2000/01


★★★★★「バガボンド」5巻井上雄彦/講談社
 「一振り一振りが まるで お前の命そのものをぶつけられてるような−−−」
 もはや、本による表現力を超えて、映画のレベルをも超えているように思える。作者が云っている通り、この作品は単なるエンターテイメントだ。それ以上のテーマは掲げていないし、目指してもいない。でも、エンターテイメントに徹しているからこそ、読者を惹きつける強い力が生まれるものなのだと思う。この内容の濃さを、この先も持続させられるのかどうかが、一番気になるところだ。

 ★★★★「ベルセルク」1〜18巻三浦健太郎/白泉社
 「…でも男なら、その二つを手にする前に…もう一つの貴いものに…恐らく出会っているはずです。誰のためでもない、自分が、自分自身のために成す、夢です。」(6巻 p.125)
 「これは戦です。戦場に観覧席はありません。」(8巻 p.122)
 「そして今 あなたの路地裏の道は途切れた」(12巻 p.186)
 3巻までが第一部で、その後10巻分くらいが第二部になっており、その後は2巻に1部ずつくらいのペースで進んでゆく。世界観としてはファンタジーの中世世界をそのまま取り入れていて、その上に構築した舞台設定はものすごくしっかりしている。雰囲気は「バスタード」の絵をもっと奇麗にして、緻密にしたような感じだ。
 第二部が、とにかくすごい。導入としての第一部があり、その前にあった出来事を説明するような形で第二部が始まってゆく。絵自体もうまいけれども、現れる登場人物の描き方や特徴のつけ方が、更にうまい。残酷なシーンが多いのはあまりうけつけないのだけど、それを避けて通れないテーマが多くあるために、この作品には不可欠なものなのだろうという気がする。

 ★★★★「ヒュウガ・ウィルス」村上龍/幻冬社文庫
 「ジャン、何かを見つけなさい。わたしから音楽をとったら身勝手でだらしないただの怠け者だよ、音楽さえやっていれば徹夜も平気だし、すぐ元気になれるし、自分のことを嫌わないでも済む。」(p.228)
 ものすごく、状況描写が細かくて、ベースとなる生物や兵器に関するリサーチも相変わらずハンパなクオリティーじゃない。でも、それらはすべて作品の舞台裏に過ぎず、そういったすべての舞台設定は、たった一つのテーマを表現したいがために読者を導く長い長い道のりなのだと思う。
 作品で言いたいテーマは、ものすごくシンプルだ。作品の舞台はごたごたとしていても、テーマだけはものすごくわかりやすくストレートに表現している。それだからこそ、とても強烈に読者のインパクトとして残ってくる。すごいと思う

 ★★★★「ジョジョの奇妙な冒険」37〜47巻荒木飛呂彦/集英社
 「そう…ところであんた…最近、背のびた?」(47巻 p.58)
 延々と惰性のように続いてゆく展開に飽きて、途中で読むことを放棄してしまった第四部だったけれども、改めて通して読んでみると、意外にも面白かったことに気づかされた。
 第四部は、人の心の弱さ、をテーマにして描かれたものであるのだという。だからかどうかはわからないが、以前の「ジョジョ」とは大幅に描き方が違う部分があちこちにある。長い連載ものの常で、いい加減な構成になってきたと思っていたら、実際にはよく練られた物語の構成だったと気づく。今回の悪玉である吉良吉影の描写は、特に面白かった。第三部までの高いクオリティーには若干届かないにしても、充分に面白い第四部だと再発見をした。

  ★★★「修羅」栗本薫/ハヤカワ文庫
 69巻目の「グイン・サーガ」。ここに来て刊行ペースは早いまま、どんどんと発売が続くけれども、内容は衰えるところを知らない。先が読みたい、と思いつつも1巻ずつしか先に読み進めないもどかしさが、新刊が発売される度にある。
 毎巻毎巻が、急展開という感じだ。70巻が2月に、71巻が3月に刊行されるという。恐ろしいペースだ・・。作者もノリにノっているんだろう。

  ★★★「赤い楯〜ロスチャイルドの謎」I巻広瀬隆/集英社文庫
 「わが国の銀行が全世界のランキングで上位を占めたと言っても、アメリカやヨーロッパの銀行家はケイマン特急でスイスに金塊を蓄えているのだから、比較にならない。表の帳簿と裏の帳簿を混同しないほうが賢明だろう。土台、われわれと欧米人では、生活のレベルが違う。」(p.362)
 「保険会社は、事故や事件の真相をつかまなければやたらと保険金を支払わなければならないため、秘密警察をはるかにしのぐ情報収集力が求められる。」(p.437)
 これを調べるのに、どれだけの労力が必要だったのだろうと、ただ呆然とするしかない資料の山からこの作品は作られている。毎ページ毎ページの情報量や、示される系図の数が多すぎて頭がついていかないのだけれども、こうたてつづけに出してこられると、すごいことが世の中の裏では行われているのだ、ということだけは漠然とわかる。
 どの章もある時代や地域をテーマにして、見事に話しがまとまっている。この作者の驚異的な情報収集力と、分析力だと思う。ただ、「私物国家」のときにも思ったことなのだけれども、これだけの情報をいっぺんに示されて、一般の人間の理解力がそれについてこれると作者は思っているのだろうか。この膨大な系図を読み解くヒマと興味があるのは、一部の専門家だけではないかと思う。ここまでつきつめられると、結局よくわからないというのが、感想だ。

