私の中では「ノルマンディーの戦い」といえば上陸から突破までがイメージされているのです。
 LDは最長、8月31日までプレイできます。一方、AWは7月1日までしかプレイできないのです!!
(WINちゃんの口調で)「な、な、何んですとっ!!」
 何を今さら、と言われてしまうかもしれませんが、私もLD=87ターン、AW=104ターンということは知っていました。いや、理解しているつもりになっていたのです。
 私のこれまでの思考は次のようなものでした。
「どっちにしても最後まで終わるわけ無いよな」
 不覚でした。「最終ターンまでプレイされることが無い」という思いが、「どちらも同じ=ライバル」に変化していったのです。
 AWについての「最終ターンまでドイツ軍は耐え切れない」という評判も「ホントかよ、でも、そんなモンだよな」という諦めのような感覚で、あえて深く考えはしなかったのです。
 しかし、史実に基づけば「ノルマンディーの戦い」は初期の一ヵ月半は膠着状態なのです。ゲームの中には、動きの少ないその期間を切り捨てて、その後の突破をテーマにしているものもあります。
 それなのに!!AWは上陸から膠着状態まっただ中の期間しか(104ターンもかかるのに)プレイできないのです。
 扱う時期もスケールも一致していないのに、後発の出版社がライバル視しているように読み取れる記述があるというだけのことで「LDとAW、どっちが好きですか」などと言っていたとは、本質を理解していなかった自分が恥ずかしいし、他人の言葉をうのみにして踊らされていた自分が悔しいのです。
 「そんなこと最初に気が付かないオマエが悪い」とは言わないで下さい。幸いなことに私は、ターン数や日付を見ただけで史実での戦線の位置が思い浮かんだり、各作戦の開始日が指摘できるような「一線を越えた人々」とは違うのですから。
 AWの実際のプレイでは、評判通りに連合軍の前進は史実よりも速くなるようです。これは、敵軍の兵力も位置も一目瞭然のゲームの世界ではよくある話しです。オマハビーチから上陸した米軍が敵の居ないコモンに進撃しない理由など、ゲームの上では存在しないのです。
 この問題をデザイナーはまずい方法で解決しようとしたようです。ひとつは地形の変更。もうひとつは、ドイツ軍の足留めマーカーです。カーンの北方にこれだけのボカージュが存在するゲームを私は他に知りません。ボカージュでの戦闘では、平地よりも戦力比が二列分だけ防御側に有利になり、戦闘後前進は他の地形の半分、それに加えて足留めマーカーも置けるのです。足留めマーカーは、分遣部隊を表わすのか、遅滞戦術を表わすのか、根拠がはっきりしない上にデザイナー自身もテストが不十分だったかもしれないと示唆しているのですが、プレイに無視できない影響(精神的なものも含めて)を与えるものです。
 この二つの処理のお陰で、幾分連合軍の進撃は遅くなりはするのですが不満を感じるゲームになっていることも事実です。
 ここまで記事を書いてきて、最初の思惑とは逆にAWの不満な点ばかり指摘してしまいました。では、丸一日プレイして実際の二日分すら進まず、ヒストリカルな展開の望めないビッグゲームをプレイする価値は本当にあるのでしょうか。
 AWの価値は大別して二つあると思っています。
 ひとつは、戦術的な部隊運用が求められている点です。ゲームスケールと部隊規模のバランスについてはデザイナーにもプレイヤーにも主張や好みがあることでしょうから、ここではコメントは控えておきます。AWでは、大隊を中心としたスケールに分割した中隊を組み合わせる部隊運用(スタック)とそれによる諸兵連合効果の表現、攻勢維持に必要な再編成のためのローテーションの確立、砲兵、空軍、海軍による支援を有効にするための大局観、といった本来どのゲームにも必要とされる要件が、より重要性を増して必要とされているのです。
 ビッグゲームのプレイではAWに限らずあまりターン数が進まないことがほとんどです。多人数を必要とするために、熟練していないプレイヤーが参加することもよくあるでしょう。広いマップの上にズラリと並んだユニットを眺め、「自分もこのプレイに参加しているんだ」と感慨にふけるのも良いでしょう。
 しかし、どんなゲームでも、システムを理解してそれを使いこなせたときの喜びの方が遥かに大きいのではないですか?
 AWは、作戦面だけでなく戦術面でも研究する価値が大きく、奥の深さを感じるゲームなのです。システムに踊らされているだけだと批判されてしまうかもしれませんが、目標とする敵のスタックに合わせて、自軍の攻撃力が最大限に発揮できるような部隊編成を考えるのは、苦痛でもあり、楽しみでもあるのです。
 それは、私にとっては他の欠点に目をつぶることができるほどに評価できる点なのです。
 AWのもうひとつの価値は上陸戦闘の再現できる点です。
 「作戦変更の余地のないサイコロゲーム」という批判があります。確かにそのとおりで、デザイナーの判断した成功率にしたがって行なうしかない単調な作業かもしれません。しかし、上陸と空挺降下にこれだけこだわっているゲームは他にはないのです。こういった「単調な作業」ですら自分で行なってみたいと思う私のような人間もいるのです。
 別の角度から見れば、ひとつめのウリよりもこの上陸段階の方がAWらしさであることが分かっていただけるかもしれません。
 AWのデザイナーズノートによれば、AWの制作は「ラインの守り」(以後WR)のノルマンディー版を望む声から始まったということです。

