2000/02


 ★★★★「FreeBSDを使ったインターネットサーバの作り方」菅沼真理/カットシステム
 筆者は、UNIX初心者の視点から書いたと言っているけれども、FreeBSDでサーバを運用する際に必要となることを隅々まで詳しく説明していて、しかもものすごく内容がわかりやすい。巻末のインストールのフローチャートやコラムの内容も、知りたいと思う内容がちゃんと補足されていて、良く出来た本だった。

 ★★★★「わたしは貴兄のオモチャなの」岡崎京子
 「谷君ずるいよみんなにいいとこ見せようとしてさあ結局ズルじゃん
あたしよくわかるもん あたしもそーゆーことあるから でもわかっちゃだめだなあ わかっちゃうとラヴリーになれないんだよなあ」(p.79)

 4本立ての短編集。3本目の「I wanna be your dog」は特に、とてもいい。
 この本を、本屋で売っているのは見たことがないのだけれども、貸し本屋でたまたま見つけた。だから知名度はそんなに高くない作品なんじゃないかと思うけれども、こういう人知れず埋もれていた作品を発見したときはかなり嬉しい気分だ。
 この本は、読み終わった時にしみじみと悲しい。読み終わった後にそういう悲しさを感じる作品というのは、ものすごく少ない。何だかわからないけれども、岡崎京子という人は、そういったよくわからないものを形にするのがものすごく上手い人だと思う。

 ★★★★「誰にでも出来る恋愛」村上龍/青春出版社
 「今までは楽だった。男だったら大企業か官庁に、女だったら大企業か官庁にいる男に、それぞれ庇護を受ければよかったのだ。のどかな時代だったわけですね。今は、自分で自分の生き方を決める時代になりつつあって、基本的にはいい時代だが、面倒なことが増えたし、勉強や努力をしてこなかった人は、すぐに自分の限界もわかってしまうようになってしまった。だいたい自分はこの程度だなと、ヘタをすると小学生くらいで決められてしまう。二十歳を過ぎて、就職したりしてしまうと、だいたい自分の一生が見えてしまう。」(p.157)
 女性向けの雑誌「SAY!」に連載していたものらしく、口調はかなり柔らかめ。「誰にでもできる恋愛」というのは逆説的な言い方で、実際には「恋愛は誰にでもできるものではない」ということを伝えようとしている。
 村上龍という人は、一見、感覚で勝負をしているような感じがするけれども、実際にはものすごく色々な情報を集めて、それを丹念に考えて、理詰めでモノを書いているんじゃないかという気がする。だから、理想論に過ぎるようなこともあって、「おまえも含めて本当にそんなことが出来るヤツがいるのか?」という疑問もわくけれども、言っていることはどれもまっとうな意見だと思う。

  ★★★「ジョジョの奇妙な冒険」48〜62巻荒木飛呂彦/集英社
 「『運命とは自分で切り開くものである』と ある人はいう・・・  しかしながら!自分の意志で正しい道を選択する余地などない『ぬきさしならない状況』というのも人生の過程では存在するッ!」(55巻p.177)
 「そしておまえの行動が真実から出たものなのか・・・・・・それともうわっ面だけの邪悪から出たものなのか?それはこれからわかる  あんたははたして滅びずにいられるかな?ボス・・・」(62巻p.79)

 第5部は、主人公のジョルノ・ジョバアナの影がどうも薄い。主人公の味方達も敵も個性があまり強くなくて、どうも印象に残らない。特に、第四部まではどれも魅力的なキャラクターだった、敵のボスが今イチぱっとしない。
 スタンドの、デザインは毎回素晴らしいと思うのだけれども、スタンドそのものの能力はもういい加減出尽くしたような感じがして、話しの展開に無理が出ることが多くなってきた。ジョルノのスタンドに「傷を治す」能力が加わってしまったのは、第4部の助介と重なってしまって、それがちょっとがっかりだった。「傷を治す」とか「時間を止める」とかの強力な能力は、誰か一人だけが特別に持っていなければ話しがつまらなくなってしまうと思う。最後だけはうまいことまとまったけれども、全体的な完成度としては、第5部は今までで一番低い気がする。

  ★★★「UNTITLED」岡崎京子/角川書店
 「でもその時ぼくちん少しさみしかったんだよ
吉岡とはその後めんどくさいことになったけどここでは言わないよ
超ダサの話だもん
小学校の時ならいじめてた女にこんなメにあわせられるなんて オレも落ちたもんでした」(p.118)

