ブラック・ボックス―子どものためのインスタレーション
清水 満

 香港に「進念ー二十面体」という前衛的な芸術家集団があります。マルチメディアをフルにつかった舞台芸術などを行いますが、この集団が子ども向けにやっている教育的な芸術ワークショップが「ブラック・ボックス」です。

 これは真っ黒な50センチメートル程度の立方体の箱を使って、その中に自分の好きなものを入れたり、絵を描いたり、人形や切り紙を入れたり、いろいろなものを置いたり並べるものです。黒い箱のままごとごっこをイメージすればいいでしょう。それをみんなでつくったり、一人一個でやったり、テーマを決めたり、自由に思うとおりにしたりといろいろなバリエーションをもって行います。文字通り想像力で何でもあり、何でも入れられ、何にでもなる「ブラック・ボックス」なのです。

 そしてできたそれぞれの箱を広場や壁に配置して、インスタレーションとするのです。たくさん集まると大きなモニュメントにもなりますし、照明やほかのオブジェと組み合わせて前衛的なインスタレーションにすることもできます。とにかく、多様な展開が可能で、子どもの(あるいは大人の)想像力に応じて、無限の展開ができます。

 しかも、子どもにとっては、このような箱に並べるとか自分だけの秘密を箱に入れるというのは想像力を刺激する大好きな遊びでもあり、それが同時に芸術的な感性の萌芽にもなります。この遊びをした子どもたちは前衛的なインスタレーションを見ても「さっぱりわけがわからない」と思わずに、自然に自分たちの感性に近いものとして理解し、鑑賞できるようになります。

 誰にでもできるインスタレーションを構想していた私にとって、「ブラック・ボックス」はいわばそれを実現していたわけで、たいへん興味深いものでした。彼らを知ったのは、2003年9月のデンマークで、どちらもImage of Asia に招待されていたことからですが、デンマークにはすでにオーフスにブラック・ボックスの促進団体がすでにできておりました。子どものファンタジー育成に定評のあるデンマークですから、さすがに目の付けどころがいいです。

 日本では横浜の芸術家と交流があるそうですが、もっとみんなに知ってもらいたいと思っていたところ、私の話を聞いて九州・沖縄子ども芸術文化協会が「杷木国際フェスティヴァル」(2004年4月17-18日)に招いてくれました。

 当日は、デンマークで出会ったユエワイが来てくれて、子どもたちといっしょにワークショップを楽しみました。最初は一個のブラック・ボックスをみんなでつくり、その後は各人がそれぞれのブラック・ボックスを制作します。イメージを構想したり、できたものから意味を考えたりと、現代美術のエッセンスを自然な遊びの形で体験することができます。

 いってみれば子どものファンタジーをテーマに、デンマークと香港と九州がつながった一日となりましたが、これも協会の一つの役割と考えれば、それなりに意義があったと思います。

みんなでつくったブラック・ボックス
各人でつくったブラック・ボックス
どれどれどんなかなとのぞき込む
それぞれ考えたストーリー