 AWの目指した目標を以下に示します。
1.WWIIの大隊レベルでの行動と戦闘の再現
2.上陸の中隊レベルでの再現
3.内陸侵攻時の戦略的選択肢の呈示
4.空・海軍の重要性の再現

 1.の解答がWRのシステムの流用であり、2.の解答が上陸段階ルールの新設です。3.はスケールから考えてAWでは再現できていないと思うのですが、デザイナーは補給の制限で表現できたと考えているようです。4.は当時は新しい発想だったのかもしれませんが、現在の基準で考えれば特に不満も感じない形で処理されています。
 WRのシステムの流用が大前提としてあったと言われては、それについて批判することもできなくなってしまうのですが、AWのゲーム展開に対する批判の解答はここにあるように思います。
 先程私は、このWRから発展してきたシステムを褒める記述をしました。私にとっては、AWの制作を望んだ人々と同じように「ノルマンディーもの」でこのシステムだから余計に好きだということも付け加えておきます。このシステムがAW向きであったかどうかは議論の余地のある問題ですし、流用されたといっても変更された点もかなりあり、WRとは全く違った印象を受けます。ゲーム紹介の記事の中には「コルスンポケット」も含めて同じ系列のゲームと呼ぶものもありますが、その場合にも評価の対象からは当然上陸段階ルールは省かれているわけです。
 このことから考えても、AWの命は「作戦変更の余地のないサイコロゲーム」である上陸段階にこそあると思えるのです。
 WR並みのルールを覚えた上で、ほんの数ターンしか使用しない上陸段階ルールを覚えることは、プレイしようと思わない理由としては十分なものかもしれません。しかし、上陸段階から内陸侵攻へと移るこの一点こそがAWの命だと考えれば、その苦労も報われるというものではないでしょうか?
 意欲の出てくるような話しをもうひとつ。
 ゲームに登場する兵力ですが、連合軍側が初日から使用できるのは米軍・英軍共に六個師団ずつで、その後の増援は米軍が二日で一個師団のペースで五個師団受け取り(他に二個師団あり)、英軍は七日目から九日目まで一個師団ずつ受け取るだけです(他に二個師団あり)。ドイツ軍も六日目の第二裝甲師団でほぼ出揃い、その後は、65ターン目に歩兵二個師団程度、最後の四日間にSS四個師団という増援の状況になります。  このことから、実際のプレイの上では二十数ターンでドイツ軍の増援は出揃い、連合軍は増援の師団には大活躍などの過度の期待は持てないことが推測されます。膠着状態になってからの一進一退が好きな人以外は、20から30ターンのプレイで十分にAWを堪能できると思うのです。
 結論として、皆さんにもAWは「ノルマンディーの戦い」のゲームではなく、「ノルマンディー橋頭堡」のゲームであるという認識(諦め?)を持ってプレイの選択肢の中に入れておいて欲しいと思うのです。
 上陸初日を言い表わした「ロンゲスト・デイ」という呼び名は、LDよりもAWにこそ、ふさわしい呼び名だと思うのです。

トップへ戻る 電脳PiCARO 目次へ戻る