  ★★★「HTMLテクニック事典」佐藤信正/ナツメ社
 しばらく本を読んでいなかったうちに、HTMLも随分と変わったのだと驚いた。「font」タグが将来的に廃止される方針で、スタイルシートが今の主流なのだという。今まで作ってきたページの根底を覆されるような気分だけれども、考えてみれば、確かにスタイルシートを使ったほうがページの作りやすさは向上する。早く、慣れなければいけないのだと思う。
 それにしても、今のDHTMLの、InternetExplorerとNetscapeの表示の違いは煩わしい問題だと思う。個人的にはInternetExplorerしか使っていないので、Netscapeの表示のされ方はわからない。でも、IEでしか使えないVBscriptなんて使おうとは思わない。早いこと統一されないと、覚えた知識が無駄になりそうでイヤな感じだけれども、無駄になることを覚悟の上で勉強を続けないと、あっという間に取り残されてしまうのがコンピュータの世界なのだろうと思う。

  ★★★「PERSON OF THE CENTURY」 TIME
 20世紀の重要人物を特集した、「TIME」の増刊号。第一位は、アインシュタインだった。その後は、ガンジー、フランクリン=ルーズベルトと続くけれども、あまり面白い内容の文章ではなかった。むしろ、「何故ヒトラーはPERSON OF THE CENTURYに選ばれなかったか」なんていうコラムがあって、そちらのほうがよほど面白いことを書いていた。
 この2000年間での「世界最悪のファッション」は、日本の「お歯黒」だそうだ。

   ★★「花のあすか組」7〜13巻高口里純/角川文庫
 「安全パイだぜ、あんたの大好きな『可愛い』ってのは。自分がかなわないって思うもんはうけつけねえ、そういう都合のいい仕組みの事を言うんだよ。」(7巻 p.207)
 登場人物がやたらと多くて、大河ドラマ的な面白さがある。人間関係や話しの設定を理解するのがまず一苦労なのだけれど、それらがすっぽりと自分の中に入ってしまうと途端に愛着がすごく湧いてくるんじゃないかと思う。何回も繰り返して読んだ時に味が出てくるタイプの作品なのだろう。
 作品のメインテーマは勧善懲悪の活劇ものという感じで、サブテーマは登校拒否生徒とかいじめ問題のようだけれども、サブテーマはかなり今イチな出来だ。外伝は本編と関わりをもたせながらちょっと変わった人物や角度から話しが出来上がっていて、意外に外伝のほうが本編よりずっと面白かったりする。

   ★★「サラリーマン金太郎」22巻本宮ひろ志/集英社

   ★★「ギャラリーフェイク」18巻細野不二彦/小学館
 「"美"を売るなんざおこがましいぜッ!!そんなセリフを吐いていいのは百年、いや五百年に一人の天才だけだッ!!」(p.152)

   ★★「新・男樹」1〜3巻本宮ひろ志/集英社
 本宮ひろ志の主人公は結構似たりよったりだけど、この作品では何かちょっと違う。他のマンガとの共通点では、ケンカが強かったり学ランだったりヤクザの息子だったりで、そこいらへんはありきたりのパターンなんだけれど、いいやつなんだか悪いやつなんだかよくわからない。「サラリーマン金太郎」よりこっちのほうがめちゃくちゃさで、上をいっている。これからの展開が全然よくわからない。

    ★「2000年間で最大の発明は何か」ジョン・ブロックマン/草思社
 「この33年に8回という周期は、実際の一年の平均日数により近くなること、春分が24時間以内に保たれること、の二点において優れている。」(p.73)
 この2000年間で発明されたものの中で、何が一番優れていたかを、各界の著名人が論じる。各界の著名人といっても、自分が知っている人はほとんどいなかったけれども。どの人も、いかにユニークな意見を論じるかというところに焦点が言ってしまっていて、意見そのものがあまり面白くない。意見のなかには、「33年周期暦が最大の発明」と言っているものもある。ここまで突飛だと、面白い。
 一般的な意見としては、「グーテンベルグの活版印刷」が一番、ということに落ちつくようだ。「インターネット」という説も多いけれども、これはつい最近出現したものであるために、今正確な評価が出来るのかどうか、ちょっと疑わしいと思う。

    ★「陽だまりの樹」1〜3巻手塚治虫/小学館文庫
 緒方良庵と、万次郎を主人公にした幕末の話しで、幕末の有名人物が出てきたりして設定的にはとても面白いと思ったのだけれど、なんだか読んでいて疲れる。話し自体が物語調で、あまり起伏がないからじゃないかという気がする。
 これはこれで面白いと思うのだけど、個人的には「火の鳥」のように、読んだ後に 何か心に残るような話しが好きだ。この作品は、あまりそういうものが伝わらなかった。

    ★「あずみ」14〜16巻小山ゆう/小学館
 どんどん、話しが暗くなっていく。家康が死んだ後、どうやって話しを続けようというつもりかさっぱりわからないけれども、とにかく出てくる登場人物はかたっぱしから死んでいき、もう残った人物もだいぶ少なくなってしまった。いきあたりばったりで描いているようにしか思えないのだけれども、ちゃんと完結してくれるのかどうかが心配だ。

     「蒼天航路」15〜18巻王欣太/講談社
 最初の頃のめちゃくちゃさがどんどん薄くなってきて、何だかとても退屈だ。あまり内容を練らないまま、絵の勢いだけで乗り切ろうとしている感じになっている。三国志を題材にしている時点で、話しの骨格を作る作業である程度手を抜くことが出来るからこそ、話しの中身について手を抜いてはいけないと思う。
 日本人の感覚として、「この武将はこういう人」という概念があって、それを打ち破っていくことでこの作品は成立しているけれども、そこで止まってしまってはB級の変わりだねマンガで終わってしまうと思う。もう一味加わってこそ面白さが出てくるはずなのに、そういう勢いがもう感じられない。

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