 短編のオムニバス。「万事快調」は、3人兄弟のそれぞれの視点から一話ずつ分けて構成されている作品で、これはとても良く出来ている。こういう、ある話しでは脇役だった人間が他の話しでは主役になる、という構成はすごく好きで、それが上手く作られているこういう作品は感心してしまう。

  ★★★「FreeBSDで作るOCNインターネットサーバ」ハイパーウェア/ソフトバンク
 OCNエコノミーを利用することを前提にして書かれたFreeBSDサーバの本で、ちょっと冗長で読みにくいけれども、デザインが良くて、様々な設定の仕方が詳しく書かれていた。

  ★★★「web製作の仕事術」上木真一/MYCOM
 商業用ホームページの製作に関する事柄が網羅されていて、とてもコストパフォーマンスが高い本。役に立つ情報を惜しみなく出していて、好感が持てる。

  ★★★「グリーンヒル」1巻古谷実/講談社
「え・・・FYZ1500WR・・・・・・・・」
「そんなバイクね−−−な−−−」(1巻p.25)

 かなり、「稲中」と作風が変わった。

  ★★★「HTMLタグ辞典 カラー版」アンク/翔泳社
 HTML本のデファクトスタンダードと言われているだけあって、かなりわかりやすい内容だ。他のHTMLの解説本の多くが白黒ページである中、カラーで描かれたページというのはやっぱりそれだけでも格段に見易さが違う。

   ★★「不機嫌な果実」林真理子/文藝春秋
 「麻也子は今まで、人から強く嫌われたり恨まれたりしたことがないので、そんなものを背負う人生などまっぴらだと思う。結局この期におよんで、麻也子は恐がっているのである。」(p.212)
 なんか、主人公のずるさや考え方がけっこうリアルで、実際にあってもおかしくないような話しだ。現実には小説以上にもっともっと複雑な夫婦関係や家族関係がいくらでもあるんだろうけれども、だからといってそれを小説として表現が可能かといったら、きっと難しい問題で、それをリアルに見せるにはかなりの力量が必要なんだろうという気がする。

   ★★「MONSTER」13巻浦沢直樹/小学館
 続きを楽しみにしていたのに、話しの内容的にはあまり進まなかった。ヨハンが出ないと、あまり面白くない。この先ちゃんと話しが進んでくれるのかどうかが、この13巻を読んでいると心配になる。

   ★★「スタイルシート辞典」アンク/翔泳社
 HTML辞典のスタイルシート版。あえてスタイルシートだけを別冊にして出したほど濃い内容とは思わないけれども、今のところスタイルシートについてこの本以上に詳しい本は見当たらない。

   ★★「豹頭王の結婚」栗本薫/ハヤカワ文庫
 「わけもなくいっそう冷たい気持ちになることで、自分を守るしかなかったのだった。だがそんなイシュトヴァーンの心のはたらきを読み取れる人間がこの時代にいたとしたら、せいぜいアルド・ナリスくらいなものだっただろう。」(p.232)

    ★「pink」岡崎京子/MAG COMICS
 「このBランチ(ハンバーグ・魚フライスパゲッティ添え・ライス・コーヒー付き800円)て私たちみたいじゃない?
毎日たいした仕事もないし毎日そんなに代わりばえもしないし毎日良くもなければ悪くもない退屈なメニュー
そんなかんじがそっくり」(p.153)

 人は色々欲しいものがあって、ドラマや雑誌に載っているようないい暮らしがしたくて、だからといってそんなものが普通のOLに手に入るはずもなくて、たいがいの人はそこで現実を見て諦めてしまうのだけれども、諦らめ切れない人もいるという話し。
 ちょっと話しのテーマがわかりにくかったり、全体の構成が曖昧としているけれども、伝えたいことや、苦しさはよくわかる。
 男は、仕事で夢を手に入れられるかも知れないという希望があるけれども、女の人はどうするのだろう。若さを少しずつ失っていってしまった時、その後に一体何が残るのだろうという不安はものすごくあるのだろうとおもう。そういう不安に順応してしまう人よりも、不安に耐え切れなくなってしまう人のほうが、普通の神経なんじゃないかという気もする。

     「死の泉」皆川博子/早川書房
 「ナチズムは宗教以上に宗教なのだ。ユダヤは選ばれた民だとユダヤ教徒は言う。真に選ばれた民族は、アーリアンなのだ。新しい最高の人種による民族共同体を創造する意思。それが、フューラーによるナチズムだ。」(p.355)
 かなり、わかりにくい。そして、かなり倒錯している。

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