なぜ舞台芸術を見せるのか
 子どもにとっていちばん重要なものはファンタジーであり、想像力です。子どもは自分の豊かな想像やファンタジーにひたるときが一番幸福なのです。そしてそのような幸福感をもてば、人間に対する信頼、明日を生きる力、未来への希望をもつことができ、苦しいときにあやまった道に入り込むことを防ぐ支えにもなりうるものです。貧困、虐待、遺棄、内乱などで傷ついた子どもたちがいるならば、彼らこそが充分に癒され、壊れた夢や人間性への信頼をもう一度回復してもらわねばなりません。それは彼らのこれからの人生を豊かにしていくためにも必要なことです。

 そのためには子どもにとって舞台芸術はもっとも有効な手段の一つです。とくにその機会のない「夢を織る家」には何としてでも行く意味があると思われます。

 市民の側での信頼性醸成をめざして

 今回いく予定の劇団のみなさんはたんに芝居を見せることだけを考えているのではなく、子どもたちと遊び交流することを目指しています。このプロジェクト自体もまずは大人がいって芝居を見せることから始まって、最終的にはタイと日本の子どもたち同士の相互の交流ができることを視野に入れています。

 戦争や拉致などおどろおどろしい事実や言葉が増幅される昨今、人々の敵対心や憎悪もそれだけ増幅されています。しかし、一度顔を合わせ笑顔の中に交流をした経験があれば、たとえ国同士がいがみ合っても、その人を憎み、殺すことはできなくなるのが人間なのです。日本の子どもたちがタイの子どもたちと交流をしたときには、おそらくその子どもたち同士が大人になって憎みあうという可能性はなくなるでしょう。演劇を手始めにタイの子どもたちと交流を始めることは、国際平和をめざしての市民の側での信頼性醸成のためでもあります。

 いろんな人々が世界の各国の子どもたちと交流をして、国際ならぬ「民際」の連合をつくることができれば、それは市民の国際連合として、平和交流の礎を築くことに一役買うかもしれません。私たちはささやかではありますが、まずはタイの子どもたちとの交流から、明日の子どもたちがつくる平和な時代を夢見て、この試みを始めたく思うのです。

 今後の交流について

 タイはASEAN諸国では経済的に豊かな国に入り、都市部の高度成長は顕著ですが、まだまだ郡部との貧富の格差は大きなものがあります。日本円ではわずかでもタイ国内では大きな価値をもち、支援としては充分なことができます。組織的に小さな「夢を織る家」は子どもたちの食費、施設費などまだまだ援助を必要としています。ここを中心に経済的な支援も今後は考えています。

 タイの子どもたちは経済的には厳しい環境におかれていますが、別の意味では自然や地域社会、子ども社会の存在など、日本の子どもたちが失いつつあるものをもっています。日本の子どもたちと相互に行き来して、互いの経験を交換しあうことはお互いにとっても大きな意義があります。最終的には、子ども同士が相互に交流しあうことをこのプロジェクトの帰結にしたいと考えています。