本1998/12

1998/12


☆☆☆☆★「塗仏の宴〜宴の始末」京極夏彦/講談社
京極夏彦の作品はどれも長いけれども、この本はその中でも、上下巻を合わせると最長の長さのものだった。今回のテーマは「バーチャルリアリティー」を扱ったもので、人間の記憶とアイデンティティーの関係のような話しが中心になっている。
京極夏彦が作品を書く時のパターンとして、最初に大きな風呂敷を広げて、それをどんどんと大きくしてゆき、最後の最後で一気に解決をさせるのだが、今回は風呂敷を広げすぎた。上巻で様々な謎や伏線を潜ませて、「これが一体どのようにして解決されるのだろう」と楽しみでしかたがなかったのに、その結末はあまりに拍子抜けするものだった。

☆☆☆★★「キッチン」吉本ばなな/ベネッセ
 誕生日に、妹からもらって初めて読んだ。独特な世界観と独特な登場人物。とても素晴らしい雰囲気を作り出してはいるけれども、でもこのキャラクターに共感を持つというのは無理がある。人は吉本ばななを評して文学の枠を通り越した自由な文体がいいという。この、思考をそのままなぞったような、思いのままの文体は確かに明らかな特徴であるけれども、でもこれを長所ととってしまうと、それこそ何でもありということになってしまうのではないだろうか。文学は、メッセージを他人に伝えることが第一義であるにしろ、やっぱり稚拙な文章は稚拙な文章として認める他はないのだと思う。

☆☆☆☆☆「大賀典雄語録」ソニーマガジンズ
 山崎主任に薦められて読んだ本。ソニーマガジンズは、関本忠宏や中内功など各界の経営者の語録を出版しているらしい。
 この大賀という人は、「経営者は先天的な才能9割努力1割」とか言っている人で、語録にも所々そういった「選ばれた者」たる自負が垣間見える。そのぐらい自信家でなければ経営者などつとまらないのだろうけれども、それじゃーこの本の読者の立場はどうなるの、と思ってしまう。
 「経営者に必要なのは、人に命令が出来、自分の信じることを他人に説得できる話術」というのは、納得がいく。説得力は経営者にとってほんとうに大事な資質なのだろう。

☆☆☆☆☆「MCSEスタディガイドWindowsNTWorkstation」Syngress/アスキー
 MCP試験を受けるために図書室から借りて来た本。まともに買うと30000円する。MCP試験に受かるためにはこの本一冊覚えなければダメとかいうのだが、こんな本読めたものではない。直訳だらけで意味がわからないし、全然読む人の立場で文章を書いていない。辞書的な使い方なら、まだ使い道はあると思うのだけれども。
 試験料で高い金をとって、さらにこんなに高くて意味のない本を売るのだから、マイクロソフトの殿様商売もとどまるところを知らない。結局、MCP試験は落ちた。

☆☆☆★★「吉祥天女」上・下巻吉田秋生/小学館文庫
 吉田秋生の作品にしては珍しく、主人公にあまり魅力を感じなかった。テーマとしては、「女の攻撃性」というようなものらしいけれども、どうもそれもピンとこない。この作品の主人公は、脇役の2人の女の子であるのかも知れない。最後の、葬式のシーンはとても良かった。作者の意図がそこにあるのだとしたら、とても深い味があると思えるのだけれども・・。

 未読了 「アップル薄氷の500日」ギル・アメリオ/ソフトバンク

 未読了 「あなたのサービスが忘れられない」中谷彰宏/三笠書房

 未読了 「クレームはラブレターだ」中谷彰宏/PHP

☆☆☆☆☆「出会いに一つのムダもない」中谷彰宏/ダイヤモンド

☆★★★★「花のあすか組」外伝1〜2巻
 本編はあまり面白くもないのだけれども、この外伝は面白い。この作者はキャラクターの描き分けがものすごく上手くて、それぞれの人物の個性や人間関係、性格設定が微妙なところまでよく考えられている。この面白さは、良く出来た大河ドラマや、三国志のような長編小説に通じるものがあるのかも知れない。

☆☆☆★★「サラリーマン金太郎」17巻本宮ひろし/講談社
 この手のマンガは、最初はテンションが高くとも巻を重ねる毎にそれが続かなくなって下火になってくるものなのだけれども、この作品はそれがない。  面白いだけでなく、それを持続させることが出来るというのは、それだけですごいことであると思う。
☆☆☆★★「鷲の奢り」服部真澄/祥伝社

 未読了 「コンピュータの時代を開いた天才たち」デニス=シャシャ/日経BP

☆☆☆☆★「ゴーマニズム宣言」5巻小林よしのり
 思想家という立場の人間にとって、マンガが描けるとしたらそれはものすごく強力な武器だ。空手家がナイフを持つようなものだ。
 この小林よしのりという人は、思想家としては二流なんではないかと思うのだけれども、あまり上手くないにしてもマンガという武器を持っているゆえに、相当な影響力を及ぼすことが出来るのだと思う。
 別にそれはルール違反ではないし、逆に、思想の表現にルールなどないんだということを知らしめるためにはとてもいい前例を作っていると思う。ただ、純粋にその主張だけを読むと相当に偏っている部分があって、個人的にはあまり好きではない。