奈良における審査請求事件について 「住所不定」を理由に保護申請を却下
弁護士 北岡秀晃
はじめに
「奈良でも生活保護の事件をやれ。」突然の電話で、竹下弁護士からこう言われ(命令された)たことがきっかけでした。相変わらず強引なおっちゃんやなと思いつつ、杉本さんという人から事情を聞き取り、審査請求を行うことになりました。もちろん初めての経験でしたが、今ではこういう機会を与えられたことを感謝しています。
事件の概要
杉本さんは、日給月給の建設作業員として働いてきましたが、右眼の高血圧性網膜症のため稼働不能となり、本年一月一三日付で、奈良市長に対し、生活保護の申請をしました。
ところが、奈良市長は、杉本さんの居住が飯場であり、飯場は居住地ではないとの解釈に立って保護申請を却下しました。それも申請受付から二週間が経過した後のことです。ちなみに杉本さんはその後病院に入院することになり、その時点で現在地保護が開始されましたが、この決定通知も二週間を過ぎてなされています(不明朗なことに、通知書の日付自体は二週間内の日付となっています)。
そこで、保護申請却下処分の取消を求めたが今回の審査請求です
飯場が居住地に当たらないという理由は、何ら根拠を有するものではありません。仮に居住地に当たらないとしても、現在地保護を開始すれば足りるはずです。しかも、杉本さんは二年以上も引き続き同一宿舎に居住しており、固定した部屋を保有しており、ここを生活の本拠としてきたという実態があります。従って、この実態を無視した却下処分は明らかに違法であるというのが、審査請求の理由でした。
審査請求の結果と成果
ところが、奈良市長は、審査請求に関する反論書も提出せず、口頭意見陳述の日程が入らないうちに、保護申請の却下処分自体を取り消しました。そのため、審査請求も原処分が存在しない以上請求の利益がないとして却下されました。
結果としては、却下処分が取り消され申請にかかる保護が開始されることになったのだから、満足すべきものと思います。しかし、実態を無視した処分を行っておきながら、不服申立をされるやいなや、一切の反論をせず、自ら行った処分を取り消した奈良市長の姿勢には強い憤りを覚えます。それならどうして申請却下したのか。無責任な市の対応には、本当に腹が立ちます。そして、その憤りをぶつける場所を取り上げられ、完全燃焼できなかったことが、本当に残念です。
今回の杉本さんの事件を通じて生活保護行政の病的一面を垣間見ることができました。怒りを次の機会にぶつけて燃焼したいと思います。
変臭香気
▼近頃、ヘンなことが多すぎます。梅雨入りかと思いきや、真夏のような季節。そして、季節はずれの台風の本土上陸。地球の反対側でのエルニーニョ現象の結果とか。▼立法機関の役割を放棄した今年の通常国会議論の分かれる重要法案が次々と成立。トコロテン国会とも呼ばれました。自然も、政治もどこか”異常“
を感じます。▼なにか”うっとおしい”季節を吹き飛ばすような話題が欲しい。そうや、九月七日に横浜に行って、生保裁判連の第三回総会でいろんな思いをぶちまけよう。夜の中華街も、全国の仲間も待っている。是非ともお忘れなく。
(編集部 や な ぎ)
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